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映画「支那の夜」の「タブー」から救出された「蘇州夜曲」:一戸信哉の「のへメモ」20220119

先週1/14の放送が終わりました。蘇州在住の先輩のインタビューということから、平原綾香さんの「蘇州夜曲」をオンエアしました。

ただ実は、蘇州夜曲もまた、映画「支那の夜」をめぐる荒波に揉まれ、不遇の時代があったようです。森達也さんの著作「放送禁止歌」によると、「支那の夜」や「蘇州夜曲」は、80年代に駐日中国大使館から抗議があり、放送では使われなくなったのだとされています。その経緯ははっきりしませんが、「支那」という表現がそれだけ、中国の人々が不快感を持つ表現となってしまったということなのでしょう。もちろん「支那」はChinaやCinaと同じ語源なのですが、侮蔑的なニュアンスを日本人がこめていたのだと、少なくともそのように捉えられているのだと、理解しています。

世代が変わり、今の現役世代の中国の人々がどのように感じているのか、実際のところはよくわかりませんが、「支那の夜」はすっかりタブーとして定着してしまったのは間違いのないところです。

「蘇州夜曲」もまた微妙な立場におかれたわけですが、作詞:西條八十(さいじょうやそ) 作曲:服部良一の美しい曲は、広く支持されて、少なくとも日本ではさまざまな歌手によって歌われています。
「支那の夜」とともに放送から消えていた時期もあったようですが、2007年に放送された、上戸彩さん主演のドラマ「李香蘭」では、上戸彩さんが「蘇州夜曲」を歌い、「蘇州夜曲」は「復権」をはたしました。

今回放送では、平原綾香さんのバージョンでお届けしました。このほか、オリジナルの渡辺はま子さんの音源、李香蘭のバージョン、美空ひばりさん、島谷ひとみさん、純名里沙さん、ほかにもたくさんの歌手が歌っています。



中国語版の「蘇州夜曲」はそう多くはなく、長く「タブー」となっていた経緯を想像させられます。1943年の白虹のバージョンがあるということは、歌そのものは受け入れられていたのかなあということを想像しますが、戦後はほとんど作品がなく、Spotifyで見つけたのは、台湾の辛曉琪Winnie Hsin、ウィニーシンさんが歌ったバージョンだけでした。この曲が背負わされた日中関係の「重荷」を、複雑な気持ちで受け止めるしかない、というところです。



番組の中で紹介された、「世界遺産」の街、蘇州の美しさは、日本人にも大変人気があります。歌をめぐって人々が争っても、歌が扱っている蘇州の町の美しさは変わらず、そして分け隔てなく、日中の人々を魅了するのでしょう。

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