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遭遇する将人

 自業自得な気もしますが、快楽が惨劇に変わってしまいました。

 モデルの仕事を終えて、夜はずっと家にいた俺は、アパートの他の部屋が騒がしいのに気づいた。
「病気が流行っているのにどんちゃん騒ぎか。病気が広がるからやめろよ・・・。」
 今は病気が流行っているというのに、若い男性の集団が平気でどんちゃん騒ぎをしているようだ。俺も彼らにも病気が広がるからやめろと注意したいが、余計な口は出さない。
「純子が先輩を心配していないか気になるぜ。」
 俺も純子が先輩を心配していないかも気になる。いつ何時も兄姉や先輩を優先する純子だから、先輩が病気にならないかも心配であろうが、先輩を心配しすぎて純子が倒れてしまってはならない。
「男性の声が響くぜ。」
 若い男性達のどんちゃん騒ぎの声も響くが、俺はそちらを意識しなかった。騒ぐなら好きに騒げと思う。
「皆も病気にはならないでくれ。」
 だが、俺も皆が病気にはならないで欲しいと思う。病気も辛いのだから、そちらも気をつけて欲しい。
「寝る時間だぜ。」
 夜寝る時間には俺も寝ついたが、どんちゃん騒ぎは暫く続いた。
「夢じゃないぜ。何だか皆の様子がおかしいぜ。」
 寝ていた俺は、先程のどんちゃん騒ぎとは明らかに違う騒ぎ声で、鮮明に目を覚ましてしまった。どんちゃん騒ぎをしていた皆の様子がおかしい。俺も目を覚ましてしまったので、夢ではない。
「騒ぎじゃないぜ。皆苦しんでいるぜ。」
 若い男性達の苦しむ声、泣き声、呻き声、阿鼻叫喚が響きわたる。俺も寝てもいられなかった。
「何があったんだ。」
 俺はパジャマに上着を着て、片手に携帯を持って、部屋を飛び出した。
「助けてくれ。誰か起きてくれ。」
 皆寝ているはずだが、俺は誰かに助けを求めようと各部屋の呼び鈴を押した。だが、当然関係ない者は皆寝ていて誰も起きない。
「何の騒ぎだ。」
「皆が家で宴会の料理でお腹を壊しました・・・。」
 俺が最後に呼び鈴を押した部屋から、どんちゃん騒ぎのメンバーの男性が出てきた。俺達くらいかその後輩くらいの、メンバーの中では真面目でおとなしい様子の男性だ。
「痛い・・・!」
「腹いてえ・・・!」
「下痢だ・・・!」
「気持ちが悪い・・・!」
「酷い有様だぜ。俺も見ていられないぜ。」
 若い男性達が何人も腹痛、下痢、嘔吐等の症状に苦しんでいる。俺も見ていられない酷い有様だ。
「何を食べたか教えてくれ。」
「闇鍋をしました。他にお菓子等も食べました。僕は闇鍋には手を付けませんでした。」
 俺も皆が何を食べたのか聞いたが、一人腹を壊していない彼は闇鍋をしたとも、菓子等も食べたとも冷静に言った。彼は闇鍋は食べていなかった。
「集団食中毒だぜ。これは酷いぜ・・・。」
 腹を壊した皆は次々とトイレに駆け込んで、間に合わない者は床にまで出してしまっている。先程までのどんちゃん騒ぎが、見るに耐えない惨劇に変わってしまった。
「汚したのは僕が片付けます。」
 彼は床にまで広がった汚物を必死で、しかし責任をもって片付けた。
「俺が救急車を呼ぶぜ。」
 携帯電話をとっさに手に取った俺は、救急車を呼んだ。
「火事ですか?救急ですか?」
「救急です。若い男性数人のグループが集団食中毒を起こしています。住所は・・・です。」
 緊張も恐怖もあったが、俺も的確に通報した。救急車が来るまでの間、俺も惨劇の現場の掃除や片付けくらいは手伝った。
「救急隊です。助けに参りました。」
「患者はこちらです。」
 駆けつけた救急隊に、難を逃れた彼が応対した。腹を壊した皆は担架で運び出され、救急車に乗せられた。
「身体が辛いです・・・。」
「体調不良ですか。」
 腹を壊さなかったはずの彼が、身体が辛いと訴えて咳込んだ。救急隊員も心配して聞いた。
「患者だ。」
 腹を壊してはいないが、咳や体調不良を訴えた彼も、救急隊に連れて行かれてしまった。
「あなたは体調は大丈夫ですか。」
「俺は大丈夫です。」
 救急隊に体調を聞かれたが、俺はこの時は何ともなかった。だが、俺は彼ら以上に身体が弱いので、病気にも特に気をつけないとならない。
「夜中の惨劇だぜ・・・。」
 予想もしない惨劇に遭遇してしまった俺だが、自室に帰って、明日の仕事にそなえて再び寝ついた。
「皆で集まると安心だが、時に危険だぜ。」
 俺も皆で集まると安心だが、時には危険な事態を招くのも改めて感じた。決して他人事ではないのも、この先も気をつけないとならないのも、俺も痛感したのであった。

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