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禁煙化後のパチンコを打って思ったこと

喫煙所でしかタバコが吸えなくなってしまった世の中に慣れ始めた。
そんな元パチプロが久々にパチンコを打ってみた。


元々俺は重度の喘息持ち。
本来タバコなんて吸っていては絶対に駄目。
なにせタイミングをちょっと間違えるだけで簡単に死んでしまうのだ。

朝起きて数時間、もしくは激しい運動をした直後、いや違うな・・・早足で歩いた直後、坂道を歩いている途中。
ほんの少しでも息を切らした瞬間にタバコを吸えばただの首吊り自殺となる。

そんな状態だから、副流煙、いやそれよりも花火や車の排気ガスでも死ぬ場合がある。
苦しくなるとか発作を起こすとかのレベルではない。死ぬ。

「自殺行為とかじゃなくただの自殺だからね?(笑)」

医者にそこまで言わせるのはなかなかである。
あいつらいつも大袈裟に言うけれど、なにせ他の重体患者の診察をすっ飛ばして俺を診察して治療した医者が言った言葉だ。
恐らくそれは真実なのだろうし、目の前で酸素の血中濃度の数値も見せられた。間違いなく致死量。

十中八九助からないだろうと緊急で家族呼ばれたのも不思議ではない。


それでもタバコはヤメていない。
一体なぜなのか?

意志が弱いのも間違いなくある。
実は止めようと思ったらいつでも止められるのである。
なにせ毎朝数時間嫌煙家レベルでタバコの煙を避けるほど苦手。
そのまま吸わずに気分良く数日過ごせばタバコなんかいらない体になれる。

一般的なヘビースモーカーに比べたら相当楽に禁煙に成功するだろうと思う。

それでも俺はタバコを吸う。
そこにある根本的な理由は何なのか?
今まで気にも止めたことがなかった。


喫煙所を探してタバコを吸う生活にもすっかり慣れた。
いくらタバコに害はないとわかっても、俺のように煙を吸うだけで苦しくなる人は必ずいるのだ。
そんな人に迷惑はかけられない。花火も然り。
そこにルールが出来たならそのルールを守る。それが最善。

そんな生活を繰り返すうちにタバコを吸う本数も減ってきた。
今では2日に1箱吸うくらいか。


これならばもう禁煙化されたパチンコ屋に行っても支障はないのではないだろうか?
喫煙所自体はあるのだし、タバコを吸いたくなればそこに行けばいいだけだ。

そう思い、俺はパチンコ屋が禁煙化されて以来初めてパチンコを打ちに行った。


遊びで打つので釘なんて覚えちゃいない。
横の比較でヘソと寄り釘を見る程度で適当な台に座る。

打ち出した球数と回転数はチェック・・・というより体が勝手に覚えている。
等価交換なら十分に勝負になる回転数であった。

打った台は暴れん坊将軍のなにか。
大当たり確率99分の1のいわゆる羽根パチ。
しかも0.5円パチンコならさほどお金も使わずイライラもしないだろう。
そう思い打ち始めたのだが・・・。

待てど暮らせどまともなリーチがかからない。

初めて「お?」と思ったリーチがかかったのは138回転目。
それもスーパーリーチというより、リーチが外れた後の再始動でのちょっとしたリーチ。
当然のごとく外れた。最近の再始動リーチは当てにならないことは知っている。

ただそこで違和感に気づく。でもそれが何かはまだわからない。

一度喫煙所に行きタバコを吸って頭を整理する。
まあこんなことはよくある話だ。
スーパーリーチの当たり外れなんてただの演出。
むしろハズレで長々とした演出が少ない分、台としては実は優秀なのだ。

台に戻り続きを打ち始める。
また沈黙が続く。
打ち始めて300回転目くらいで初めて、見たことがない保留ランプが付いた。

台は唸りを上げ、何度も光を放ち、擬似連を繰り返して派手なリーチ演出を行う。
ハンドルから手を離し、演出を見守りながらおもむろに右手を胸ポケットへ。

タバコを一本取り出したところで気がつく。吸えないことに。

え?
今は手に汗握るスーパーリーチ中。
それを眺めながら今、俺はタバコが吸えない。

嘘だろ?
今だろ?
そのためのタバコだろ。
そのためのパチンコだろ。

タバコを吸わない人には分かりづらいと思うが、朝起きた瞬間の大あくびを禁止されてることに気がついたような感じなのだ。

それが辛くて寂しくて、どうしたらいいのかわからなくて、スーパーリーチを見ながら涙がポロリと出た。

タバコを吸いながらのあの優越感やドキドキ感、煙の向こうに見える盤面がどれほど好きだったのか。
煙だらけのパチンコ屋で育って、煙の向こうに今日の酒と明日の生活を賭けて、笑って泣いて生きてきた。

きっと他の人よりもずっと重い、その何かのために俺はタバコを吸っていた。


着ていたジャケットで涙を拭い、ようやくかかったまともなスーパーリーチの行方を見守る。
笑ってしまうほどあっさりと外れてしまったが、そこに怒りはない。
ただただつまらぬ。きっと当たっていても同じ感情。


こんな国に、こんな世界に俺はいるべきじゃない。
俺はもっと早く死ぬべきだった。それが一番の不幸。

神はこんな罰を俺に与えるためになかなか死なせてくれないのではないだろうか?
早く楽にしてほしいと今日もタバコを吸うが、全く死ぬ気配すらない。



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