第17話:テイラーの思想と経営学
前回のおさらい
前回はマネジメントの誕生と切っても切り離せない存在である産業革命を説明しました。産業革命後に出てきた、生産の4つ目の要素である「アントレプレナー」の登場や「労働や雇用の問題」に直面し、マネジメントの必要性にかられることになったのです。
今回は、工場生産の効率化に命を注いだ男の話をしていきます。
科学的管理の降臨
19世紀の後半に産業革命の新しい段階が始まりました。産業は、技術的進歩や動力源の変化によってどんどん発達していきました。
その結果、前回のおさらいでも話ししたとおり、労働管理関係の課題が複雑に絡まって登場してしまうのです。この当時の人、特に経営者にとってはマネジメントの実践をシステム化することが求められたのです。これまで、労働管理関係の課題はお金で解決するといった方法が取られていたのですが、大量に人を雇うということを考えると労働者との交渉だけでも骨が折れてしまうのと、それ以外の問題もあったため、システム化していくことが望まれたのです。それ以外とは後ほどお話していきます。
その時代に登場したのがフレデリック・テイラーです。彼は科学的管理法を考案し、工場生産システムをシステム化しようと試みた人です。
テイラーの生い立ち
アメリカのペンシルバニア出身で、彼の父は法律家で裕福なリベラルクエーカー教徒でした。父親と同じく法律家になろうとしていたが、視力の低下により断念してしまった過去があります。
断念した後、フィラデルフィアのハイドローリック・ワークスの機械工の徒弟になりました。この時に、テイラーは労働者の考えに共感するようになりました。テイラーはその時の環境を、「悪質な産業状態」と評価していました。
その後、鉄鋼会社のミッドベール社に転職をし、最終的にチーフエンジニアになりました。この時、彼の工場管理に関する考え方が確立されたと言われています。
なるほど、テイラーは、裕福な家庭で生まれて、法律家を目指していたぐらいなのでしっかりとした教育を受けていたはずです。しかし、道半ばで諦めないといけなくなったのですが、働いた先が、かなり厳しい労働環境の中であったということから労働者の考え方に共感して、転職先の鉄鋼会社では管理者になったところからもわかるように、労働者もマネジメント側の気持ちもわかる、秀才であったということがわかります。
自然的怠惰と組織的怠惰
そんな、労働者の気持ちもマネジメントの気持ちもわかる、テイラーの問題意識の始まりは、「サボる」ことへの疑問からでした。日本ではあまりイメージできないと思いますが、この当時のサボりはひどかったようです。
冒頭で、マネジメントの実践をシステム化していくことが必要であると言ったときに、お金で解決したら再現がないという話ともう一つあるということを言ったと思いますが、もう一つの問題がこの「怠惰」なのです。
工場ではサボるということは当たり前であったのですが、クエイカー教徒のテイラーにとっては当たり前として見逃すことができなかったようです。キリスト教の一宗派のクエイカーは、質素な生活や平等主義、また”誠実”であることが求められています。
そう、この誠実さの実践をしていたテイラーだからこそ気づけたのが「怠惰」だったのです。
サボるすなわち「怠惰」をテイラーは「自然的怠惰」と「組織的怠惰」の2つに分類しました。
自然的怠惰は「生まれつきの本能や、楽をしたがること」からきます。一方、組織的怠惰は「より難解な第二の考えや、他人との関係から来る推論」によっておこると分析したそうです。自然的怠惰は、目標やインセンティブによって解決できるが、「組織的怠惰」はそう簡単には解決できない。そう、この目標やインセンティブ(お金)では解決できないサボりがあったのです。
組織的怠惰と言う課題から管理の問題の発見へ
組織的怠惰の理由は、テイラーによると「労働者が生産効率を上げると仕事がなくなると思っていた」ことや、「間違った管理によって怠惰が起きていた」、「昔ながらの方法にこだわっていた結果」などをあげていました。
今でもありますよね、定時前にすべての仕事を終えてしまった状態で暇そうにしていたら何か頼まれてしまうのでは?とか簡単な仕事だからなくしてしまえということにつながるとか、、、(見に覚えあります)
テイラーは怠惰とは言え、労働者の問題ではなく「管理」に問題があったと指摘しました。テイラーは怠惰を起こさないためにいろいろな策を講じたのです。
・怠惰しないように説得
・バツを与える
・差別的出来高賃金(インセンティブ)
・道具の標準化
・機能別職長制
これらを生み出しました。
特に、差別的出来高賃金制度は有名な理論で後ほど詳しく見ていきます。また、道具の標準化や、かつて経験や勘に頼られていた「親方」の機能を細分化しました。各職能をそれぞれに特化した別々の人物に担当させることにより、機能性の追求と合理化を図ったそうです。
テイラーが作り出したシステム
テイラーは以下の3つのシステムを主に作り上げました。
1.賃金率設定のための時間研究
2.差別的出来高賃金システム
3.賃金を地位ではなく人に支払う
テイラーは、作業工程を計画して賃金率や仕事を標準化することにしました。標準化は、しっかりと研究することで経験や勘に頼らず合理的に判断したということもポイントです。これまで「職人」という経験と勘にたよることでまかなっていた工場生産を否定し、徹底的に標準化に務めました。
次に、この標準化によって、差別的出来高賃金システムが実現しました。これは、標準に達しないものは通常の賃金が支払われ、標準を達成したものは多額の支払いを受けることになる制度です。より多くの賃金を得るために「標準化された方法」に従うように刺激したんですね。能力がない人に対して賃金を減らすということをしなかったのもテイラーの誠実さたるものだと思っています。
また、賃金は地位が上の人に支払われるのではなく、こうした出来高が多い人に対して支払われるということも非常に大切な制度の中の1つでしょう。
科学的管理法
テイラーは彼の最も有名な著書の『科学的管理の原理』の目的を以下の3点と述べています。
1.国全体が大きなロスをしていると言うことを簡単な例で明らかにする。それは、我々の日々の行動での非能率的なことが影響している。
3.この非能率的を直すためにはシステマティックな管理が必要である。
3.ベストな管理を達成するために正しい科学すなわち法則や原理を基にした物である。科学的管理の原理は人間の活動に応用することができる。
今となってはもうマネジメントの中では当たり前の考え方でしたが、これまでこのような考え方はなくてここで新しく生まれたということがすごいところなのです。
また、テイラーは真の科学の発達、労働者の科学的選択、労働者の科学的教育や能力開発、労使間の友好的な協働の原理を考えの中に持っていました。『科学的管理の原理』の中でも
科学であり目分量ではない
調和であり、不和ではない
協調であり、個人ではない
最大の生産をし、限られた生産をやめる
それぞれの人の発展をし、最大の能率や繁栄をする
と非常に合理的かつ人間的な考え方を持っています。
しかし、労働組合が「労働強化や(時間研究による)人権侵害につながる」として「科学的管理法」の反対運動を展開していきました。人一倍人想いなテイラーも労働組合から批判を受けてしまったのです。彼が亡くなるまでずっとこの科学的管理法の正当性を訴えていました。
現在、能率協会という協会が彼の考え方を引き継いでいます。日本にも「日本能率協会」という支部があることで有名なところです。
テイラー後の経営学者たち
テイラーの時代の後、アンリ・ファヨール、チェスター・バーナードたちにより、管理経営や組織論が整備されていきました。
また、イゴール・アンゾフよって、経営戦略と言う分野で成長をするためには、市場と製品を軸にして、既存商品の「市場浸透」「市場開拓」と、新商品の「製品開発」「多角化」の4つに分類する手法を考案しました。
こうした人達の考え方を体系的に捉えたのが、ドラッカーのマネジメントです。ドラッカーのマネジメントはあまりにも有名なのでここで触れる必要はないと思いましたので割愛しますね。
まとめ
近代経営学の生みの親のテイラーについて詳しく見てきました。
かれら経営学者はその時代に直面した問題点に取り組み、さらには彼らの思想を組み合わせることで新しい経営課題の解決に向かわせたということが言えるでしょう。ここでお伝えしたかったのがこういうことです。明日絶対に役に立たないマーケティング論と謳っている以上テイラーが直面した問題点はこうして解決したというこの道筋をしることでマーケティングにも活かせないのかと思っている次第です。
さあ、次回からは「哲学」のお話をしていきます。どうぞお楽しみに!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?