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平等と公平を考える−カナダ・トロント留学を通して

 2017年4月から2018年3月までの1年間,大学の海外研修制度を利用して,カナダのトロント大学で加齢による脳科学について学ぶ機会を頂いた.
 トロントについて簡単に紹介すると,人口約300万人が生活するカナダ第一の都市,金融業が主な産業であり,カナダであるにも関わらず,NBA(ラプターズ),MLB(ブルージェイズ)やアイスホッケー(トロント・メープルリーフス)などスポーツが盛んである.
 
 私も滞在中は,研究の合間をぬって,ブルージェイズの応援に幾度となくスタジアムに足を運び楽しんだ.1年間のトロントでの生活を通して,私の物事に対する考え方がすっかり変わってしまった.このことは,学生からも良く指摘される.それほど,私にとってはかけがえのない1年だった. 

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2017年はカナダ建国150周年の記念の年だった

 留学する前は,日本はどこよりも生活しやすい国であると心のどこかで考えていた.残念ながら今はそうとは思わない.日本の悪いと感じる点が多々あることを知ってしまった.トロントは,人口の50%が移民である.南米系や中国系,東南アジア系(日本人は少数)などで構成され,そのため人種の「るつぼ」である(トロントでは「モザイク」と言っていた).みんなが相手の背景を理解し,尊重して生活している.人種差別もほとんど無い.少なくとも私は感じたことがなかった.カナダ人は,「平等」を重んじている印象である.私が住んでいたオンタリオ州の知事は女性でレズビアンを公言しており,とても人気のなる政治家だった(当時).またトロントの消費税(13%)は,食料品や子育て用品に税金が一切かからない.医療費は無料(薬は有料)で,インフルエンザの予防接種も無料(薬局で受けられる)

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トロント大学の学生会館の屋根の上のモンスターボール(2017年当時)

 一方,日本人は「平等」よりも「公平・公正」を重んじている.老若男女を問わず,すべての人を公平に扱うことに尽力する.毎年恒例のセンター試験が典型の例であり,全国の受験生約60万人を1秒も遅れることもなく一斉に試験を行う.そもそも,この方法を何十年も継続できたことに不思議である.カナダの大学には偏差値がない.ほとんどが国立大学ではあるが,それぞれが特長を持っており,学生は学びたい専門に従い,大学を選択し受験する.驚いたことに,日本人と同じように4年間で卒業することに重きを置いていなかった.学費を稼ぐために休学したり,1年間休学してインターンシップにいっている学生も多数いた.各々で自由に学ぶ目的を探り, trial and error (トライアル・アンド・エラー)し,職業を選択していた.私は留学する以前,偏差値を利用した受験制度を疑いもせず,所属している大学をどれだけ偏差値の高い大学にするかを試行錯誤していた.さらに「留年」という響きに過剰に反応し,学生に指導していた.反省すべき点である.

 最後に,高校2年生の息子を持つ父として,彼の人生の選択期に,もし進路を相談さるようなことがあれば,ただ「自分の選んだ道を信じてがんばりなさい」と自信を持って背中を押せる.それだけでもトロントの留学は,私に成長に欠かせないものであったと思える.

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