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【 京都から今日をお届け】

2024年度 〜 夏の朗読祭り 〜

タイトル:しあわせのシロツメクサ
作:Kemmy   発表日 :2024,7,17
©️Kemmy Jasmine (約10〜12分)
朗読:Kemmy 
※朗読利用や朗読配信の場合は、作者まで事前にご連絡いただければ、著作権フリーにてご利用や改編フリーです。

『 しあわせのシロツメクサ 」

1905年明治38年の夏、時のローマ教皇
聖ピオ10世の命を受け、アメリカ人
ウイリアム・メレル・モーリスは
遥か東の島国、ここ日本に、キリスト教の
布教活動のため、英語の教師として
近江の国、学法近江中学校に赴任した。

そして、この学校には『早起きは三文の徳』と
『推しは推せる時に推せ』を家訓とする
平岡兄弟が通っていた。

兄の、平岡タカシゲは、大の甘党で
中学生ながらにもフランスの作曲家
カミーユ・サン= サーンスの組曲
「動物の謝肉祭の白鳥(はくちょう)」を
聴くような、おませな生徒だった。

対して、弟の、平岡ヒロシゲは、クラスいちの
粗忽者で、たいそうやんちゃな生徒で有名だった。

西陽がジリジリと、まるで腕を焦がすような
ある、夏の日の放課後。
兄のタカシゲは、橙色(だいだい色)のペンキに
塗られた、職員室のドアを叩いた。

(効果音:コンコン)

タカシゲ「モーリス先生。弟がちゃんと
英語の授業を受けるようにと、先生からも
よく言い聞かせてくれないでしょうか? 
今のままだと、弟はアルファベットすら覚えやしない。
何かいい方法は、ないでしょうか?」

モーリス先生も、このところ授業に出てこない
ヒロシゲのことが気がかりだった。
モーリス「Meの、授業をサボっている時は
Where is he ? 彼は何処にいるノデスカ?」と
兄のタカヒロに尋ねた。
タカヒロ「そうですね〜、それなら多分
この先の安土城の跡だと思います
あそこは高台で涼しいから。」と返事をすると
モーリス「OK Understood、Tomorrowの
授業を自習(じしゅう)としてMe が
そこに行ってミマスネ」と応えた。

翌朝の校舎の外は、手をかざさないと
目が開けられない程の、上天気だった。
遠くの八幡山越しに、モクモクと湧き上がる
入道雲がまるで、先生の行く手を
阻むように思えた。

先生は、首にかけた手拭いで、汗をふきふき
持病の膝をかばいながらも、ヒロシゲを探し
歩いて行った。

時折、琵琶湖の方角から田んぼを駆け抜けて来る
緑香る涼しい風が心地よかった。

しばらくすると、先生の丸い眼鏡のガラス越しに
麦わら帽子を被って、道端にしゃがんでいる
少年が見えてきた。

モーリス「Oh!Boy! Blaizing Heat !
こんな炎天下の中、Youは何をやっているんだい?」
背後から不意に、声をかけられた少年は
一瞬両肩を(ビクっ!)と動かした後
ゆっくりと振りかえって顔を上げた。
なんと、その少年はモーリスが探していた
ヒロシゲだったのだ。

ヒロシゲ「もっ、モーリス先生。。。
なんでこんなところに。。。」
モーリス「Oh My God ! You are Hirosige!
アナタこそ、こんなところにいて
授業はどしタン、デスカ?」と聞くと
彼は、屈託のない顔で、(見つかっちゃた!)
とばかりに、ペロリと舌を出してみせた。

その余りにも無邪気な彼の表情を見たからなのか
全ては、【夏の暑さのせい】なのかは
よく分からないが、先生はすっかり怒る
気力(きりょく)が削がれてしまった。

モーリス「Hey ! Boyところで、Youの手に
持ってイルものは、なんデスカ?」
ヒロシゲ「あ〜あ、これかい?
これはシロツメクサだよ。あっ先生には
クロ ウーバーって言った方が分かるかなぁ。
This is クロ ウーバー」

モーリス「I see クローバーね。You は
その葉っぱを、Now Eating ?食べるノウデスカ?」
ヒロシゲ「いやぁ〜先生、食べやしないよ。」
そう言うと、彼はその中のひとつを摘んで
先生の手にそっと渡した。

ヒロシゲ「これは葉っぱが、4枚生えている
特別なやつなんだぜ。
幸せを呼ぶ、四葉のクロ ウバーって言って
とっても縁起がいいんだ。」と彼は
自慢げに右の人差し指で、鼻先をこすった。
モーリス「Oh My Good ! ニッ・ポンでも
そう言うのデスネ!」と少し驚いた様子だった。

モーリス「Youは、そのReason いわれを
知ってイルん、デスカ?」そう聞くと
彼はゆっくりと立ちあがり、腕組みをして
しばらく考えたあと、おもむろに口を開いた。

ヒロシゲ「いっ、いわれって、どうしてかって事だろ?
うーん、おいらそんなの知らんけどな〜」
モーリスは、ちょっとがっかりとした表情だったが
ヒロシゲに向かって、こう話し始めた。

先生が言うには。。。むかし、アイルランドに
キリスト教の布教活動のためにやってきた
聖(せい)パトリックという修道士がいたそうだ。

彼の最も有名な、伝承のひとつは。。。
『シャムロック』というアイルランドに生える
三つ葉を利用した独特な布教活動だ。

3つの葉っぱが、それぞれ【父と子と聖霊】の
三位一体を、表しているのだと。
この『シャムロック』の葉を使って
聖(せい)パトリックは、アイルランド全土に
キリスト教を、広めていったそうだ。

そしてごくまれに見つかる四つ葉はたいそう貴重で
人々に、幸福をもたらす葉っぱなのだと
世間に説いてまわったそうだ。

毎年、聖(せい)パトリックの命日である
3月17日に、世界の各地で行われる
セント・パトリックデーに緑色のモノを
身に着けてお祝いをするのも
このことが由縁(ゆえん)なのだと。

先生の話に身を乗り出さんばかりに
目を丸くし聞いていた、ヒロシゲからの『圧』を
感じているうちに、ふとモーリスの頭に
ある『アイデア』が浮かんだ。

モーリス「ソダネ、Youはこの四つ葉を
英語の授業のみんなに、Presentすれば
Very Good 。ソスレバ、Everybody Happy ね。」
ヒロシゲも、待ってましたとばかりに、膝を叩くと
ヒロシゲ「オーケー、オーケー先生!
グッドアイデアだね」と何度もうなずいてみせた。

それからというもの、彼は誰よりも早く
教室に来て、集めた四つ葉のシロツメクサを
ひとりひとりに、丁寧に配っていたのだった。

その光景を、廊下のドアの隙間から見ていた
兄のタカシゲと、モーリス先生は
これで、うまくいきそうだと見つめ合い
ハイタッチをして喜んだ。

しかし、2ヶ月も経たぬうちに、またヒロシゲが
英語の授業から、忽然と消えてしまったのだ。

モーリス先生は、彼に何かあったのではないかと心配し
授業が終わるやいなや、急いで彼の居そうな
安土城の跡へと向かった。

すると、石垣のてっぺんにゴロっと寝っ転がって
青空に浮かぶ、鱗雲(うろこぐも)をボーッと
眺めているヒロシゲがいた。

モーリス「Hey !Hirosige .
Whay don’t you attend class ?
You はドシテ授業に来なくなったんデスカ?」
すると、彼はこう答えた。

ヒロシゲ「ああ、先生。俺さぁ〜もう疲れて
飽きちゃったんだよ」
モーリス「Oh ! No! My Good Boy 」

ヒロシゲ「だってさぁ〜先生も毎日やってみれば
分かると思うぜ。。。滅多に見つからない
四葉を探し出すのって、思ったよりも。。。
苦労ばっ〜(クローバー)かりで、大変だってね。」

以上で、わたしの朗読はもう、おっしまい(四枚)


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