J1昇格プレーオフ決勝 東京V vs 清水 94分のジャッジについて

J1昇格プレーオフ決勝、東京ヴェルディvs清水エスパルスの一戦は、1-1のドローに終わり、上位チームである東京ヴェルディのJ1昇格が決定した。

この試合の中で、試合を大きく左右する大きなジャッジがあり、それに対する批判も多い。また、下記東京スポーツの記事の様に、誤審である事を仄めかす様な記事もアップされており、不要な誹謗中傷も増えかねない。

そこで、4級審判として活動していた私の個人的な見解を述べてみたい。


前置き:審判とは?


VARに関する正しい知識を持ち合わせていない方が多いと最近感じたので、改めて審判とはどういう人がどういう経緯で務めるのか、について説明したい。少しでも審判に関する理解を深めて頂いた上で、この記事を是非読んでいただきたいからである。

詳細については上記JFAのページを参照頂きたい。Jリーグで笛を吹くには、最低でも1級審判を所有する必要があり、2級以下は基本的に地域のサッカー協会が主催する試合で笛を吹くことができる。仮に高校サッカーの舞台で笛を吹きたい、という目標がある方は、まず2級を目指すとよいだろう。因みに、以前私のXでも触れたが、今季開幕前のTM鹿島戦で起こったひと悶着。この試合で笛を吹いていたのは、茨城県サッカー協会に登録されている2級審判の方である。ヴェルディのTMにおいても、東京都サッカー協会所属の審判が派遣されている。

私は4級審判で、地域の試合で数試合主審も副審も担当した事がある。4級ごときが何を偉そうに・・・と言われる事を恐れずに言うと、審判は過酷であり孤独であると言えよう。対戦しているチームからは誤審・誤審と批判を浴び、観客(選手の家族や友人)からも罵声を浴びる。酷い時には胸倉を掴まれる(over40に多い)事もある。

(けっけの心の声)
・・・悪い事は言わないが、止めたほうがいい。地域のサッカー協会内ではそういう事象があった事が広まるのは早いし、チームごと登録抹消になる可能性もあるのだから。いちおう忠告しておく・・・

4級から3級に昇格するのは割と容易だが、2級への昇格基準が高いので、ここを乗り越えられる人は正直少ない。体力テストの値も・・・おっと、本題から逸れ始めているので、ここからは当該試合の内容に移る事にする。

あと、VARについては、以下ページで理解を深めて頂きたい。


試合経過

ヴェルディのホームゲームとして開催されたこの一戦。前半は清水が圧力を掛け、シュートを放つものの枠を捉え切れない。対する東京Vも少ないチャンスにおいてフィニッシュまで持ち込むが、ゴールを脅かすには至らず、前半は妥当すぎるスコアレスで終了。

後半、61分にMF森田晃樹のハンドでPKの判定。この判定は極めて妥当。故意では無いので警告なしも妥当。このPKをFWチアゴ・サンタナが難なく決めて清水が先制。この不運なジャッジ、少なからずATのジャッジに影響していると言えよう。

直後、ヴェルディはMF新井悠太などを投入し攻勢に出るも、なかなか清水の守備陣をこじ開ける事ができない。

そしてATに入り、その時間は8分。94分にMF中原輝からのフィードを完璧なトラップで前に進めたFW染野唯月がPAに侵入。ボールが離れたところをDF高橋祐治が狩ろうとスライディングを仕掛けたが、染野唯月の足に掛かりファールの判定。VARの介入は無く、ヴェルディにPKが与えられる。そのPKを染野唯月が落ち着いて決め、1-1の振り出しに。そのまま試合は終了し、東京ヴェルディがJ1昇格を掴んだ。

94分のジャッジについて

ヴェルディにPKが与えられたファールについては、個人的な意見としては妥当と言える。そもそも不運なファールで清水にPKを与えていた事もあり、清水のファイナルサードで何かが起こった際に、ファールを取られやすい状況であった事は明白だ。試合を通して主審の池内明彦氏のジャッジは安定しており、判断基準も明確であった。この様な状況の中で、PA内でスライディングを仕掛けた高橋祐治の心境は分からないし、彼を責めるつもりは毛頭無いが、あの時点でのスライディングは不要であったと言わざるを得ない。少なくとも、染野唯月はゴールには向かっておらず、サポートの上がりも遅かった為、無理せずプレーを遅らせるだけでも良かった、というのが私の了見である。

「誤審」という言葉の暴力性

このファールについては「Jリーグ ジャッジリプレイ」でも取り上げられており、駒野友一氏や藤本淳吾氏の見解も、家本政明氏の見解も理解できる。しかし彼らの口からは「誤審」という言葉は一切出ておらず、人によってファールを取るべきか、取らないべきか分かれているところを「誤審」の可能性があると報じる事について、私は強い怒りを覚える。

プレー後の数秒でファールを判断する事の難しさはあるが、当該事案ではVARの介入も無かった事により、少なくとも池内氏の判断をVAR担当も同意したという事になる。明らかな誤審の可能性があるのなら、当該チームから審判委員会に意見書を提出すれば良いだけの話であり、既に結果が確定している試合をぶり返して「誤審の可能性」と伝える事からは、新たな誹謗中傷しか生み出さない。

おわりに

私は、常々審判の地位向上がなされるべきだと訴えているが、一向に審判の技術が向上されていないのも確かだ。公平さの無い秋春制を検討するよりも、審判の地位や技術向上にもっと投資をすべきであると共に、東京スポーツの様な誤解を招きかねない報道についても毅然とした態度で臨むべきである。

ヴェルディについても、J1に昇格した事により、メディアからの注目度も断然異なる。2024シーズンの体制発表時も、かなりの数のメディアが集まる事だろう。メディアへの対応という不慣れな事に対し、広報の仕事の重要性が上がる事を実感するシーズンとなるであろう。是非、ゼビオHDを含め手厚いサポートを行って欲しいところである。


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