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女王様と僕 | 1−6−4 | 下上ル(シモ・ノボル)と秋の夜に見る春の夢 園肆(四)

山ン(ヤーマン)は、紙とボールペンを取り出すと、カウンタに置いた。
「な、下上ル(シモ・ノボル)よ。もう一つ大切なことを教えてやる。お前が絶対気づいていない自分の力を。
あ、マスターおかわり。」

「小学校の頃とかSIR。名前、立体文字でかかなかった?」
「あぁ、やりましたね。」
「それ、最近やったか?」
「いえ、やりませんよね。普通。」
「MA/NA。これが意外とすごいんだわ。たとえば、俺の名前の{山}。これを書くとだな…」

ヤーマンが立体文字で紙に山と書き、紙に手を突っ込んだ。
(突っ込んだ…)
で、紙から手を取り出すと、ハサミを持っている。

「ハサミ…」
「SODA。ハサミ。ま、山っていう字がハサミっぽいだろ。で、俺は真実を
 切り取るラッパーだから、ハサミが武器ってわけDA。」

…言いながら、机の上の僕のスマホを手に取る山ン(ヤーマン)。そのままハサミをぶっ刺した。
プッシュ通知に出ているスマートニュースのお知らせ記事をザクザク切っていく。
…中から現れたのは…糸…?

「そう、糸(意図・IT)だ。」
「ダジャレ…」
「ダジャレではない。ライム(来夢・韻・RHYME)だ。なんとでも言え(YEAH)。これを…」
と、燃やす。意図は燃えながら叫ぶ
「政府筋から毎年免税される20億分の対価として書かれている提灯記事の
 一つ!読めばわかるだろVOKEが!!!」
…って、ほんと、意図だわ。

「そうだ、どうだ、SEEK YA!刈る頭脳の中のカルマ。お前丸裸。
 ああだこうだ言ってもコレが意図のSITを夜(YO)に晒すぶち壊す!
 知っとけ俺が山ン(ヤーマン)だ。」

拍手。え、あ、マスター。って泣いてる。嗚咽…。
いろいろあるんだな…。

「これが俺のMASTERKEYだ。」
「ますたーきー?」
「VOKA。空気嫁。」
「(ラッパーは喋ってるだけでも変換が大杉で分かりづらいな…)」
「いいか。要は、デキる奴の武器だ。それぞれ武器がある。俺の山は真実を
 切り取るハサミ。お前は?」
「知らない。」
「VOKE。イメージせんかい!」

「要はね、名前の漢字の形から、想像するんだよ。」
マスターは、丁寧だ。変態だけど。

「ほれ、イメージしたか?」
「…す」
「書け」
僕は書道教室の帰りだったことを思い出し、おもむろに、半紙と筆を取り出す。
「お前…」
「ダメですか?」
「EE」
墨をする。円を描くように、水に黒が溶け込んでいく。
心をこめて、紙に、立体文字で、【下】と書く。
後ろで、山ン(ヤーマン)がビートボックスをやっている。
ちょっとテンションが上ってくる。
【下】を書き終わる。
続いて【上】も書こうとすると、ひっぱたかれた。
「VOKE。欲張るNA」

「いい【下】ね」
マスターが割り込んでくる。なんでか、ちょっとオネエ口調だ。

「さ、イメージして、手を突っ込め」
「…す」

本当に、手が入っていくのか…。
「垂直にいけよ。つっかえるからな」
入った…。
何かが手に触れる。硬い。
お。イメージどおりだ。
おもむろに引っこ抜くと…。
刀が出てきた。
「御前…物騒なもんだし棚」
「これ、どう使うんでしょ?」
「それ考えるのが楽しいんじゃない。」
「ですよね」
「イメージしたんだろ?」
「ハイ」
「どうしたい?」
「変えたいのです。気づかせたいのです。世の中の皆様に」
「斬る(KILL・切る・伐る)んだろ。換えるために。何(も)か(も)を。
俺の糸と御前の刀。ME TO WE.山ン(ヤーマン)と下上ル(シモ・ノボル)。どんな峠を超えるんだろうな。」

そうだった。山と上下で、峠。
もはや戻れないところまでやってきた気がする。
2(01)8の夜。
準備を始めよう。
これから会いに行くべき人を頭の中でリストアップし始める。
待ってろ、僕の女王様。

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