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1 テントウムシ変身!

   1986(昭和61)年5月12日(月)午後5時、私はその日も接写リングの入った袋と古くて重いカメラを持って、
 T小学校の校門を出た。山あいにある学校周辺は田と畑と小川、自然の中で生息し生活する植物や小動物が
 いっぱい。
  夕暮れが近づいていたので、Ⅰ山の裾野まで車で出かけた。 辺りの草むらでは、アメリカフウロ、カラス
 ノエンドウ、コマツヨイグサ、タネツケバナ、タガラシなどの花それぞれが彩を添えて 楽しませてくれる。
  この日の最大発見は、テントウムシが演じた変身!
                                                                  2006. 1.29(日) 作成
◎ テントウムシの蛹

 ナワシロイチゴのピンクの小さな花を撮影していました。すると、その葉にテントウムシの蛹を見つけました。蛹は、ナワシロイチゴの枝に巻き付いて伸びているヘクソカズラの葉の上にもいました。
 色・模様・大きさなどに少しずつ違いのある蛹を興味深く見ていますと、あれっ、不思議なテントウムシを発見!
 全身が薄黄色、透明感と光沢のある美しい黄色のテントウムシ。「全身」と言っても、正確には、上翅とその下から後方に突き出ている下翅の色が薄黄色で、頭・胸・腹・脚などは黒色。
 その黄色いテントウムシ君は、何か黒いものの上に乗っかってじっとしていましたが、やがて少しずつ動き始めました。よく見ると、乗っかっていたものは蛹の殻のようです。とすると、これはごく最近羽化したテントウムシだろうと思われました.
 羽化した直後は黄色なのでしょうか。それとも、これは黄色い翅を持つテントウムシなのでしょうか。だとすると、私は新種の発見者!?

 辺りが暗くなり始めたので、私はテントウムシがとまっているナワシロイチゴの枝を折り取り、車に乗せ、学校まで持って帰りました。
 テントウムシは葉の上をゆっくりゆっくり移動しますが、飛び立とうとはしません。職員室にいた同僚に、少し自慢っぽく黄色の翅をもつテントウムシを見せた後、再び車に乗せて、帰宅しました。
 それから自宅での観察が始まりました。
 これがテントウムシの変身ファッションショーとなったわけです。ステージはテーブル。テントウムシの大きさからすれば大舞台です。が、なにせ、その記録写真は、夫が1960年代に買った古い写真機を借りて写すのですから、フラッシュもなく、取り扱いにも精通していませんので、まことに心もとないことでした。明かりは室内灯、スポットライトはテーブルスタンド。
 それでは、「テントウムシの変身!」ショ―をどうぞ。

テントウムシの変身ショー

5月12日(月)

最初は何かわからなかった。「薄黄色一色の虫がいる!」
その下をのぞくと、蛹の殻のようなものに乗っている。
それを見て「これはテントウムシに違いない。と思った。」

  ◎ 肉眼では薄黄色一色と思っていたのに、フィルムに収め現像してみると、かすかに黒い斑点が見える。                                  
◎ 18:45 下翅が上翅の下に入り込み、見えなくなった。これで、形は成虫のテントウムシ。

 

◎ 19:45 頭に近い斑点から黒色が濃くなり、はっきりしてくる。「ナナホシテントウ」だ。
スポットライトをつけると盛んに動き回り、葉の裏に回った。   
  ◎ 21:00 斑点がさらに濃く、はっきりしてくる。しかし、上翅の地色は黄色のまま。    
◎ 24:00 もう一人前? まだ半人前?上翅の色は赤味を帯びてきたが、まだ本来の色ではない。動きは活発。                       
これをもって、本日のショーは終わる。                           

5月13日(火)

 朝、目を覚ますと、テントウムシは行方不明に。室内を探して発見。枝ごと学校へもっていく。
 テントウムシは職員室の机の上を歩き回り、再び行方不明に。

5月14日(水)

 職員室の机上に、また姿を現す。
 その後、野外に放し、さよなら。

 テントウムシが羽化直後からこんなに見事に変身していくことなど、それまでは全く知りませんでした。幼虫、成虫の姿は本や実物で知っていましたが、変化の途上を目にできる機会はなかったのです。

 ところで、テントウムシに限らず、「変化の途上」には大変興味をそそられます。しかし、それらに立ち会える機会はめったにありません。
 私が見たい、知りたい「変化の途上」は、いくつかあります。
 例えば、昆虫に関することなら、
 ◎ 幼虫はどのように変わりながら蛹になっていくのか。
 ◎ 蛹の中で、「幼虫に近い体」から「成虫に近い体」へとどう変化して
  いくのか。
 
などです。

 「なぜそうなるのか」という答えを見出すことは大変難しいでしょうから、「どう変化するのか」が見える機会に出合えるだけでも幸せなことです。

 羽化したチョウのくしゃくしゃに縮まっていた翅は、その後、”奇跡が起こっている”と思えるほどの変化のあと、ついにはアイロンで伸ばしたようにぴんとした見事な翅になります。私はそのことを、子どものころには写真で、その後はテレビの映像で知ってきました。今の小学生の中には、教室でチョウを飼育しながら、その変化の実際を直接学んだ子も多いでしょう。こんな経験を持った子供たちは、ただそれだけで幸せの一つを手に入れたと私は思っています。

羽化したセミ 199

 1991年のある夏の朝、山の林の中で、羽化して間もないセミを見ました。まだ抜け殻に留まっていた翅の色は思いもよらない薄青緑で、羽衣を連想させる美しさでした。

 テントウムシの鮮やかな変身、山で出合ったセミのみずみずしい姿、このような発見に出合った時、私は、生きている幸せを実感します。

 「うーん、まだまだ素晴らしい変化があちこちで起こっているはず。だから、まだまだ心ときめく発見に出合えるはず。元気でいなくっちゃ。」と、次第に物事に対する興味が失せ、ものぐさになっていく自分を励ますこのごろです。

   ( 掲載した写真は、2006年に手作りに近い方法で出した冊子
    の中の写真を、今回デジタルカメラで撮影しブログに差し込
    みました。
     で、撮影日がごく最近の日付になっていますが、実際は昔
    のもので、なんとなく懐かしさを感じそうでしょう?
     今後もそんな写真の オンパレードです。ご了解ください。)


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