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シンガポールの兵役についての考えと永住権申請について

マシュマロでこんな質問をいただきました。

ご質問ありがとうございます!

回答に入る前に、まずはシンガポールのPRと徴兵制度(National Service、以下NS)について少し説明します。

NS EligibilityやObligationはシンガポールの外国人界隈では結構センシティブな話題なのでまず断り書きを。

今回改めて政府のサイトやネットの記事を見たり、いろいろ調べてみました。正確性を期すためThe Central Manpower Base (CMPB)のコールセンターに電話して不明点を確認するなどしていますが、自分が調べて理解した中で書いているので、理解不足な点があるかもしれません。もし間違っている箇所があれば教えて頂けると幸いです。

おなじみのJamieもいるよ

CMPBのサイトのトップ画像はこちら。

"Preparing our nations's sons!"

かなり強烈なコピー。しびれます。
息子を持つ母なのでこの一文を読んだだけで色々な思いがこみ上げて泣ける。

CMPBではNSについて様々な情報が載っているので、シンガポールの永住権に興味があり男児をお持ちの方は一読をおすすめします。

シンガポールの徴兵制度とは?

では、そもそもシンガポールの徴兵制度とはどのようなものか。

Minisitry of Foreign Affairs、つまり外務省のページを見てみましょう。

Under the Enlistment Act, all male Singapore Citizens and Permanent Residents, unless exempted* are required to serve National Service (NS). Following the completion of full-time NS, they will be required to serve up to 40 days of Operationally Ready National Service (ORNS) per year for the duration of their ORNS training cycle till the age of 50 years (for officers) or 40 years (for other ranks).

Ministry of Foreign Affairs, National Serivice Obligation


シンガポール国民と永住権保持者にとって兵役は義務

免除されない限り、すべての男性シンガポール国民(Singapore Citizens)およびシンガポール永住権保持者(PR)は、国民兵役(NS)に就くことが義務づけられています。

2年間フルタイムのNational Servicemanとして兵役を務め、その後はOpeationally Ready National Serviceman(NSman)になります。

このフルタイムNSについてはよく知られており、シンガポールの徴兵制度と聞いて想起するのはこれだと思います。

でも、ポイントは後段です。

兵役が終わった後も呼び出しがある

「フルタイムのNS終了後は、将校の場合は50歳、それ以外の階級の場合は40歳になるまでORNS(Operational Ready National Service)訓練サイクルの期間中、年間最大40日のORNSに従事すること義務付けられている」というところです。

端的に言うと、フルタイムNSが終了しても、NSmanは毎年呼び出されてこのORNSの訓練に参加しなくてはいけないのです。Reservistと呼ばれ、海外にいても呼び出し対象になるので猶予(deferment)を申請する必要があります。

訓練期間は様々なようで典型的なトレーニングは、12-day High-Key In-Camp Training (ICT)という記述もありました

長期で国外に出るには出国許可証が必要

そして、入隊する前のPre-Enslistee(予備隊員)である13歳から16歳半、招集された16歳半から入隊までの男児が長期でシンガポール国外に出る際にはExit Permit(出国許可証)を得なくてはいけません。

CMPBの担当者は、3ヶ月以内だったら出国許可証は不要なので、近隣の国にいるなら定期的に戻ってくればよい。実際、マレーシアに住んでいるPRも多いので一日だけシンガポールに戻ったり、最悪半日くればよくてそうやっている人も多いと言っていました。

そんなに軽々しく言っていいのでしょうか・・・。

場合によっては高額な保証金が必要に

出国証明書ですが、13歳から16歳半で2年以上の長期で国外に出る場合と、16歳半以上入隊前までの間に3ヶ月以上国外に出る場合はBond(保証金)を組まないと申請ができません。

このBondは、銀行保証の形で、保証金額は75,000シンガポールドル、または両親の前年度の年間総収入の合計の50%に相当する金額のいずれか高い方とのこと。

ちなみに、2022年のシンガポールの勤労者のいる世帯における月間世帯収入の中央値は、10,099シンガポールドル。

出典:Key Household Income Trends 2022, Department of Statistics Singapore

このBondの実態がサイトでは分からず、戻らなかった場合に保証金が支払われるという書面を一筆銀行あてに書けばいいのか、実際にお金を預けなくてはいけないのか不明でCMPBに電話して聞いてみると、口座にその金額が入っていないとだめとのこと。

つまり、子供が海外進学をした場合はその費用に加えて約800万円のキャッシュを用意しなくてはいけないということになります。なかなか大変そう。

そして、万が一シンガポールに戻らないとこの保証金は没収されてしまいます。

試しに海外大学に行った周りのシンガポーリアン(30代後半から40代前半)にこの保証金について聞いてみたところ、

「親がお金を払っていた記憶はない」

「なにかサインしていいた気がするけれど、お金を払ったかは知らない」

などあまり覚えていないようでした。

まあ、20年以上も前の話なのと、当時は若かったのであまり意識していなかったのでしょう。

一人は自分の頃はなかった気がするけれど、too many people escapingじゃないかと言っていました。
実際はどうなんでしょう。

シンガポールの兵役で発生すること

まとめると、シンガポールで兵役と言った場合には以下の3つが発生すると言えると思います。

  1. 入隊前:長期出国時の出国許可証の取得と状況に応じて保証金の用意

  2. 実際の兵役:Full time National Service 2年

  3. 40歳まで:年に40日程度のORNS (Reservit)

では、回答に入ります。

Q. けりーさんはお子様たちの徴兵についてはどうお考えですか

兵役に関しては賛成で、色々と成長するよい機会だと思っています。ただ、2年間は少し長すぎる気がするのと、男児だけでなく女児も一律兵役を務めた方がよいのではないかと思っています。

恵まれすぎ、ある意味甘やかされた環境で育っている現代っ子の根性をたたき直すにはとてもよい、と思っています。

兵役は一つの成長の機会

よく聞くのが、家にいる時はベッドメイキングもしなかったのに、NSから帰ってきたら自分のベッドをちゃんと整えられるようになった。人として自立した、など。

どうせNSでみっちり鍛えられるのだから、今はたっぷり甘やかしてあげている、言っている方もいました(息子さんは中学生)。確かにそのような考え方もあるかもしれません。とはいえ、今は結構教官も甘く、クーラーもつけてくれるし、あまり厳しくすると親からクレームが来るのでだいぶゆるくなったと言っていました。

行った人からネガティブな感想はあまり聞かない

実際に行った友人は、もし過去に戻って選べるとしてもserveすることを選ぶと言っていました。

Singaporeans are too pampered. The NS is a great opportunity to grow mentally nad physically

とのこと。

そして、個人の成長だけでなく、その時の仲間とのつながりも非常に有用だとも聞きます。

1年に短縮して、女児も含めて完全国民皆兵にしては?

とてもよい制度とは思うのですが、ちょっと2年は長い気がします。1年ならgap year的な扱いで他の国との進学の面であまり差もつかないし。ただ、期間はだんだんと短縮されてきて2年半が現行の2年になっており、子供達が行く頃には1年半くらいになっているかもしれません。

でも、それなら女児にも広げて対象者を倍にして、期間は一気に今の半分の1年にすればいいのではないかと真剣に思っています。

女児に軍隊の訓練をさせるのは、という意見もあるかもしれませんがSingapore Armyは女性も募集しており、Singapore Armyを題材とした国営放送 MediacorpのドラマWhen Duty CallsではFelicia Chinが演じる陸軍の隊員も主人公の一人です。

右から3番目がFelicia Chin

また、友人に聞くと20年前のトレーニングの時点でも、シミュレーション的な物も多く子供達の代になるとVRやゲームなどスクリーンを使ってやるものばかりになるのではないかと半ば冗談で言っていましたが、それならなおさら、性別は関係ないと思うので、ぜひ女児にも広げて欲しいです。

あとは、女児が兵役の対象ではないことで、女児のいる家庭はPRを申請しやすいが、男児がいる場合だとためらってしまうという現状があるのではないかと思っています。比率とか知りたい。

Q. けりーさんや移住組の方は徴兵参加に前向きに向き合われている感じでしょうか?

これは人それぞれだと思いますが、PRを取得する限り避けては通れないので、前向きにとらえるしかない、と思っています。必ず発生することなので。

そして、実際に兵役に行くのは親の私ではなく子供たちです。悪く言えば青年期の貴重な2年間を自分の意思とは関係なく奪われてしまうので、それに対してネガティブなことを言うのは子どもに対してひどいのではないかと思っています。
まずは親が前向きでないと。

なので、我家はPRを申請する可能性があったので、NSに対してネガティブなことは絶対に言わないようことを心がけてきました。NSから得られることを、色々できるようになるよ、料理もできちゃうようになるかも、など分かるレベルの話としてしています。一旦PRの申請をすることは見送りましたが、また変わるかもしれないのでこれからもこの方針は守っていくつもりです。

永住権保持者として恩恵を受けるならその対価を払うのは当然

永住権を取得すると、たとえば教育や医療の場で費用が安くなるなどの恩恵があります。ただ、それとセットで兵役は発生します。諸刃の剣ともいえるかもしれませんが、恩恵を享受するのなら国に対してなにかしらの対価を払うことは仕方がないと思っています。

質問サイトのQuoraやExpatのFacebookグループ、PRを申請したいが息子を兵役に行かせたくないので逃れる方法はないか、といった投稿を見かけることがあります。

返信として、そのような姿勢なら永住権を取らずに自分の国に戻ればいい、フリーライドするな、など強めのコメントがついていることもありますが、私も同感です。PRを取ってメリットだけ享受することはできないと思っています。なので、その意味でも女児に兵役がないのは、少しアンフェアなように思えます。

Q. PRを狙うと徴兵の問題が出てくるのかな・・・と

PRと徴兵はセットで切り離せないので、EPが難しいからPR、と考えるにしては結構重いものだと思っています。そもそもですが、EPかPRか選べるわけではなく、基本EPとして数年滞在して、そこからPRを申請する形になります。

また、PRは申請すれば取れるというものでもなく、そもそもの結果が出るまでに1年半、人によっては2年たっても音沙汰ないこともあるようです。その一方で10ヶ月で結果が出たという人もいます。とにかく読めない。

最近は昔に比べてPRも取れなくなっており、1回目の申請では承認されずに2回目でようやく取れる、とも聞きます。人種や職業などさまざまな要素で判断されているようなのですが、その基準は公開されておらず、却下されても理由は開示されないのでブラックボックス状態。我家は男児2人でひとり親なのできっと承認されるよ!とよく言われるのですが、どうなのでしょうか。

永住権の申請を検討したけれど出さなかった理由

シンガポールにはこのままずっとい続けるつもりで戻ってきたのでPRもちろん申請するつもりで、実は、今年の2月には大使館に行き戸籍の英訳を取り、必要な書面にもサインして準備をしていました。でも結局出さず。

書類を準備している時はTwitterでPRの承認が下りたという日本人の投稿を結構見かけたのと、年初の方が枠が残っているから早く申請した方がよいというシンガポーリアンからの謎のアドバイスなどもあり自分の中でPR申請が盛り上がっていたのですが、NUSに通う日本人学生の話を聞いたこと、シンガポールではなく他の国へスライドする可能性、などを色々考えてやめました。

上記の色々もありますが出さなかった一番の理由が、兵役がらみの拘束の可能性があるからです。

前述の兵役がらみの3つのことが将来的に発生するのにも関わらず、

子供が小さい今の段階で子供達の将来的な拘束を私が勝手に決めてしまうのは、フェアではない

と思ったため。

一度永住権保持者になると返上しても拘束される?

申請にあたって色々な人に話を聞き、申請をしても通るか分からないし、承認が下りてから実際にPRを取得するか考えればいい、兵役が嫌なら子供が13歳になる前にPRを返上すればいい、などのアドバイスももらいました。

でも、PRの承認が下りたのにPRを取得しなかったら二度と申請が通らないのではないか、一度PRを返上したら将来的に子供達がシンガポールで働きたいと思った時に就労ビザが下りないのではないか、と思って踏み切れませんでした。ビザがらみの都市伝説的な話はよく聞くので・・・。

また、このPR申請書類のNational Service Liabilityの14項を見ると、Males who are granted Singapore PR, and who were previously Citizens or Permanet Residents, are liable to be called for NS regardless of the scheme under which their PR status was granted. と書いてあり、たとえ返上したとしても一度PRになると徴兵される可能性があるとも読めます。

シンガポール政府の政策変更とその実行のスピードは日本とはけた違いでコロナの時も国境を閉鎖するにあたって、夜の22時頃に発表があり0時にはその効力が発生するくらいのスピード感。

いつどんな有事が発生するかも分からないし、そのような事態が起きた時に過去のPRも含めて招集されるなど想像に難くありません。

とりあえずForeigner価格を払えるくらい稼ぎ続ける

そして、様々なことを考慮した結果、PRを取得する目的が小学校の学費が安くなるなど金銭的なものが主なのであれば兵役の諸々と引き換えにするには釣り合わない、もっと稼ぐ方向に、と決意するに至りました。

とはいえ、また色々状況や考えも変わるかもしれませんが今の考えはこのような感じです。


シンガポールについて聞いてみたいことや書いて欲しいネタがあればぜひこちらからどうぞ。


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