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ワインは飲み物か、それとも読み物か

どうしてもnoteが書きたくなって夜中の一時にベッドを抜け出しちゃいました。こんばんは!

前回投稿したオレンジワインの記事がなんと3000ビューを超えていました!読んでくださった方ありがとうございます!

けっこうマニアックな内容だしみんなに読んでもらえるかな・・と思っていたので、想像以上の反響に正直驚きました。ワインのことを知りたい!勉強したい!って思う人がそれだけたくさんいるんだなーと、ワインを生業にする者としてとても励みになります。

さて、今日はそんなワインの学びについて書きたいと思います。

ずばりテーマは

”ワインを楽しむために、知識は必要なのか”


この疑問は、ずーーっと何年も前から、インポーターで働いていた時から抱えていたものです。

というのも、「ワイン=知識が必要」という一般的なイメージこそが、ワインが敬遠される一番の理由なんじゃないか、と思っていたからです。

なんとかそのイメージを払拭したい・・・

そう考えていたのですが、なかなか糸口がつかめずにいました。

それがこの1年間、日本を離れてイギリスのワインマーケットを眺めていて、ふと「ああそういうことか」と答えらしきものが見えてきたんです


それが、ワインには「飲む楽しみ」と「学ぶ楽しみ」の2種類がある、ということ。

そして、その線引きができていないのが日本なのだ、ということです。


その知識は誰のため?

巷にはたくさんのワイン関連書籍があって、ワインの産地やぶどう品種のこと、おすすめのワインの紹介やテイスティングのコツなど、はっきり言ってありすぎると言ってもいいくらい情報が溢れています。ぼく自身もワインの本を読むのが好きで、暇さえあれば本屋をうろうろしては、新しいワイン本が出てないかなーと物色しています。

年々、ワイン関連の書籍は専門性が高くなり、今まで洋書でしか得られなかった知識も少しずつ和訳され、どんどん充実しています。ブドウ栽培や醸造テクニック、膨大なブドウ品種の詳細な説明など、専門的な内容も多く含まれています。

でも、これらはあくまで「プロ」のための知識です。「ワインを美味しく飲んで楽しみたい」・・・そう思う人にとって、これらは必要な知識ではありません。プロと、ワインを「学びたい」人のためのものです。

ぼくらプロにとってワインの勉強は「商売道具」を磨くことです。ワインに関する知識があるのは当たり前で、別に特別なことではありません。プロとしてお客様にワインを提案する際に、その根拠をきちんと持っているか。これがぼくらにとってワインを学ぶ理由であり、専門書の存在意義です。

では「飲む楽しみ」を求めている人にとってふさわしい本ってなんでしょうか?

少なくとも、ぼくが知る限りでは一冊もありません。

なぜなら、ワインを美味しく飲むために必要な知識はごくわずかだからです。それだけにフォーカスした本を仮に出版したとして、おそらく10ページにもならないでしょう笑。「お金を払って買ってもらう以上、もっと価値のある知識を盛り込みたい」・・・そう考えるのが編集者たちの想いでしょうから、10ページだけのワイン本が世に出てくることはありません。

家でワインを美味しく飲むために必要な知識は、産地でも、品種でもありません。それは「ラーメンは延びる前に食すべし」とか「バーベキューでしいたけを裏返すのはご法度」といった類の知識と同じです。つまり、どうワインを飲めばいいのか、という部分にフォーカスするべきなのです。
(ワインの産地や品種を、麺の小麦粉の栽培方法とか、しいたけの種類と置き換えてみてください・・・それって必要?)

※「ワインを美味しく飲むために知っておくべき3つのこと」は後日アップ予定

「ワイン初心者のための」「ワインの基本から」・・そう謳われた本は山のようにありますが、どの本にも産地や品種など「お金を払う価値のある知識」が載ってるから、読者としては「そっかー、ワイン産地のことやブドウ品種のことを勉強したらいいのかー」という思考になってしまいます。

まとめ
本屋に並んでるワインの本は、「学ぶ楽しみ」を満たすもの
「飲む楽しみ」のために、専門的な知識は一切必要ない


専門用語から入りたい日本人

あと日本人は勉強が好きなんでしょうね、「専門用語」が大好きな人が多いように思います。ソムリエやワイン愛好家の中にもけっこういらっしゃるかと。だからなのか、ワイン本も専門用語がたくさん書いてあって、そのリストアップと解説に終始していることが多い。

でもこれが良くないとぼくは思います。

この専門用語フェチが、ワインを近寄りがたいものにしているんじゃないかと。

専門用語は、お互いがその意味を理解している限りはとても便利で、会話がスムーズになります。でも、一方だけが理解しているとき、もう一方にとってそれはただの恐怖でしかありません。

例えば、ショップの店員さんが、一般のお客様に「ボージョレ・ヌーヴォーって普通のワインと何が違うんですか?」と聞かれたとしましょう。味わいや相性の良い料理といった質問と違って、実に専門的な内容です。

ソムリエの勉強をしたことがある方は、きっと「(セミ)マセラシオン・カルボニック」という単語が頭に浮かんだことでしょう。でも、その単語をいきなり口に出してしまうかどうかで、お客さんの抱く印象はガラッと変わってしまいます。いきなり「ヌーヴォーにはマセラシオン・カルボニックという技法を用いまして、醗酵タンクに二酸化炭素を充満させてですね・・・」なんて言われたらもうその場から逃げ出したいですよね笑。

そうではなく、例えばこんな風に説明すると、専門性の高い話もすんなり理解してもらえます。

「ブドウを醗酵させるときの方法が違うんです。テレビとかで見たことがあるかと思いますが、普通赤ワインをつくるときは、ブドウを潰して、それを果汁に漬け込んでワインにします。でもヌーヴォーの場合、ブドウの実をつぶさないでそのまま大きなタンクに入れてしまうんです。そうすると、ブドウの実の中で特別な酵素が働いて、お花やイチゴ、キャンディーに似た独特な香りが生まれるのです。それに渋みも少なくできるので、とても飲みやすい赤ワインになるんですよ。」

ま、これでも結構小難しい感じですけどね笑。

本の話に戻ります。

怒涛の専門用語パラダイスみたいなワイン本が多いのです。それは、ある程度ワインを勉強してきた人、あるいは勉強したいと思ってる人にとっては良書かもしれませんが、やはり「飲む楽しみ」を重視している方にとっては障壁になりかねないのです。

少し話が逸れますが、日本ソムリエ協会(JSA)のソムリエ試験は、センター試験と同じく選択式なので、どうしても「単語」を覚えることに重点が置かれます。範囲も膨大で、暗記しないといけない用語が山のようにあります。そうすると、「細かい説明や理論じゃなく、とにかく単語を覚えよう!」ということになってしまいます。残念ながら「丸暗記」で試験を突破したまま、その知識の裏付けをしていないプロの方はけっこうたくさんいます。そしてそういう人ほど専門用語を真っ先に口にしているように見受けられます。

これはぼくら業界側の課題だと思っています。手を差し伸べるはずのプロが、お客様にとって近寄りがたい存在になっていては、本末転倒ですから。


ワインを学ぶ楽しみ

ワインは面白い飲み物です。

ワインを通せば、文化や歴史、気候風土、あるいは政治経済までもが透けて見えます。知れば知るほど面白いですし、かの世界的評論家であるジャンシス・ロビンソン氏も言うように、「ワインの学びには終わりが無」く、常に新しいワイン、新しいトピックが生まれています。

だからワインは「飲み物」でもあり「読み物」でもある、とぼくは思っています。飲んで楽しい、読んでも楽しい。本当に面白い世界です。

「学ぶ楽しみ」・・・ワインにまつわる知識や情報の多くは、そのためにあるとぼくは思います。

だから、ワインを美味しく飲みたい!楽しみたい!それだけを純粋に求めている人には、ワイン産地とかブドウ品種の予備知識なんて全く要らないのです。ワインの知識が一切なくたって、好みのワインを飲んで、好きに感想を言って良いのです。少なくともイギリスやフランスで「わたしは知識がないから感想は控えます」なんて人は今まで見たことがありません笑。

こう言うと「いやいや!知識があるからこそ、ワインごとの微妙な違いなども理解できて、より美味しく飲めるんじゃないか」と反論の声も上がりそうです。確かにそれは真実で、科学的にも、前情報が多感覚にもたらす影響は証明されています(この話も、またいずれ取り上げたいと思います)。

でも、その領域に行き着くまでにどれほどの勉強が必要でしょう。そうまでしないと楽しめないのがワイン、と思われたら、ますます近寄りがたくなってしまいます。(それにそういう楽しみ方は、自分の中だけで留めておいてほしいものです笑)

今のワイン業界は、正直「飲む」と「学ぶ」をごっちゃにしています。だから「学ばないと飲めない」みたいなイメージが定着してしまっています。これを変えないといけない。「飲む楽しみ」は、「学ぶ楽しみ」と切り離して考えないといけない。これがぼくの結論です。


ということで、今夜はワインの楽しみ方についてお話ししました。「ワインって近寄りがたい・・」そう思ってる方に届いて欲しいなと思います。

とりとめのないだらだらとした話でしたが、最後までお付き合いくださり、ありがとうございました!

次回、「ワインを美味しく飲むために知っておくべきたった3つのこと(仮)」をお話ししたいと思います!

おやすみなさい!(また朝・・)



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