実業団サッカーの今後

Jリーグ発足前はJSL(日本サッカーリーグ)を頂点に、数多くの実業団サッカークラブが活躍していたが、Jリーグに移行するチームや昨今の経済事情により活動規模を縮小したり、廃部となったクラブも数多く存在する。

その中で、実業団サッカークラブの現状について、まとめてみた。

実業団サッカークラブとは?

まず、実業団サッカークラブの定義としては、主に以下が挙げられる。

 ・会社の福利厚生がきっかけにチームが発足している
 ・メンバー全員が社員選手である
 ・全員がアマチュア(プロに似た形の契約社員含む)

現在、実業団サッカークラブとして活動しているのは、主に以下のチームである。

【JFL】4チーム
ソニー仙台FC(宮城県)
HONDA FC(静岡県)
FCマルヤス岡崎(愛知県)
ホンダロックSC(宮崎県)

JFLでは、やはり「門番」とも呼ばれるHONDA FCが実業団サッカークラブとしては最も知名度が高いと言える。実業団とはいえ、全社的なものではなく本田技研工業・浜松工場が運営しているチームである。よって、代表者は浜松工場長となっているのが特徴である。HONDA FCはJクラブを含めても珍しい、自前でサッカースタジアムを保有しているチームでもある。
この中では、厳密に言えばソニー仙台は社内の同好会がベースとなったチームであり、ソニーの社員以外でも入団できる為、実業団サッカークラブという定義からは外れるのかも知れない。

【地域リーグ】13チーム
日本製鉄室蘭(北海道)
日本通運FC(北海道)
日本製鉄釜石(東北)
猿田興業(東北)
日立ビルシステム(関東)
藤枝市役所(東海)
三菱自動車水島FC(中国)
ENEOS水島(中国)
富士フイルムビジネスイノベーションジャパン広島SC(中国)
NTN岡山(中国)
佐賀LIXIL FC(九州)
九州三菱自動車(九州)
ジェイリースFC(九州)

中でも三菱自動車水島FCは、かつてJFLの舞台でも活躍していたが、不況の煽りを受けて一度JFLを脱退。その後2017年には中国リーグで優勝するなど、再度JFL昇格へ向けたチャレンジを進めている。

【活動停止】
NKK
ジヤトコ
SAGAWA SHIGA FC(佐川急便SC)
SP京都FC(佐川印刷京都)

主な活動停止(廃部)チームとしては、やはり不況や経済事情により撤退を余儀なくされるチームが多い。かつて佐川急便は東京・大阪・佐川印刷と3チームを擁していたが、合併・名称変更の末、2012年に活動を停止している。

実業団サッカークラブの場合、野球と大きく異なるところは、全国大会が存在するものの(全国地域サッカーチャンピオンズリーグ)、認知度は野球の都市対抗野球に比べると極めて低く、無観客で行う場合もみられる程である。毎年全国地域チャンピオンズリーグの開催地は異なるが、御殿場にある時の栖で行われるケースもあり、あくまで有観客での開催というよりも、JFLへの昇格に向けた「儀式」的な役割が重視されている様に感じる。

実業団からステップアップした選手たち

実業団サッカークラブからプロの世界へとステップアップしていった選手も、数多く存在する。それでは、主な一例を挙げてみよう。

古橋達弥(FW HONDA FC U-18コーチ)
磐田東高校からHONDA FCに加入し、特に2003シーズンは出場試合数を上回るペースで得点を量産。2004シーズン途中でセレッソ大阪に移籍。その後モンテディオ山形、湘南ベルマーレを経てHONDA FCへ復帰して2020シーズンで現役を引退。JFL/J2/J1でそれぞれ100試合出場を達成した唯一の選手。

藏川洋平(MF)
多々良学園高校(現・高川学園高校)、愛知学院大学から横浜F・マリノスに加入。全く出番に恵まれず、翌2001シーズンに群馬FCホリコシ(アルテ高崎)に移籍。群馬県1部リーグからJFLへと駆け上がったチームの象徴として活躍。2005シーズンに監督を務めた小見幸隆に誘われる形で2006シーズンに当時J2の柏レイソルへ移籍。翌2007シーズンにJ1に昇格し、不動の右サイドバックとして活躍。その後ロアッソ熊本、鈴鹿アンリミテッド(東海1部リーグ)に移籍し、2018シーズンをもって現役引退。5つ(現行カテゴリーでは6つ)のカテゴリーを駆け上がり、全カテゴリーでゴールを挙げている唯一の選手。

奈良輪雄太(DF 東京ヴェルディ)
横浜F・マリノスユース、筑波大学を経て2010シーズンにSAGAWA SHIGA FCに加入。3シーズンで88試合に出場し、2013シーズンに横浜F・マリノスに移籍。その後湘南ベルマーレを経て2018シーズンに東京ヴェルディに移籍。左右両方ともこなせる貴重なサイドバックとして活躍中。

遠野大弥(FW 川崎フロンターレ)
藤枝明誠高校から2017シーズンにHONDA FCに加入。2019シーズンにはJFLベストイレブンに選出されるなどHONDA FCの中心選手として活躍。2020シーズンには川崎フロンターレへ移籍。2020シーズンはアビスパ福岡へレンタル移籍となり、41試合・11ゴールと活躍。2021シーズンは川崎フロンターレに復帰し、途中出場が多いながらも、第32節終了時点で6ゴールをマーク。

以上、新旧含めて主なステップアップ選手を紹介した。残念ながら、JFL以下のカテゴリー出身選手で、日本代表に選出された選手はおらず、遠野大弥が最も近い存在かも知れない。また、最近ではJ3の創設以降、JFLからJ3へ「個人昇格」する選手が増えており、毎年数名の選手がJの舞台に立っている。ただJ2やJ1へのステップアップとなると、1年に1人いるかいないか、という状況である。

実業団サッカークラブの今後

2021シーズンのJFLをみてみると、首位を走るいわきFCをはじめ、「Jリーグ百年構想クラブ」に認定されたクラブが数多く、2位で猛追するHONDA FCをはじめとする実業団サッカークラブは、JFLでも数少なくなってしまった。JFL以下のカテゴリーにおいても、クリアソン新宿や南葛SCなど、「Jリーグ百年構想クラブ」に認定されたクラブが増えており、実業団サッカークラブの立場がますます怪しくなってきているのが現状である。その煽りを受けて、チームの存続を考えざるを得ない実業団サッカークラブも数多い。また、都市対抗野球の様に、純粋に実業団同士でせめぎ合う場というのも無くなりつつある。ひとつのカテゴリーの中で、大きな目標が全く異なるチームが混在しているのが、現在のJFLなのである。

選手だけでなく、チームもJリーグに向けてステップアップを目指すという流れが多い中で、純粋に実業団サッカークラブとしての矜持をもつHONDA FCやホンダロックSC等に代表される実業団サッカークラブの今後に注目していきたい。

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