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【週刊少年ブーマーズ第3話】Five takeaways from Lille Part.1 Australia vs Spain

G'day mate. オーストラリアバスケファンのkellyです。いよいよ始まったパリ五輪。オーストラリアは「死のグループ」と呼ばれるグループAで初戦、因縁のスペインと対戦し、見事92-80で初陣を勝利で飾りました。今回は前回お話ししたこのチームの戦い方とは別に、この試合から新たに見えてきたことを5つのポイントに絞って書きたいと思います。次戦以降注目してもらえると面白いかもしれません。

1.はじめに

まずは簡単に試合を振り返りたい。スタッツはFIBAの公式サイトから引用した。Fast break pointsやPoints off turnoversで上回ったように、チームのテーマであった堅いディフェンスとトランジションオフェンスをしっかり遂行できた印象だ。さらにPoints in the paintでも大きく上回り、これはBoomersのセンター、Jock Landale(ジョック・ランデール)の活躍によるところが大きいだろう。PnRからのダンクだけでなく、ポストアップからのフックシュートなど要所でチームのオフェンスを担ってくれた。間違いなくこの試合のMVPである。一方でJosh Giddey(ジョシュ・ギディー)が17pts 8ast 8reb、Patty Mills(パティー・ミルズ)が19pts 2astと、BIG3が揃って活躍したのも素晴らしかった。
それではここから少し二ッチな話もあるが、個人的に気になった5つのポイントについて話したいと思う。

BoomersのBox score
Shooting stats、黄色がオーストラリア、赤がスペイン
Advanced stats

2.Josh Giddeyに騙される


試合開始早々、相変わらずのボールプレッシャーと統率のとれたディフェンスでペースを掴んでいったBoomers。しかし、ことハーフコートオフェンスに関しては、その立ち上がりの様子がこれまでとは一味違っていた。親善試合で効果的に見えていたJosh GiddeyとJock LandaleのPnRを全く仕掛けず、Giddeyがボールに触れる機会もこれまでと比べると極端に少ないように見えた。これには相手のスペインも虚をつかれたのではないだろうか。
開始直後、LandaleのハンドオフからPatty Millsが3Pのファウルを受けてFT3本を獲得。さらにトランジションからLandaleの3P、MillsとのPnRからLandaleのダンクと、着実に得点を重ねていった。ようやくGiddeyがドライブからファウルをもらったのは2分が経過してのことだった。逆にボールに絡まない間、Giddeyがひたすら試みていたのがオフボールのカッティングだ。

象徴的だったのが開始5分、トップでボールを保持したLandaleがJosh Green(ジョシュ・グリーン)へのハンドオフを餌に、バックカットでディフェンダーを出し抜いたGiddeyに見事なアシストを決めたプレー。これは親善試合の第1戦、アメリカに対してDyson Daniels(ダイソン・ダニエルズ)が見せたプレーと全く同じものだったが、そこに合わせたフィニッシャーがGiddeyというのは、Boomersのファンにとっては新鮮な光景だったと思う。このオーストラリアの得点後、スペインはたまらずタイムアウト。オーストラリアは親善試合とは違った戦い方で先制パンチに成功した印象だ。さらに開始6分、Jack McVeighのドライブにまたもやカッティングで合わせたGiddeyはフローターでも得点。親善試合の間は見せなかった「Josh Giddeyのカッティング」という新たなオプションで第1Q序盤から主導権を握ったBoomersだったが、彼らが隠し持っていた武器はこれだけではなかった。

3.PattyとGiddeyをあきらめない


前話で堂々と「PattyとGiddeyは独立したオフェンシブオプション」と表現してしまったわけだが、これもまたいい意味で予想を裏切られてしまった。私の理解不足でごめんなさい(素直に謝れる人)。

最初のポゼッション然り、序盤はビッグマンからMillsへのハンドオフを強調していたオーストラリア。しかし、徐々にMillsに対するマークマンのプレッシャーが強まっただけでなく、ビッグマンのヘッジも加わり、サイズで劣るMillsがスペインのフィジカルに潰されてしまうシーンが増えてきた。
この展開で出てきた新しいカードが、Giddeyをフロアに固定し、パスの発射台として使うものだった。

第2Q残り6分、ポストでボールを受けたGiddeyは、Landaleのスクリーンをフェイクに中にカッティングしてきたMillsにパス、そのままレイアップにつながるグッドプレーが生まれた。
さらに4Q残り5分、トップ付近でボールを保持したGiddeyは、Landaleのスクリーンを使ってカールカットぎみにハイポストに侵入してきたMillsへアシスト。この一つ前のプレーでは同じようなMillsの動きにディフェンスが過度に反応し、逆にLandaleがハイポストでフリーになっており、そこを見逃さないGiddeyはすかさずLandaleにパスを入れていた。Landaleのシュートこそ決まらなったが、Landaleのスクリーン、Millsのオフボールムーブ、そしてGiddeyのパス能力、この3つが組み合わさることによってBoomersの攻撃はさらに広がりを持つかもしれない、そんなことを思わずにはいられないシーンだった。
Landaleを絡めることによってついにつながり始めたPattyとGiddey。大会が進むにつれて、二人のコンビプレーがさらに洗練されていくことを期待している。

4.「Can't play」にならなかったMatthew Dellavedova


NBAなどでもチームの序列が相対的に低い選手は、得てして試合の強度が上がっていくとプレーレベルが足りずに出場させることができない、いわゆる「can't play」な状態になりがちだ。親善試合で一定の信頼を勝ち得たMatthew Dellavedova(マシュー・デラべドーバ)だったが、彼も本大会の舞台でそうなってもおかしくはなかった。しかし、Dante Exumが指の脱臼で欠場ということもあり、バックアップPGとして9分間出場した Dellavedovaは、本大会の強度でも十分に戦力になれることを示してみせた。40分全員が足を動かし走り勝たなくてはならないBoomers。チームの10~12番目の選手であるDellyを躊躇なくフロアに出せることをこのタイミングで確認できたのは好材料だ。
スペインの得点源であったSergio Llull(セルヒオ・リュル)やLorenzo Brown(ロレンツォ・ブラウン)にフルコートでプレッシャーをかけてボールを離させると、それ以降徹底したオフボールディフェンスで自分のマークマンにボールを再び持たせなかった。さらにヘルプディフェンスのポジショニングも相変わらず的確で、相手からいつくかのTOを引き出していたのも評価したい。
もう一つ、忘れてはならないディフェンシブハイライトは、試合前半、Usman Garuba(ウスマン・ガルーバ)と乱闘になりそうになった若手4人を一人で制止したシーンだろう。一発勝負の大会、この小競り合いを必要以上に続けることに何も価値がないことを彼が一番分かっていた。フロアリーダーとしての彼の価値を垣間見た瞬間だ。

ちなみにこの試合で2アシストを記録したDellyは、オリンピック通算アシスト数が100となった(Dellyおめでとう!)。現在オーストラリア選手としては歴代1位、大会全体で見てもToni Kukoc(トニー・クーコッチ)やManu Ginobili(マヌ・ジノビリ)に次ぐ歴代5位だ。この記録がどこまで伸びるかも要注目である。


5.Jack McVeighと共に生きる、ということ


先発PFのNick Kayがファウルトラブルに陥ったこともあり、早々に出番を与えられたJack McVeigh。最終的に6本中3本の3Pを沈め、13得点かつTOは1つと、数字上は安定した活躍を見せた…ように見えるが、実際はかなりハラハラさせられる内容だった。

相手の3Pへのファウルを一度ならず二度も取られてしまっただけでなく、自身の3Pが決まりヒートアップしたのか、トップから唐突なアイソレーションを始めると誰もいないコーナーへパスしてしまいTOしてしまうシーンもあった(Millsがトップ付近でボールを要求しているように見える)。溢れ出る闘志と、積み重ねた努力に裏付けられた周囲のNBAプレイヤーたちにも決して物怖じしない積極性。これらが彼をこの舞台まで押し上げたわけだが、それは時にわれわれに混乱をもたらすこともこの試合で思い知った。ただ、オフェンスが停滞した中で難しいムービングからの3Pを決め、4Q残り4分に値千金のコーナースリーをヒットし、7つのリバウンドで相手のチャンスを摘み取った活躍は決して見過ごせない。彼に多くのミニッツを与えることによって得られるものは成功かリスクか。この大会を通して彼の判断力がどれだけ磨かれていくかに、Boomersの未来は大きく左右されるかもしれない。もう少し話したいこともあるが、それは彼が再び活躍した時に取っておきたいと思う。

6.Boomersのハート&ソウル、Josh Green

昨季ファイナルまで進んだDallas Mavericksの一員は、華々しいNBAの舞台を感じさせないほどの泥臭さでBoomersに貢献してくれている。スペインが仕掛けてくるフィジカルバトルに真っ向から立ち向かい、フルコートのボールプレッシャーはもちろん、ハードなスクリーンをかいくぐろうとぶつかり、時にイリーガルスクリーンを引き出して相手のチャンスを潰した。さらにその身体能力はオフェンシブリバウンドやシュートチェックにも遺憾なく発揮されている。特に彼のコーナースリーに対するコンテストは人一倍速く、高く、たった一人で相手のオープンショットの機会を減らしているように見えた。Nick Kayが頭で広く守っているイメージなら、Josh Green(ジョシュ・グリーン)は恵まれた身体能力でその守備範囲を広げていってるようだ(もちろんGreenのIQを評価していないわけではない)。

おそらくこのチームの強みは、全員が自分の役割を理解し、チームの勝利のためにそれをひたすらに実行することができること、そして心身ともに戦えることだ。「NBA選手」という肩書きに関わらず、泥仕事を引き受けてコートを縦横無尽に走り回るGreenのプレーぶりから、このBoomersの理念を感じ取ることは実に容易いことだろう。22分の出場ながら無得点、しかし数字では語れない彼のエフォートに対して、この場を借りてあらためて拍手を送りたい。
ただ、どこかのタイミングで必ず彼の得点面のサポートが必要となることもまた事実だろう。戦況に応じた「対応力」もまたこのチームが選手に求めているエレメントだ。この試合無得点に終わった彼だが、その得点力でもわれわれの期待に応えるシーンが来ることを信じている。

7.最後に


スペインとの一戦は、なかなか安定しない舟を漕ぎ続けているような試合だった。GiddeyやDaniels、McVeighといった新加入組は、ミスはありながらもチームに爆発的な推進力を与え、行き過ぎた勢いによってチームが不安定になれば、今度はPatty MillsやJock Landale、Nick Kayといった長くチームを支えてきたメンバーがもう一度進路をとり直す。若手とベテランをミックスしたこのロスターは、そうやって互いを補い合いながら前へ進めるということをこの試合は教えてくれた。
スペインにリードを与えた時間がほとんどなかったとは言え、追い上げられる時間帯もいくつかあった。国際大会で散々辛酸を嘗めさせられてきた相手だ。「またか」と思ってしまう瞬間もあっただろう(私はあった)。しかし、このチームはありとあらゆる方法でそれに抗い、再び相手を突き放した。Patty Mills一辺倒でピンチを切り抜けてきたチームではもうないのである。
オリンピックという大海原へ繰り出した舟は、いよいよ波に乗り始めた感がある。次はどんな航海が待ち受けているのか。待ち受けるのはカナダという大波だ。このチームならきっと乗り越えられると信じて。Gold Vibes Only.

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