『La Mère 母』を夫と観た話
岡本健一氏の舞台を観るのは30年振りだったでしょうか。
男闘呼組の大ファンだった私は、その中でも岡本健ちゃんが大好きだったので、彼が芝居の世界に入った当初、『唐版 滝の白糸』『ペール・ギュント』『蜘蛛女のキス』と背伸びして劇場に通ったけれど、当時の私にはまだ難しい内容で、急激に健ちゃんが大人になってしまったような気がして、そのまま足が遠のいてしまったのでした。
昨年、男闘呼組が奇跡の再始動を果たし、正式に解散をするまでの一年間、できうる限りライブに行って満足したので、新しく結成したRockon Social Clubのライブは、控えめに参戦しようと、勢いを弱めていた矢先のことでした。
健ちゃんが息子である圭人くんと共演する舞台があると知ったのは。
これは観たい。
やっぱり一年限りじゃなかったじゃない。
そう夫に言われるのは目に見えていましたが、それでもやっぱり観たいものは観たい。
葛藤の中でチケット購入情報を見たり閉じたりしていると、ふと、健ちゃんのインスタに、好都合なハッシュタグを見つけました。
#特に父親が観なければいけない
#男も劇場に !
「ねぇねぇ、チケット取れるかわからないけど、もしチケット買えたら、たまには一緒に観に行かない?男性も観た方がいいみたいよ?」
そう夫に声をかけると、「あなたチケット運いいんだから、当選するに決まってるじゃないの」と夫が言った通りに、『La Mère 母』も『Le Fils 息子』も、希望の日にち(しかも『La Mère 母』は初日!)のチケットが購入できてしまったのでした。
それで、観てきました。『La Mère 母』を、夫と。
初めての芸術劇場シアターイーストは、お芝居を観るにはちょうどいい規模で、座席運まではなかったかと少しガッカリした後方席でもとても観やすく、舞台に没入できるいい劇場でした。
重たいテーマであることは想像できていたので、健ちゃんはきっとエキセントリックな役どころだろうと勝手にイメージしていたのですが、至って普通の父親役を演じていて、むしろそのことに、役者としての深みを感じました。
母親役の若村麻由美さんが、なんとも迫力があり、現実と妄想を行ったり来たりする役を見事に演じ切っていて圧倒されました。
これ、同時公演の二演目を一ヶ月間演じるの、相当身を削るだろうなぁ。
母から息子へ向けられた愛はとても深く、もはや彼女の一部となってしまっている。
それは、彼女の胎内にいたときから始まっていて分離できずにいるものなのか、自立するまでに甲斐甲斐しく世話をする毎日の幸福感の中で積もり固まってしまったものなのか。
いずれにしても母は、息子の自立によって、心に穴が開き、娘や夫からも見放されてしまったような錯覚に陥ってしまうのです。
夫は、劇場を出ると真っ先に「うちの母そのものだよ」と言いました。
私もそう思いながら観ていたよ。
幸か不幸か、私は母親役を演じているものの、常に一定の距離を取ってツムギと接しているので、この母に共感する部分は極めて少ないと感じました。
ただ、そうなってしまうことに理解はできると思いました。
ツムギを育てる三年間のうちに、蔓延る母神話のようなものを、嫌というほど感じてきているからです。
彼女の『孤独感』には共感できる。
舞台では、息子の自立後の『孤独感』が描かれていましたが、きっと育てている間にも、無意識の中に『孤独』を積もらせていたのではないかと思います。
子を産み育てることは尊いことだけれど、そこにフォーカスし過ぎて、しんどい思いをしている人は想像するより多いのではないかと思います。
母だけでなく、子も、父も、子を持たない人までも。
「お義母さんが観たら、どんな風に感じるんだろうね」
きっと大きく心を揺さぶられるに違いありません。
岡本親子の共演の凄みは、恐らく『Le Fils 息子』で見せつけられるのだろうと思います。
夫は、何も言わなくても当然のように、次の公演を楽しみにしているでしょう。
贔屓目ではなく、多くの方に観てほしい作品に仕上がっていると思いました。
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