[韓国留学記2]2週間に及ぶ隔離生活の始まり
2021年8月から2022年5月の9ヵ月間、私は韓国の崇実(スンシル)大学の語学堂に通っていた。その頃の日常を綴ろうと思う。
仁川空港に到着して、案内されるとおりに手順を踏んで何とか荷物を持って出てきた(現在はもうないが、当時はコロナ禍のため入国するにあたって韓国の携帯電話の番号が必要であったので、その確認を行った。そのほかにもいろいろとあったがすべて説明すると長くなってしまうので”案内される通りに手順を踏んで何とか”という言葉にまとめる)。
空港のロビーに出るなり係りの人が歩み寄ってきて”どこに行きますか?”と尋ねてきた。どこまで正確に答えればいいのかわからずとりあえずソウル、スンシル大学と答えるとシールを貼られて”こちらでお待ちください”と空港内の一角にあるベンチに通されそこで待った。シールはおそらく行先事に色が異なるものなんだろう。
ボケーっと待っていると男の人が現れて防疫タクシー乗り場まで連れてってくれた。防疫タクシーに乗り〇〇区の医療施設でコロナの検査をした。検査を終えた後近くの屋台でホットクが売られていて、防疫タクシーのおじちゃんが一つおごってくれた(一緒にヤクルトも一つくれた)。
韓国に着いて初めての食べ物だった。温かくて甘いあの味は今でも覚えている。
検査を終えいよいよ隔離ホテルへと向かう。到着するとボランティアなのか、アルバイトなのか、私と同い年くらいに見える若いスタッフの人たちがチェックインの手続きをしてくれた。その人たちは語学が堪能で、私が日本人だと分かると流ちょうな日本語で話してくれた。
部屋に案内され、中を見てみると
おぉ! めちゃめちゃ広いっ!
ひとりで使うにはぜいたくすぎるくらいの広さと大きなベッド(しかも2台!)ではないか。
隔離生活の説明を一通り聞いた後すぐにベッドの上で大の字になって寝ころんだ。
あぁ、疲れた
飛行機を降りてからバタバタしていて休める暇などなかった。
ホテルにも着いたし、これでやっと落ち着ける。
目を瞑って小休憩をした後で、そういえば韓国に無事についたと連絡しなきゃなと思い体を起こした。
SIMカードを開通して家族と友達に連絡をした後で、再度部屋を見渡してみた。眺めはよくはないが大きな窓があるのが気に入った。
そして部屋に入った時からすごい存在感があるのがこの水のかたまりだ。
人は2週間でどれほどの水を飲むのだろうとふと思った。この隔離生活を利用して検証してみようと思う。
少ししてチャイムがなった。はーいと返事をしてドアに向かい覗き穴で一応確認してみたら、
ん?誰もいない?
もしかしてピンポンダッシュなのか?
誰かのいたずらに巻き込まれたのか?
ちなみに韓国語でピンポンダッシュのことを벨튀という。
とりあえずドアを開けてみると椅子が置かれてあり、その上にお弁当が置かれていた。
そうか、ご飯の準備ができたよって知らせるためのチャイムだったのか。
いたずらを疑ってごめんねと思いながらお弁当をいただいた。
ご飯を食べ、シャワーを浴びて髪を乾かしながら
そういえば、洗濯はどうするんだ?と思った。
部屋には洗濯機はなくまさかスタッフの人に頼むシステムでもないだろうと考えているうちに、手洗いすればいいかと思いつき無事解決した。
隔離中絶対退屈するだろうと思い、日本から本と日記帳、大学で使っている韓国語の教科書などを持ってきていた(隔離中にオンラインでレベル分けテストがあるのでその準備のため)。読書をしたり勉強をしたり部屋にあるテレビで適当に韓国の番組を見たりして過ごした。
もともとインドアな性格もあり、隔離生活はそこまでしんどくはなかったが、でもやっぱり大好きな韓国に来たというのに部屋の外に出られないのは少しもどかしかった。外から通行人の楽しそうな笑い声が聞こえると、あぁ 早く外に出て街を歩きたい!美味しいご飯を食べたい!漢江を見ながらチキン食べながらとコーラを飲みたい!おしゃれなカフェに行ってバニララテを飲みたい!というか現地の人と韓国語で会話したい!いや、その前に伸びてきた髪と爪を切りたい!とやりたいことが山ほどあった。
そんなふうにもどかしさを抱えたまま隔離生活を送っていた。施設は申し分ないがそれでも少し不便な点が二つあった。
まず一つは、洗濯物の乾燥だ。外に出たりしないので、食べ物を誤ってべっとり衣服に付けない限り汚れることはないし、エアコンがあるので汗をかくこともそうないのでにおいの問題もなかったが、何となく洗いたかったので手洗いしていた。洗浄は問題なかったが、乾燥が問題だった。この部屋には洗濯機もなければ乾燥機もない。洗ったはいいがどうやって乾かそうか。ドライヤーで乾かすしかないかと思い温風を当ててみたが、これがいつまでたっても乾かないのである。中途半端に乾かして終わると生乾きのにおいがしてしまうので、完璧に乾かせる必要があった。
効率のいい乾かし方について、思いつきと行動考察と検証を繰り返して何とかいい方法を見つけ出した。
二つ目は夜ご飯食べてから寝る時間までに小腹がすくことだ。
自由な生活なら、小腹がすけばスーパーやコンビニに行ってカステラでもおはぎでも好きなものを買って食べられるが、隔離生活は支給される食糧に限りがある。そこで、自然界でリスが食料を蓄えるように、私もまた食料の備蓄をした。保存の効かない生ものとかはその場で食べるが、ソーセージのように密閉包装された食品、小袋のお菓子などは備蓄しておいた。そして我慢できないくらいの空腹を覚えた時用の非常食にした。おかげで餓死せず生き延びられた。
隔離生活に役立つ知恵を身に着けていくうちにだんだんと慣れていった。
何なら少し楽しいとさえ思ったりした。