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話しかけやすいチンピラの悲劇

こんなにも人がいるのに。
なぜそこまでして俺を選ぶのか?


俺を見た半分の人は、見た目からまず避ける。
そりゃそうだ。誰が好き好んでこんな奴に話しかけるのか。

ところがだ。その残りの半分は気にもせず話しかけてくるのだ。

これが全く意味がわからない。
顔は傷だらけの金髪。
話しかけられるのが嫌なのでイヤホンで音楽を大音量で聴いている(もしくは聴いているふりをしている。)
我ながら話しかけるなオーラをバンバン出している方だと思う。

酒飲み散歩中、肩をポンポンと叩かれる。
「すみません、〇〇ってどこですか?」

なぜこんな泥酔してるチンピラに道を聞こうと思ったのか小一時間問いただしたい。
爺さん婆さんは特に話しかけてくる。あとは外国人達。

そんな奴らが俺の前に並ぶのだ(笑)

たまたまその日一緒に歩いていた嫁は爆笑。
「道を聞く人が並んでるの初めて見た」
そうか?俺はよくあるぞ。
また俺も親切に教えてしまうのだ。懲りもせずに。

恐らくこの人達は何かを感じ取っているのであろう。
この人に聞けば期待に答えてくれるだろうと。

何十年も前からそう。今もそう。
っていうか今はスマホがあるだろうに。
下手すりゃ俺も場所がわからずスマホで検索して教えているのだ(笑)
お前がやれよ!手にスマホ持ってんじゃん。しかも交番の前で。


こんな状況はパチンコ屋でもよくあった。
隣の人が話しかけてくるのはわかる。
パチスロで隣の人に「目押しして」と頼まれるのもわかる。


だがなぜパチンコを打っている俺にわざわざ違う島からやってきてパチスロの目押しの頼むのか!


「え?俺??俺が?!」
流石に叫んだよ(笑)

他にパチスロを打っている人がいないというわけでもない。
半分以上席は埋まっていたのだ。
しかも右隣にパチスロ打ってる人もいた。

「だって今店員さんがやってくれないでしょ?」と婆さん。
いやいやそうじゃなくて。
隣の人に頼めばいいじゃないの。

「ほら、頼みやすそうな人探してたらこっち(パチンコ)にいたからさ」と笑う。

しばらくすると缶コーヒーを持ってもう一度やってきた。
「さっきはありがとね。これ飲んで」
「ああありがとう。別にいいよ」
「で、また入ったの」
「・・・・・」
苦笑いしながら目押しをしに行く。

それから何度かまたやってきた。
俺もうすぐ帰るぞ?
なんか黙って帰るのが忍びなくなってきた(笑)
そう思ってるとまた婆さんがやってきて「もう帰るから。ありがとね」とニッコリ。
「かあさん勝ったかい?」
「おかげさまで」とまた笑う。

これで心置きなく帰ることが出来る。
そんな俺のもとに今度は店員がやってきた。
なんか悪い事したか?と少し焦る。
が、やってきた店員はバツが悪そうに

「あのーちょっと目押ししてあげてもらえませんか?」

はぁ??
「ほら、今こちらで目押ししてあげられないので」
それは知ってるよ。
なぜそれをパチンコ打ってる俺に頼みに来たのかって話だよ。

憮然としながらパチスロの島に向かうと、困った顔をした叶姉妹みたいな巨乳の奥さんが座っていた。
いい匂いがして、その辺り一帯の空気を全て吸い込む勢いで鼻呼吸をする。

おかげでうっかり目押しを失敗してしまう。
けしてわざとではない。

これはもう帰れねーな。
ウキウキしながらパチンコを継続。
しかし待てど暮らせど俺を呼びに来ない。
ハマってるのかな?とトイレに行くついでに様子を見ると、喜色満面の笑みで隣の兄ちゃんが目押しをしていた。

ま、そりゃそうだよな。現金なもんだよ(笑)

さっき帰ればよかったのにすっかり出玉を減らしてしまった。
今夜の飲み代くらいは浮かせて交換。
店を出ようとした俺を見つけた巨乳の奥さんが、自慢の巨乳を揺らしながらひらひらと俺の元へとやってきた。

ちょっぴり期待をしてしまったがただのお礼だった。
身体でお礼してくれてもいいんだぞ。
またひらひらと座席へと戻る奥さんの残り香を全部吸い込んで退店。


外に出ると夕焼け空が最後の一踏ん張りをしている状況。
この日は少しだけ旅打ち気分で札幌の外れの方にいたので、早く帰らなければ家に着くのが遅くなってしまう。

コンビニで酒を買って灰皿のところで一人祝勝会。
今日はおとなしく帰ろう。

コンビニの窓の辺りのヘリ部分に飲みかけのお酒を置いて、タバコを吸おうとポケットに手を突っ込むとタバコがちょうど切れていた。
あらら仕方ねーなと店内に戻ってタバコを買い灰皿のところに戻ると、掃除をしていた店員さんが俺の飲みかけの酒の缶を持ち上げ、手を滑らせ地面にバシャーンと撒き散らしていた・・・。

「あ、それ俺の!!」
「空き缶かと思ったら思ってた以上に入ってて落としちゃった!」と焦る店員。
「まあ俺もそんなとこに置いてたから」と言いながら少しだけ中身が残ってた缶を受け取ってその場で飲み干し、店員が手に持っていたゴミ袋に入れた。

平謝りしてくる店員さんにいいよいいよと笑ってタバコに火を点ける。
その様子をどこから見ていたのか、警察官がワッと俺を取り囲む。

忘れていた。残りの半分は俺を見た目通りのチンピラと思い込んでいるのだった。

どこから来たのか?何しに来たのか?何をやっていたのか?
いやいや店員さんなんとか言ってよと視線を送ったが、ゴミ袋を持ってそそくさと店内に戻っていってしまった。なんでだよ!


なんとか誤解を解いた頃にはすっかり家に帰る気も失せてしまった。
もう一つの我が家に帰ろう。いざすすきのへ!

電車に飛び乗りまずは札幌駅へ。
ここから酒でも飲みながらすすきのへ向かおう。
先程の巨乳奥さんを頭に浮かべ下半身を抑えつつ、ニヤニヤしながら流れる夜景を見つめているとピロンとスマホが鳴った。

「迎えに行くよー」と嫁から連絡。

終わった。
がっくりと肩を落としながら札幌駅北口へと向かう。
喫煙所で一服しながら嫁が来るのを待っていると、ビシッとしたスーツを着た美女に「すすきのってどっちですか?」と不意に話しかけられた。

どうやら出張で初の北海道上陸。
ホテルに向かう前にすすきので食事かお酒でも飲んでみたいとのこと。
タバコをバカバカと吸いながら話は弾む。
これってどう考えても誘ってOKだよね?
むしろここで誘わなきゃ失礼ってもんだ。

「なんか話しかけやすそうだなぁって思って(笑)」とケラケラ笑う。
神に感謝!話しかけられやすい自分に乾杯!

「んじゃ海鮮系の居酒屋で飯でも食べる?」
「一緒にぃ?」
「そりゃそうだろ。折角の北海道だしさ」と下心丸出しで誘う。
「じゃあホテルに荷物置いてからでいい?付き合ってくれる?」
よっしゃOKだ!先に合体でもいいぞ。とその瞬間。


ピロン。


あ・・・忘れてた。
「着いたよ。どこ?」

普段自分から迎えに行くなんて滅多に言わないくせに。
全てを察した絶世の美女は「残念だけど」と手をひらひらと振って喫煙所から出た。
「ごめんね。すすきのは真っ直ぐあっちだよ」とだけ伝えて俺も手を振った。

北口を出て階段を降りると、車の中で見慣れた貧乳の美女が笑って手を振っていた。



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