読書の記録#9 2020年版プロ野球問題だらけの12球団

2020年版プロ野球問題だらけの12球団(草思社) 小関順二(著)

毎年恒例シリーズの2020年版

プロ野球ファンの中でも、ドラフト会議好き・アマチュア野球も興味がある人たちであればご存知の方も多いであろう、小関順二氏が2000年以降毎年出版しているシリーズの2020年版(=2019年のドラフトを踏まえた本)である。
私もかつて愛読していたシリーズであり、2006年版~2012年版は購入していた。今回8年ぶりに直近のものを購入した。(シーズンも終盤、約1ヶ月後には次のドラフト会議が開催されるが)
著者はスポーツライターのドラフト会議オタクと言いたくなるようなドラフト好きであり、ドラフト戦略に関する文章の第一人者と言っても過言ではない存在である(プロフィールには『「ドラフト」というカテゴリーを確立した』との文言あり)。野球ファンにはおなじみ、ネット掲示板の通称なんJではネタにされがち(主に高市俊投手の評価と実際の成績の乖離でネタにされがち)だが、的を射た評価も多くプロ野球を違う目線から見るきっかけを与えてもらうには十分すぎる方であると個人的には思う。

さて、そんな小関氏の毎年恒例のシリーズ作『プロ野球問題だらけの12球団』なのだが、主な内容としては
・野手・投手それぞれの現状の選手構成から見た球団の強みや弱み
・球団の近年のドラフト戦略について
・直近ドラフトで指名された新人選手達の良さや課題、チームで求められそう/果たせそうな役割
といった内容が12球団均等なページ数で論じられている。これは少なくとも私が読んでいた2006年版から変わっていない。
毎年選手構成が変わっていくので、その積み重ねで今後どうなっていくことが想定されるのか、といった話は説得力もあり興味深い。(直近なら、西武は打線が強みだが、投手ばかりドラフトで指名していたこともあり各ポジション若手のスケールの大きな後継者が少ない…等)

かつてに比べ客観的情報が多い

そんなに面白いのならば、なぜ2013年版以降購入していなかったのか?
ちょうど2010年代前半頃から小関氏はストップウォッチを使った分析を多くするようになったのだが、個人的にはそれがクドイと感じてしまったのが主たる理由だ。
ストップウォッチを使った分析というのは、例えばバッターが打ってから一塁ベースに到達するまでにかかった時間や、キャッチャーがボールを受けてから二塁ベースに到達する(盗塁を刺す)までにかかった時間を計測したものだ。前者なら俊足の基準やどんな時も全力プレーするメンタリティがあるか(全力で走っているか)、後者なら強肩かどうかといったことを論じるためのもので、数字を使っているので客観性も具体性もあり納得感を持たせられるというメリットがある。
ただ、その情報により選手を論じることが多くなってきた結果、選手の全体感が以前よりも見えづらいと感じるようになり、徐々に本への関心を失っていってしまったわけだ。

結論から言うと、その当時以上に客観的な話が多くなっている印象を受けた。ストップウォッチを使った分析は引き続き行っており、加えて以前よりも試合の結果(甲子園で何回戦でどうだった…等)の記載や、スポーツ紙の評価の引用が増えており、小関氏としてその選手をどう見ているかという切り口の記載が減っているように感じた。(実際に過去の著作と比べたわけではないが)
上述の通り客観的な話・分析にはメリットもあり、読者側の感性の合う合わないの話が多いだろう。客観的事実の羅列からその選手の活躍した時のイメージをしたいという人も多くいるであろうし、この書き方のスタンスを否定するものでは一切ないのだが、個人的には小関氏の主観的意見・主観的ドラフト選手名鑑を読みたいという気持ちを抱いた。小関氏の目線という切り口で、「そういう見方があるのか」と思わせてほしいのだ。そういう記載が全くないわけでは無い。例えば広島カープのドラフト6位の玉村投手の記載は従前の小関氏のノリで書かれている。そういう記載がもっと欲しいと、8年前に読んだときと似た感想を持った。
尚、スポーツ紙の評価等の引用をするのはおそらく小関氏が見たことが無い(アマチュア野球は裾野も広いので当然見たことが無い選手は、多くアマチュア野球をチェックしている人でも出てくる)ケースであろうと思われるのだが、かつてはその場合は「見たことがない」としっかりと記載されたうえでスポーツ紙の評価を引用していたのが、直近の本作ではその旨(見たことが無い旨)の記載は一切無かった。以前よりも不完全な自分を許せなくなってしまったのだろうか。(見た上で印象に残らなかったから引用したという可能性も当然あるが、それにしては客観的過ぎかつ他人事感が強い記載となっている)

プロ野球というコンテンツが好きならば楽しめる1冊

個人的好みについて長々と書いてしまったが、新人の特徴が12球団シンプルにまとめられていて、12球団の構成上の強みや課題を把握できる1冊であり、長く続いているシリーズたる所以を随所に垣間見る。
・どこかの球団の大ファン
・プロ野球が好きで一通りレギュラーくらいは分かる
・アマチュア野球が好き
・ドラフト好き
等々、色々な切り口のファンがすんなり読める作品である。
個人的にお勧めしたいのは、ざっくりとプロ野球を好きな人。全球団の選手を把握している必要は無く(本作内でも丁寧な記載や分かりやすい年齢構成表等あり)、なんとなく野球を見てしまう、結果としてある程度は選手知ってるし、ドラフトとかFA(フリーエージェント)とかのニュースもなんとなく気になっちゃう、くらいの人が読むと目新しい話が多く楽しいのではないかと思う。
当然、詳しい人でも楽しめる内容であり、アマチュア野球を見ずとも選手像がなんとなく浮かび上がってくるような仕組みになっている。
ただ、アマチュア野球を見る身としては、先述の通り小関氏の目線・小関氏の意見がもっと多く入っていれば嬉しかったと思うところもあった。
尚、「この選手が好き!!!」という見方をしている方にとっては、もっとプロ野球全体を俯瞰した内容となっているのであまり楽しめない可能性がある。プロ野球というコンテンツを好きな人向けの本である。

21年続いているだけあり充実した内容の1冊であることは間違いない。

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