見出し画像

[無料]架空遭難 家族4人で登山、下山中に別行動をした夫が行方不明

架空遭難とは?

架空遭難とは、筆者が設定した遭難状況または遭難しそうな状態から想像し、どういうことが起こるのか?どうしたら良かったのか?を考えることで山岳遭難の防止を目指していこうという活動です。出題ツイートに反応することで参加できます。

今回の条件

  • 5月中旬、晴れ

  • 40代夫婦と小学生5年、6年の兄弟の4人

  • 相模湖の南にある石老山に登山

  • 10時登山口から登山を開始、山頂を13時に出発、展望台に13:50に着いて休憩

  • 妻と子供が3人は「トイレに行きたい」と先に下山。夫は「タバコを吸ってから行く」と残った

  • 3人は予定通り下山。夫を待ったが来ない。後で来るだろうと思ってバスに乗り相模湖駅で待ったが来ない

  • 電話は繋がらない

  • 家族でハイキングはするが本格的な登山は未経験と思っている。自分たちがやっていることが登山であったと気付いていない

条件には書いてないけど、子供達も来ていることから休日と思われます。自分たちがやっていることが立派に登山である自覚は無く、非常用の装備は乏しいと思われます。ツエルトはおろか、ファーストエイドキットも無く、ビバーク装備は無いと思われます。ヘッドランプも持っていない可能性が高いでしょう。多少の水と食料はあるかも知れませんが、下山中であり、残りは期待できません。タバコを吸うことからライターはあります。スマホは普通に持っているはずです。

出題ツイートはコチラ。

地形図へのリンクはコチラ。

石老山のハイキングマップはコチラ。

https://sagamiko.info/wp-content/uploads/2022/10/sekirouzan202210.pdf

どうなったのか?

電話が繋がらない理由は、電源オフ、機内モード、電池切れ、圏外、繋がっているけど出ない、スマホを落としたのいずれかと思われます。

夫がどうなったのかは色々想像できます。

  • 1:下山中に道を間違えて別の道を降りた
    展望台から先で道を間違えた場合、可能性は無数にあります。運良く比較的歩きやすい道から林道に降りていればいいのですが、そうでないなら割と絶望的です。下の地図のオレンジが予定コースで、赤線なら間違えても林道に降りられます。地形図上に描かれた徒歩道でも、緑線に道は無いので入り込んだらマズイことになりそうです。

青い線のどこに行ってもおかしくない。
  • 2:道を間違えた末にパニックになり全く予想できない場所にいる
    絶望的なパターンがこれ。上の地図の緑線や青線に入り込んでしまうと、どこに行ったのか予想するのは困難です。実際に歩きながら間違えそうな場所を探して、その先の尾根や谷を網羅的に探すしかありません。

  • 3:怪我をして行動不能になって山中にいる
    道迷いの末に滑落したか、普通に登山道でスリップして怪我をしている可能性もあります。石老山はコースによっては結構急で、転倒すれば普通に怪我をします。

急な部分にはロープがついていたりします。

道標にも「荒れているため通行注意!」などと注意書きがしてあったりします。山はすべてそうなのですが、石老山も侮れません。

警告が出ていました。
  • 4:行動不能にはなっていないが疲労から下山が遅れている

  • 5:少しだけ遅れてバス停に着いたが時間が空いているので徒歩で相模湖駅を目指している

4と5についてはあまり心配ありません。待っていれば相模湖駅に着きます。ただ、電話には出ろって話ですし、むしろ夫から連絡を入れるべきです。圏外なら仕方ありませんが、バス停に着けば電話も通じるはずです。なぜ夫は電話に出ない、掛けてこないのでしょうか?

妻はどうしたらいいか?

妻と子供の3人は、下山時間かバスの時間を考えると、15時半~16時くらいいに相模湖駅へ着いているはずです。

本当はバス停でもう少し待ったほうが良かったのですが、駅周辺の方がお店もあるので休憩したり買い物したりしながら待つという判断も仕方ないでしょう。スマホで連絡が取れる現代、そういう判断もあり得ます。
(一般的な登山者グループならバス停で待つと思いますし、そもそもパーティーの分裂もしないと思います)。

相模湖駅で待ったが夫が来ない、という設定なので買い物やお茶などしながら17時まで待ったとしましょう。待っても来ないし電話もメッセンジャーも繋がらない、既読にもならない。そろそろ焦りが出てきます。

心配な場合は、駅の近くに交番があるので相談してみるといいかも知れません。相談してた時点で遭難の扱いになるのか、もう少し待つように言われるかは分かりません。お巡りさんの判断によるのかも?

相模湖周辺の飲食店は閉店が早く、17時までに閉まるお店もあるし、遅くても20時には閉まります。駅からちょっと離れていますが、相模湖の湖畔、国道412号線沿いにガストがあり22時まで営業しているので子どもたちに夕飯を食べさせながら待つという手段もあります。こういう情報はGoogleマップアプリで調べられます。

いくら待っても連絡もつかない、下山してこないのであれば警察に頼るのが一般的でしょうか。本人が登山に慣れていて、登った山のスケールが大きいのなら下山遅れの可能性もあります。ビバークしている可能性もあるので翌朝まで待ってもよいでしょう。しかし、行動時間が短い山から帰ってこないのは却って心配です。

で、結局夫はどうしたのか?

夫がどうなったのか?は乱数で決めてみましょう。前述の5パターンからランダムに選ぶこととします。下記サイトで1から5の範囲で乱数を出したところ、「4」と出ました。

4:行動不能にはなっていないが疲労から下山が遅れている

電話に出ない理由も乱数で出しましょう。
「1:電源オフ、2:機内モード、3:電池切れ、4:圏外、5:繋がっているけど出ない、6:スマホを落とした」

乱数は6と出ました。『スマホを落とした』だそうです。

以上の結果から、どうなるか先を予想してみましょう。AIに夫の手記として書いてもらい、加筆修正しました。

13:50
展望台で家族と別れ、一人でタバコを楽しんだあと下山を始めた。家では自由に吸えないが、ここならゆっくり吸うことが出来る。吸い終えて下山していると、途中でスマホが無いことに気付いた。だいぶ降りてしまったが、慌てて展望台まで戻ってスマホを探した。しかし見つからず、更に引き返して行ったが見つからない。時間だけが過ぎていく。スマホさえ見つかれば連絡が出来るので、とにかくスマホを見つけようと必死で探した。

16:00
大きく時間をロスし、疲労も重なってきた。結局、スマホは見つからず、諦めて下山することにした。焦っていたので正しい道だったのかはわからないが、とにかく林道には出られてバス停に着いたが誰もいなかった。家族は先に帰ったようだ。焦りばかりが募る。スマホ頼りの生活で財布を持ってこなかったためバスにも乗れない。仕方ないので道路標識を頼りに歩いて相模湖駅を目指した。疲れた足が重く、痛みもある。

17:30
相模湖駅に着いたが、家族の姿はない。もう帰ってしまったのだろうか。当然電車に乗ることができないので、しばらく待ってみることにした。しかしいくら待っても彼女たちは姿を見せない。心細くなりながらも、ふと交番を思い出した。交番で電車代を借りようと思った。

18:30
交番でいきさつを話して電車代を借りようとした時、警官が「さっき相談に来た家族じゃないか?」と気付いたようだった。妻との連絡がつき、彼女と子供たちがガストから戻ってくることになった。

19:00
家族と再会し、一安心。しかし、妻からはこっぴどく怒られた。今日は一日、多くの人に迷惑をかけ、家族にも心配をさせてしまった。しかし、最後は無事に家族と再会でき、何よりもそれが幸せだった。これからは、この経験を生かして、もっと慎重に行動するようにしようと心に誓った。今日一日の出来事は、忘れられない家族の思い出となった。

スマホは展望台のベンチの裏に落ちていたようだ。後日相模湖駅の交番から連絡があり取りに行った。あれほど探したのに、なぜ見つけられなかったのか不思議だが、山とはそういう不思議なことが起こる場所なのかも知れない。


まぁ、最後は再会できて良かったです。乱数の出目によっては夫が死ぬ未来もあったわけですからね。しかし、反省は必要です。なにが悪かったのでしょうか?

パーティーを割ってはいけない

パーティーを割って別行動をすると、この様に一人静かに詰んでいくことがあります。今回は乱数に救われて下山できましたが、運が悪ければ行方不明のまま、数年後に全く予想外の場所から遺体が発見される(または永遠に発見されない)こともあります。

道迷い遭難ではしばしば、誰にも予想できない場所から遺体が発見されることがある。

「歩くの遅いから先に降りてるね」
「先に降りて片付けしておくよ」
「靴紐結んでから行くから先に行ってて」
「予定あるの思い出しから先に帰ってるね」

こういうのは登山のパーティー行動としてはNGです。よほど慣れている場所でも、出来れば最後まで一緒に行動してください。スマホのアプリで位置を共有しているから大丈夫?いやいや、大丈夫じゃないですから。

山中で別れたのが今生の別れにならないように、最後まで一緒に行動してください。最低限、誰かを単独にはしないでください。パーティーを割るにしても2人以上の大人で構成されるようにしましょう(※)。

※…以上の話しを分かったうえで、それでもパーティーを割るのであれば分かってやってることでしょうから無理には止めません。ご自由にどうぞ。

バックアップと予防措置の重要性

今回はスマホを落としたのが致命的となり、連絡が不可能になってしまいました。もしスマホを落としていなければ、引き返して大きく遅れることはなかったし、多少遅れても連絡が出来れば遭難沙汰にもなりませんでした。

現代社会においてスマホは命綱です。電話であり財布であり地図であり、現代文明のすべてが詰まっていると言っても言い過ぎではありません。そんな重要な機器の扱いが雑ですよね。

落とさないようにストラップを付けておくとか、ケースなどで保護するのも大事ですし、モバイルバッテリーやケーブルは必須アイテムです。登山では特に重要な装備ですから、万一にも使えないようにならないように対策しましょう。

今回は財布が無かったためにバスに乗れず、余計に時間が掛かりました。結果的に交番に寄る理由となり、家族と再開できましたがスマホを持っていても多少の現金は持ったほうがよいでしょう。

忘れ物に注意しましょう

登山中に休憩して、その場になにか落としたり忘れたりすることはよくあります。スマホ、ストック、地図、手袋、帽子、上着などが定番でしょうか。休憩中に出し入れする装備を忘れがちです。重要な装備を忘れたらその後の行動に支障が出ますし、取りに戻れば時間と体力をロスします。

休憩場所から出発する時は、重要な装備を無くしていないか確認しましょう。自分がいた場所に落とし物や忘れ物をしていないかよくチェックしましょう。複数人で登山をしているのなら、お互いにチェックしましょう。指差し確認をしてよく見てください。

地味ですが、こういう細かい確認の積み重ねが安全登山に繋がります。

無自覚登山者による実質登山はNG

石老山はハイキングコースとして紹介されるカジュアルな山で、登山道もしっかり整備されていて歩きやすいです。多くの人は問題なく登って降りて、相模湖を観光して帰っていきます。

しかし、とはいえ山は山です。トラブルが起きれば街にいるときより対応は困難で、自分たちで対処しなくてはいけません。道を間違えて登山道から外れてしまえば、10m進んだだけで歩行は困難になり、滑落などして怪我をすれば行動不能、そのまま誰も来なければ死ぬリスクさえあります。

簡単に見えても山に入るんですから、それなりの準備が必要です。その日に帰ることが出来なくて、山中で過ごすことになることを想定していますか?一泊を耐えられる装備を持っていますか?正しく使うことが出来ますか?明日の天気予報を知っていますか?登山について何を知っていますか?

低山の登山は、運動着とスニーカーがあれば始められそうな気軽さがあります。天気が良くてトラブルが無ければピクニック気分でも問題ありません。しかし、軽い気持ちでやっているそれはまさに登山で、山という危険地帯に入って遊んでいるのだということを自覚しなくてはいけません。

あなたがハイキングやピクニックだと思っているその遊びは、低山でも高山でも『登山』です。事故れば仲間や自分が死ぬリスクがあるということを忘れないでください。

そう思えば、行動中パーティーを割るなんて事は出来ないですよね。

山頂で酒盛りもやめましょうね。宴会は下山してから。

わぁい、サポート、あかりサポートだい好きー。