見出し画像

スポーツバー物語14-男のプライド(格闘技編③)特別編「不死鳥伝説」-

今回は特別編ということで、あるプロレスラーとの思い出を綴っていきたいと思います。その選手は 1995年大仁田厚選手の引退試合(電流爆破マッチ)の相手を務めたほどの将来有望な選手でしたが、2001年試合中の不慮の事故で頸髄を損傷、首から下の不随麻痺で車椅子の生活を余儀なくされます。しかし彼はプロレス復帰を目指して血の滲むようなリハビリを続け、奇跡的に自力で立ち上がるまでに回復します。そんな選手との思い出です。

不死鳥の名は「ハヤブサ」

 その選手は「ハヤブサ」選手と言います。 

私がハヤブサ選手と出会ったのは、大阪門真のある知人を介してでした。

その知人は飲食業を営みながら、プロレスの地方興業にも携わっていて、「大阪でハヤブサ選手がイベントを行いたいと言っている。ケイタズバーを会場として貸してもらえないか」という相談があったことがきっかけです。

もちろん快諾させていただきました。

イベントは元FMW藤田深さんを司会に、トークショーという形でおこなわれました。

車椅子のハヤブサ選手がメイン、付き添いにはGOEMON選手が来られました。

ファンが30名ほど参集し、トークショーと写真撮影などを楽しみました。

トークショーの様子(撮影;鈴木慶太)

「お楽しみは、これからだ!」


 トークショーの記録が残っていましたので、Q&Aからハヤブサ選手とのやりとりを抜粋してご紹介します。

Q「くじけそうになった時、何を思って頑張りますか?」

A「試合中はみんなの声援、練習中は追い詰められた責任感、それ以外は家族。」

Q「信じているものは何ですか?」

A「何でもあるもの全て。否定することはイヤ。可能性、未来、夢、口に出したもの。」

Q「つらいリハビリや生きていこうと思った決断は?」

A「首から下が動かない、しゃべる事もできない・・・死ぬ事すらもできない・・・。
しゃべれるだけでもどれだけ幸せか。
やろうと思ったらできる。
最初は周りの心配もあわれみに感じ、ほっておいてほしいと思っていた。
自分が最悪だと思っていた時よりもっと下がある事がわかった。
それが分かってからはできる限りの対応を心がけている。
つらい時はいっぱいあるけど可能性はもっといっぱいある・・・・・。」

記録には(会場涙)とありました。

最後はお馴染みのコール「お楽しみは これからだ!」のエールでショーは終了しました。

ハヤブサ選手は素顔でファンと会話する

ー2003年12月16日ー

愛と勇気とアルコール

 そのイベントの打ち上げが関係者のみで行われ、私も同席させていただきました。

ハヤブサ選手もお気に入りの焼酎「魔王」を器用にストローを使いながら気持ちよく飲んでいました。

ふとした会話から、私とハヤブサ選手が同学年だとわかり、二人は大いに盛り上がりました。

ハヤブサ選手とはすっかり打ち解け、それは我々二人のコールを「愛と勇気とアルコール!」に決めてくれたほどでした。

私は、とても嬉しい気持ちになりました。

宴も終盤にさしかかり、それぞれがそれぞれの話題で盛り上がっている時、突然、ハヤブサ選手が静かに歌を歌い始めたのです。

それは陽気な歌ではなく、ゆっくりとした心に響く歌でした。

一瞬で空気が静まり返り、誰もがその歌に聞き入りました。

その空間は微笑ましくもあり、どこか悲しげでもありました。

厳粛で特別な雰囲気に、私も含めて皆涙していました。

悲 報


 私はあの日以来、ハヤブサ選手のファンになっていました。

その後も大阪で開催されたプロレス興業などで、ハヤブサ選手がスピーチをする時は足を運んだりしていましたが、会って話す機会はあまりありませんでした。

そんな時、ハヤブサ選手の体調が思わしくないという噂を聞きました。

私はお見舞いを兼ね、話す機会をもらいに、思い切って神奈川県戸塚のハヤブサ選手の自宅を訪ねました。

GOEMON選手が出迎えてくれて、再会を喜ぶと共に暖かく迎入れてくれました。

ハヤブサ選手とは数分雑談したあと、リングへの復活の約束をして部屋を後にしました。

ハヤブサ選手は特に疲れた様子もなく、いつも通りで私は安心して大阪に戻りました。

彼が亡くなったというニュースが流れたのはそれから間も無くでした。
(2016年3月3日 死因はくも膜下出血)

その時はただ途方もない虚脱感に襲われ、何もできなかった無念さもあり、とても落ち込みました。

彼と接した時間はとても短い間でした。

しかし、一方的にですが彼に対する愛着、つながりを持てた気がしています。

「Life is..」


 最後に平井堅さんの「LIFE is..」という楽曲のPVを見ていただきたいと思います。

様々な事情を抱えた人々のストーリーを描く楽曲で、曲中そんな一人としてハヤブサ選手も登場します。

曲の終盤、プロレスどころか一生車椅子生活を宣言されたハヤブサ選手が、不死鳥の如く渾身の力で立ち上がるシーンがあります。

そして最後、彼は優しげな笑顔を見せてくれるのです。

彼はまさに不死鳥であり、今も多くの方に勇気と優しさを与えてくれています。

今回はここまでになります。
最後まで読んでいただきありがとうございました。スポーツバー3大スポーツのシリーズも終了となりました。

次回からは、またスポーツバーでの出来事に戻る予定です。よかったらまたご覧ください。皆さんも愛と勇気とアルコールを❗️
感謝。
注)冒頭の写真は私の父が撮影したものです

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?