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[無料]冬山を快適に歩くための装備や行動

冬の硫黄岳

春や秋の山なら登るけど、冬になると自動的に登山をしなくなる人がいます。「冬山=超危険」という認識があるようで、それはある程度は正しい。しかし、半分くらいは間違っています。冬の山だって、コースを選んで正しい装備、正しい知識があれば比較的安全に楽しめます(絶対は無いので比較的としました)。

今回はそんな話を書きます。初心者向けの教科書通りな話を書くので異論がある方もいるかもですが、そういう内容として読んでください。


装備編

ウェアのレイヤリング(重ね着)

登山でウェアは重ね着が基本です。何枚も重ね着することで汗の処理や温度調整を行います。

外側からアウター(レインウェアやハードシェル)、ミドルレイヤー(ソフトシェルやフリース)、ベースレイヤー(シャツ)、ドライレイヤー(速乾性の下着)です。休憩時など停滞するときに使うインサレーション(防寒着、ダウンジャケットなど)はアウターの上に着たり下に着たりします。雨でなく一時的ならアウターの上に着ても問題ないし、長時間着るならアウターの下に着ます。

レイヤーの種類や数は諸説ありますが、ザックリこんなもんと思ってください。これらを適宜脱ぎしながら快適に行動できるようにします。

アウター(レインウェア、ハードシェル)
2500mを越える山で気温-15℃以下、強風が吹くのならハードシェルが必要になってきます。我慢すればレインウェアでもどうにかなりますが、我慢するかお金で解決するかの選択となります。2000m以下の低山なら、普通の体格の成人で厚着をすればレインウェアでもなんとかなるでしょう。ただしソフトシェルなどミドルレイヤーと組み合わせてください。

レインウェアとハードシェルは価格が全然違いますが機能も違います。ハードシェルは厳し目の雪山で使うことを前提にしていて、ヘルメットの装着を想定してフードが大きめになっています。表面は雪の上でも滑りにくい加工になっていますし、雪が裾や袖から入りにくい工夫もあります。ピッケルを使うような山に登るのならハードシェルを使うべきです。(そんなもん要らんという人もいると思いますが、当解説は安全方向に偏って書いています)

レインウェアはあくまで雨や厳冬期以外の季節で使うことを想定しています。ただ、奥多摩など2000m程度までの山ならレインウェアで十分でしょう。4月以降の残雪期の2500mくらいの山も天気が良ければレインウェアでいけます。悪天候時で2500m以上まで登るならレインウェアだと寒いかも知れません。装備を整えるか無理せず中止ですかね。

インサレーション(防寒着)
インサレーションは防寒着です。ダウンジャケットなどを持っていると安心です。行動中には着ませんが休憩中や宿泊中は重宝します。日帰りでも、遭難して帰れず山で数日耐えなければいけないかも知れないので絶対に持ちます。

メーカーはどこでも良いのですが、私はユニクロの「ウルトラライトダウンパーカ」を使っています。

もちろんモンベルやパタゴニアなど、登山用具メーカーのものでも構いません。細かい部分の作り込みが登山用となっているので使い勝手は上でしょう(価格も上です)。

ミドルレイヤー
ミドルレイヤーは行動中でも着ていて、風がなければアウターは着ずにミドルレイヤーが一番外側になります。私はフリースかソフトシェルを着ていることが多いです。ただし、風が抜けるので強風の際は上にアウターを着ます。

フリースはソフトシェルより風が抜けるので、風が弱い低山でよく使います。ソフトシェルは真冬の八ヶ岳など本格的に寒い山域で使うことが多いです。

ソフトシェルの表面はある程度の撥水性があり、風もある程度は止めるので例えば気温が-10℃くらいの樹林帯で使いやすいです。フリースだとちょっと寒い。フリースは通気性があるので汗抜けがよく、残雪期や風が弱い日の低山で使えます。

ベースレイヤー
フリースやソフトシェルの下には速乾性のシャツを着ます。低山ならユニクロやしまむらで買ったスポーツ用のシャツでも大丈夫です。ただし、綿素材のものは絶対に使わないでください。綿は濡れたら乾きにくいので汗冷えで死にます。

メリノウールは防臭性があるので自分の臭いが気になる方は使ってみるといいかも。

ドライレイヤー
一番下はドライレイヤーという、汗で濡れた衣類と肌が直接触れないようにする薄くて保水しない下着を着るのが最近の定番です。冬は長袖の上を着て、下もドライレイヤーのタイツを履きます。

ドライレイヤーと言い出したのはフィントラックが最初だったように記憶しています。そのため私はファイントラック製品を使っています。

モンベルのドライレイヤーはベースレイヤーっぽいですがジオラインというシリーズが当てはまるようです。

ミレーはドライナミックという網状のドライレイヤーを出しており、これも評判は良いようです。

ドライレイヤーを知ってしまうと、もうドライレイヤー無しの登山は出来ません。それくらい画期的なものです。未体験なら是非買ってみてください。

帽子、ネックゲイター、バラクラバ(目出し帽)

帽子はすでに持っている毛糸の帽子などでいいでしょう。出来れば耳が隠れるものがいいです。意外と耳が冷えやすいので。

低山なら首に巻くのもマフラーなど、持っているもので構いません。天気が良いなら手ぬぐいを巻いたりもします。汗をかいたら拭けますし。

バラクラバと兼用できるネックゲイターなどもあります。首や頭を保温するのは意外に大事です。ただし、2000m以下の低山なら必要ありません。(寒がりの人は持ってたほうが安心感はあります)

手袋

低山なら化繊素材や毛糸の手袋があればいいです。普段通勤や通学で使っているもので構いません。モンベル製品だとこの辺です。

厳冬期の2000m以上の山に登りたいならオーバーグローブが必要になります。防水テムレスを使う人もいますが、保温性は劣るので1つは登山用のオーバーグローブを持ってください。

ブラックダイヤモンドのソロイストはインナーグローブもセットになっています。

オーバーグローブは、風で飛ばされてロストすると凍傷で指を失うリスクがあるのでゴム紐などを付けて腕に通しておきます。

青いのが自分で付けたゴム紐。
腕に通しておきます。手袋は絶対に無くしちゃいけない。

上の写真で手が白いのはニトリルグローブをしているからです。

ニトリルグローブをすることで手汗が手袋の布に移らなくなります。これは気化熱を抑える点で非常に有利で、特に強風吹きすさぶ稜線では効果絶大です。これは私が勝手に言ってるのではなく、VBLシステムとして極地探検家などが使っている手法です。

ニトリルグローブの内側は汗で濡れるので蒸れますが、一定以上は汗が出ないようになっているらしく、手首から滴り落ちたりはしません。樹林帯の登りなどではむしろ暑く感じるくらいなので使うシーンは選んでください。

インナーグローブが濡れないので二日目以降も同じ手袋を使うことが出来ます。予備を温存出来る点で有利です。

え?予備?そうです、手袋は予備が必要です。無くしたりビショビショに濡れたりしない限り使わないのですが、予備を一組持ってください。予備に同じレベルのものを用意するか、少し安くて性能が落ちるもの(防水テムレスなど)を持つかは自分で選んでください。一般的には予備もそこそこ高性能の手袋を用意します。(とは言え、VBLをやり始めたら予備を使う機会は本当に減りました)

低山ならそこまで致命的なことにはならないですが、手袋の予備は持っていたほうがいいかなと思います。低山なら薄手の手袋でよいです。

登山靴

低山なら3シーズン用で十分です。もちろん細かいことを言えば天気や緯度の関係もありますが、例えば奥多摩など高くても2000mまでならこのくらいの靴で十分でしょう。

ピッケルや前爪アリのアイゼンを付けるような山に登るなら、保温材入りの登山靴を履いたほうがよいです。必ず登山用品で合わせて、そのお店で買いましょう。試着だけして買うのはネットとかやらないように。お店が潰れます。

スパッツ

厳冬期の高山ならロングスパッツを使います。雪が靴に入るのを防げるし、意外と温かいです。

低山や厳冬期以外ならもっと簡易的なもので大丈夫です。

ちなみに、スパッツは雨の時はアウターパンツの下に着けます。内側から普通のズボン、スパッツ、アウターパンツの順番です。

雪山では、ズボン、アウターパンツ、スパッツとなり、一番外側に着けます。雪山ではアイゼンを反対側の足に引っ掛けてしまうことがあり、その際にアウターが破れないようにしたり、雪の侵入を防いだりするために外側に着けます。

アイゼン、軽アイゼン、チェーンスパイク

ピッケルを使う山に行くのなら前爪アリの12本または10本爪アイゼンを使います。このようなアイゼンは登山靴の靴底がある程度硬くないと緩んでしまうので、靴とアイゼンの相性は大事です。

理想は、登山靴を登山用品店に持っていって店員さんに合うものを見てもらうやり方です。この際も、合うものがあったらそのお店で買いましょう。

ピッケルを使う山とは、八ヶ岳で言うと天狗岳から南はそういう山です。天狗岳より北の北八ヶ岳エリアはストックや軽アイゼンなどでもなんとかなります。(個人の主観なので縞枯山の上り下りはピッケル要るだろうという人もいるかもしれないし、使ってもいいと思います)

軽アイゼンとチェーンスパイクは製品のカテゴリとしては似ていますが、若干違います。チェーンスパイクにはアンチスノープレートが付いていないので雪が湿っていると靴底で雪玉になりやすく、歩きにくくなることがあります。軽アイゼンはそうならないようにアンチスノープレートが付いている場合が多いです。

軽アイゼンは幅などを事前に調整する必要がありますが、チェーンスパイクはゴムの伸び縮みで固定するので調整などはありません。その代わりサイズがあるので、出来ればお店でフィッティングした方がいいです。

チェーンスパイクはAmazonでも買えますし、価格もモンベルの半分くらいですがそんな値段なので耐久性は低めで、たまにチェーンが切れます。補修用にラジオペンチや針金を持っていったほうが無難です。

奥多摩の低山でも冬は日陰に雪や氷が残ったりします。ほんの数mでもそういう場所で滑って谷底に落ちるリスクがありますので、使わないとしても装備に加えてください。そして、必要な時は面倒くさがらずに着けましょう。

ストック、ピッケル

ストックは杖としての用途以外にも、ツエルトを張る時のポール、けが人を搬送する時のサポートや骨折の添え木など、使い道が色々あるので1本は持っていたほうがよいでしょう。2本セットで売ってることが多いのですが、そういう場合は1回毎に交代で使ったり、冬はこっち、無雪期はこっちなど分けて使うとよいでしょう。

ピッケルは前述のように八ヶ岳なら天狗岳から南では使います。ただし、正しく使い方を習わなければいけません。冬山の道具の使い方はちゃんとした講師(ガイド、山岳団体の有資格者、山岳会や山岳部の先輩など)から実地で習わないと身につきません。必ず習ってください。独学の自己流は事故の元です。

長さは、横に持った時に先端(石突き)がくるぶしの横にくる程度と言われています。好みや山にもよりますが、最初は基本通りくるぶしの横くらいの長さでよいでしょう。

奥多摩ではピッケルを使わなければいけない山はありません。奥秩父の金峰山などでは使うかも知れませんが、どうだろ、私は持っていかないかも。

ツエルト

簡易テントですね。必須装備です。夏山でも低山でも、登山をするなら必ず持ってください。テント泊でテントを持ってるなら無くてもいいかも知れませんが日帰りや小屋泊などならツエルトを持ってください。個人装備として全員が1つ持つべきです。

当然冬の山なら低山でも高山でもツエルトは必須です。テントを張って山頂アタックする際にテントを置いていくならサブザックにはツエルトを入れてください。

ファイントラックのツエルトは透湿性がある生地を使っています。それでも結露する時は結露しますが。

こんな薄い布一枚で命が助かることがあります。絶対に持ちましょう。持ってないなら今すぐ買ってください。そして、買ったら張る練習をしてください。練習しておかないと、いざというときに正しく使えません。

魔法瓶、コンロ

冬ならお湯を入れた魔法瓶があると、体が冷えた時に内側から温めることが出来ます。カップ麺やカップスープなどを食べたいときも、ちょっとぬるくていいなら朝入れたお湯で作ることが出来ますし、コンロで沸かし直すにしてもお湯からなら短時間で沸騰します。

夏は氷や冷たい飲み物を入れるのに使うことが出来ます。冬も夏も活躍する装備です。

コンロは日帰りなら使うことはあまりありませんが、持っていれば遭難時に生存率が上がります。私はEPIのREVO-3700をよく使っています。超弱火でも完全燃焼してくれる優れものです。(不完全燃焼だとコッヘルの底に煤が付きます)

緊急避難用なら110gのガス缶で良いでしょう。

蓋付きの300mlシングルウォールチタンカップならコンパクトで軽く、コンロに掛けてお湯を沸かすことが出来ます。

コンロなどは、単独で山に入るなら一応持っていたほうがいいですが、パーティーや講習など、複数人で登山をする場合はリーダーが持っていればよいでしょう。

こういうコッヘルやカップは緊急避難で半雪洞を掘る際に簡易的なスコップにもなったりします。雪が硬いと手では掘れません。持っておきましょう。

ランドネ風

ヘッドランプ、モバイルバッテリーなど

ヘッドランプやモバイルバッテリーは冬山でも夏山でも必須の装備です。ヘッドランプが無いと日が落ちたあとなにも出来なくなってしまいます。

今どきの登山では、緊急通報やカメラ、天気予報、GPS機能などスマホを使うのが一般的となっています。下山後の移動や支払いでもスマホを使いますから電池切れは死活問題です。1台の機械になんでも頼るのはリスクヘッジ的にハイリスクな気もしますが、それ故に装備を軽くすることも出来ます。

スマホに対しては好き嫌いはあるでしょうが、避けられるものではありません。モバイルバッテリーを併用して上手く付き合っていってください。

モバイルバッテリーは、充電忘れ、ケーブル忘れ、ケーブルの断線、ケーブルと本体の組み合わせの間違いなどがあります。出発前日にチェックしておきましょう。

ザックカバー

雪山では着けません。ザックカバーを付けるとザックが滑りやすくなり、その辺に置いたら滑ってどこかに行ってしまうからです。低山で雨なら着けますし、雪がそんなに積もっておらず、湿った雪なら濡れを防止するために着けることがあります。

エコバッグ

公共交通機関で移動する場合、ザックにピッケル、ストック、スコップなどの金物を付けていると周りの人に接触して怪我をさせる可能性があります。マイカーで移動する場合でも、ザックに付けっぱなしでは荷台や車に傷がつく可能性があります。

こういう金物は刃物として扱い、特に公共交通機関で移動する際はエコバッグなどの手提げ袋に入れるか、ザックの中に収納してください。

冬に松本行きのあずさに乗ると、先端をカバーしていないピッケルやストックをザックに外付けしている人を見かけます。危険なので絶対にやめましょう。

よくない。後ろに目がついてないなら、ストックもわかんも手提げ袋に入れましょう。こういう風に付いたピッケルを、後ろの人が顔をのけぞらせて避けているのを見たことがあります。避けなかったら顔に当たってましたよ?

エコバッグは荷物整理や帰り道の買い物などでも便利です。1枚か2枚持っておくとよいでしょう。

名前を書いて、忘れ物をしないように何度もチェック

装備には名前を書いてください。メルカリで売るとか貧乏くさいことを考えず、目立つところにマジックで名前を書いてください。じゃないと、落ちていたものを「これだれのー?」とやる時間が発生して無駄です。名前を書いておかないと盗難のリスクもあります。デカデカと名前が書いてあるテントとか盗む人はいないでしょう。

装備を無くさないように、山小屋でもテントでも行動中でも、装備を散らかさず整理整頓し、その場を立ち去る際は必ず忘れ物が無いか確認してください。山小屋内での荷物整理後、山小屋からの出発、休憩して再出発する時、標識や木にぶら下げた装備、休憩用のベンチ、駅のホーム、電車の荷物置き場や網棚、温泉のロッカーなど、必ず指差し確認をしましょう。装備を散らかしてると、隣で整理をしている人の荷物と混ざったりもします。気をつけましょう。

登山者やクライマーの落とし物を書き込むFacebookグループもありますが、基本的に山で落としたり無くしたりしたものは返ってこないものと思いましょう。返ってくるのは運が良かった時だけです。

装備編のまとめ

これらのウェアや装備を組み合わせるのですが、ザックリ2000m程度を境界にして分けるとこんな感じになります。超ザックリね。

2000m以上の雪山で12月~5月いっぱいなら

ハードシェル、ソフトシェル、ダウンジャケット、長袖シャツ、ドライレイヤー上下、ニット帽、オーバーグローブ(予備も)、ネックゲイター(バラクラバ)、厳冬期用登山靴、ロングスパッツ、前爪ありアイゼン、ストック、ピッケル、ツエルト、魔法瓶、ヘッドランプ、モバイルバッテリー、エコバッグ、単独ならコンロセット

2000m以下の冬期低山か6月以降の高山なら

レインウェア、フリース、ライトダウン、長袖シャツ(寒さに強いなら半袖でもOK)、ドライレイヤー上下、ニット帽、手袋、マフラーや手ぬぐいなど、スリーシーズン用登山靴、スパッツ、軽アイゼンかチェーンスパイク、ストック、ツエルト、魔法瓶、ヘッドランプ、モバイルバッテリー、ザックカバー、エコバッグ、単独ならコンロセット

※他にも地図、コンパス、財布、ファーストエイドキットなどがありますが、年間を通して当然持つべきものなので割愛します。

低山や緩めの季節なら冬山と言ってもほとんどスリーシーズン用の装備で足ります。追加するのは防寒着と軽アイゼンかチェーンスパイクくらいですかね。防寒着は家にあるもので大丈夫です。良い装備を使えば快適に登れますが、オーバースペックだと暑い、重いなどの弊害もあります。

もちろん標高や山のある場所(主に緯度)、天気次第では低山のGWでも寒いことがありますし、7月の2000m峰でも悪天候で北海道なら低体温症で死んでしまうことがあります。6月でも北アルプスの3000m峰ならピッケルなどを使う場合があります。絶対に上記のような組み合わせで安全という訳ではありませんので目安として見てください。

6月の槍沢。奥右にあるのが槍ヶ岳。ピッケルと冬靴を装備している。

初心者向けの山から徐々にステップアップし、寒い暑い、便利、不便などを記録して自分に合わせた衣類や装備選んでいくようにしていくのがいいと思います。登山の道は一日してならず…。

天気などの条件がよく、体力があれば一段飛ばしで難しい山に挑んで登れてしまったりもします。しかし、運悪く条件や体調が悪いとどうでしょう?

ステップアップの幅が大きすぎると、トラブルが起きたとき一気に詰んでしまうことがあります。登山は気長に徐々に何度を上げていきましょう。同じ山でも登る日やメンバーによって違う山になります。何度も通って違いを感じて学んでください。(もしくは、ガイドさんに教えてもらうなどお金を使うと短期間で階段を登れます)

その日に帰れるとは限らないのが登山です

ここまでで書いた装備やウェアでも、実際には使わないものもけっこうあったりします。天気が良ければレインウェアや防寒着は使わないかも知れませんし、怪我をしなければファーストエイドキットは使わない、ビバークすることになるのなんて何年に1回も無いでしょう。

それでも持つのは、遭難すればその日に帰れるとは限らないからです。行動不能になって翌日雨や雪が降るかも知れませんし、寒くなるかも知れない。怪我をして自分で治療しなくてはいけないかもしれない。そのような状況でも生き残るために装備を持ちます。使わないけど意味がある装備としてザックに詰めてください。重さは、そういうザックを背負って何度も登山をしていれば慣れます。

食べ物

冬山で気温が-5℃以下になるとおにぎりなどご飯が凍って食べられなくなります。0℃くらいなら、その日のお昼に食べるくらいなら大丈夫ですが翌日の昼にはボソボソになってしまいます。

よって、昼食は水分少なめのパンや、お湯があるならカップ麺などもよいでしょう。ただし、お湯を沸かしている間に体が冷えてしまいますので、前述の通り魔法瓶などにお湯を入れてそのまま使うか、魔法瓶のお湯をコッヘルで沸かし直すことをオススメします。水から沸かすより短時間で済みます。

行動食としては、私は柿の種を持っていくことが多いです。適度に塩気があって凍らず、味が好きだし糖質を摂れるので即効性があります。羊羹やチーかまなんかも良いですね。ビスケットやカロリーメイトなどの焼き菓子系もよいでしょう。カロリーを摂らないと低体温症になるリスクが高まります。冬山では意識して行動食を食べてください。

奥多摩あたりの低山で、その日に食べるなら種類の制限は特にありません。おにぎりでもパンでも大丈夫です。-15℃などに冷える山ではご飯はやめてください。もしくは、真空フードコンテナに入れるなどして保温してください。

計画編

だいぶ長くなってしまったのでここからは短めにいきます。

とにかく無理をしない、余裕がある計画を作ってください。よく言われるのが15時下山です。冬は12月下旬の冬至を中心として日が短く、16時ともなると薄暗く17時なれば真っ暗になります。2月だと10月終わりから11月始めくらいの日の短さですね。

トラブルが起きた時は山中でビバークすることになりますが、ビバークを決定するのが17時では遅すぎます。すでに日が落ちて真っ暗です。ヘッドランプやツエルトなどビバーク装備が無ければ詰みます(つまり死にます)。

積雪状態や天気次第で、普段なら30分で行けるところに2時間掛かるなんて事もあります。そういう遅延も含めて計画しましょう。ギリギリの計画は事故の元です。欲張らず余裕がある計画を作ってください。

自分の力で安全に登って降りてこられるのかもよく考えてください。登山を長く安全に続けるコツは臆病になることです。仕事ならともかく、趣味なんですから登山で死んだり怪我したりしないように臆病にいきましょう。

冬山は天気次第で難易度が全く変わります。

行動編

欲張ってはいけない

上にも「欲張らない」と書きましたが、リミットを決めてください。何時までにそこに着かなければ引き返すというリミットです。あと50m登れば着くという場所でも、リミットが来たら引き返しましょう。欲張ると事故ります。死んだら登山も人生もそこで終わり、死ななくても怪我をすれば長い時間を失います。

なにか邪念があるのも危険な徴候です。良いところを見せたいとか、この山に登って自慢したいとか、SNSに記録を残したいとか、なにか欲があるとリスクへの嗅覚が鈍ります。無心で登山をしましょう。

天気が悪い場合も無理せず、撤退を常に意識して行動してください。天気が悪い時に無理したって楽しくないでしょう。

パーティーを割らない

パーティーを割ると、割ったどちらかが遭難して帰ってこなかったなんてことがよくあります。おそらく、割った上で無事に下山しているケースもかなり多いとは思いますが、トラブル発生時に少人数は不利です。パーティーはまとまって行動し、助け合ってください。

特に1人や2人などの少人数に分かれると良い結果にはなりません。パーティー登山をする意味自体がなくなってしまいます。そんなことなら最初から単独で登山をすべきです。

歩くの遅いから先に行ってる、後から追いかけるから先に行ってて、なんてのもよくありますがよくありません。結果、その人だけが下山してこなかったという遭難が起きています。みんなまとまって行動しましょう。

汗をかかないように調整

特に登りですが、急いで登ると汗を多くかいてしまいます。かいた汗は蒸発して熱を奪います。ハイテク素材のドライレイヤーやベースレイヤーを着ていても限度があるので汗はかかない方がいい。と言っても、全く汗をかかないのも無理ってもんです。衣類が処理できる範囲で留まるように運動量やウェアの脱ぎ着で調整してください。

登山では「暑い、寒い」を我慢しても良いことはありません。それらはできる限り速やかにレイヤリングの調整で解消してください。

休憩は短く、厚着をする

休憩して運動が止まると、天候や装備によっては一気に体が冷えます。5分以上休憩するようなら止まってすぐにダウンジャケットなどを着てください。休憩が終わったら脱いで行動を再開します。休憩する場所は滑落や雪崩、落石の危険が少ない場所で、他の登山者の邪魔にならない場所にしましょう。道を塞いではいけません。事前に地形図や過去の記録を見て当たりを付けておくとベターです。

稜線では風が強く吹いていることが多いですが、地形と風向きによっては風を避けられる場所もあります。稜線でも風下側に数m下がると無風になったりします。樹林帯も風が弱くなります。そういう場所を選んで休憩してください。体が大きい人がいたら、その人の風下側にスッと入ると少しマシになったりもします。寒さに弱い体が小さい人は他人を利用してもよいでしょう。

冬山では、低山でも高山でも長々と休憩することはありません。基本的には5分程度で水分補給と行動食を食べるくらいです。お昼ごはんにゆっくり料理、みたいなことは出来ないと思ってください。

先読みして行動する

例えば樹林帯を登っている間はそんなに風もなく、運動量が大きければむしろ暑かったりします。ところが稜線に出て強風に吹かれると一気に冷えてしまいます。それを見越して稜線に出る前に強風に対応して着込んでおくと快適に歩けます。

稜線に出てしまうと強風のためにウェアを着込むのも難しくなります。先読みして脱ぎ着を調整するのが大事です。強風で脱ぎ着が無理なら樹林帯など風が弱い場所に移動してください。

朝、行動を始める際に外ですぐ着けるスパッツやアイゼンをエコバッグに入れて準備しておくとか、山小屋やテントに置いていくものを前日の夜に分けておくなど、準備段階から先読みして行動しておくことも大事です。

山では行動時間が長くなるほどリスクが高くなります。行動時間を短くするための先読みも重要です。ザックに入れるものも、よく使うものを上の方に入れたり、自分が使いやすいように配置しておくことも大事です。

リーダーはメンバーが効率よく動けるように、今後の情報や行動についてよく説明してください。でないと、人数が多いほど無駄な時間が発生して行動時間が長くなってしまいます。

冬山についてよく知る

雪の性質や天気の傾向などをよく勉強してください。冬の天気では、最低限「西高東低冬型の気圧配置」と「太平洋南岸低気圧」は知っておいてください。西高東低冬型になると山は大荒れです。関東の低山なら単に風が強くて寒いだけだったりしますが、北アルプスなどはハイリスクになります。

太平洋南岸低気圧は、普段はカラカラに乾いている太平洋側に雪や雨を降らせます。奥多摩あたりで雪が降るのは、太平洋南岸低気圧が来る2月~3月くらいです。

雪山の知識は多岐にわたり、座学だけで身につけるのは難しいです。実地で実技講習を受けて正しい知識を学ぶようにしてください。

実際は分からないですが、八ヶ岳辺りでトンデモなことをしてる登山者って、独学の自己流だったりするんじゃないかと思うんですよね。やっぱり人からちゃんと習ったほうがいいと思います。

特に、ピッケルやアイゼンの正しい使い方はちゃんとした人から習ってください。山岳会や山岳部に入って習ってもいいでしょうし、そういう会に入るのが嫌なら有料の講習会もあります。多少お金は掛かっても、絶対に人から習うべき技術です。

山岳会などで習えばお金は掛かりませんが、それは将来その会に貢献すると期待されてのものです。先輩から受けた恩は後輩に返しましょう。人に教えることは自分の成長にも繋がります。

まとめ

  • 服はレイヤリングで調整してください。

  • 厳冬期の高山と、厳冬期でも低山では必要なウェアや装備は全然違います。

  • 低山なら、3シーズン用の装備+軽アイゼン(チェーンスパイク)でもなんとかなります。不安なら防寒着を1枚余分に入れてください。

  • 余裕がある計画を作り、欲張らないように行動しましょう。

  • 体を冷やすと低体温症の原因になります。

  • 先読みして行動してください。

  • 冬山についてきちんとした人(プロがオススメ)から習ってください。

わぁい、サポート、あかりサポートだい好きー。