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TOKYO2020 フリートドライバー日記(2)遥かなるオリンピックスタジアム

賛否両論の渦巻く中、いよいよ明日2021年7月23日に東京オリンピックは開会式を迎えます。名誉ある立ち位置の方々に関してはあまり良くない話が出ていたりしていますが、実際に現場で働いているスタッフ・関係者の皆さんはこんな状況の中で少しでもしっかりやり遂げようと取り組んでいます。
そんな中ではありますが自分はオリンピック関係者を輸送するフリートサービスのボランティアをすることになったので、ちょっと記録を書いてみようと思います。

以前にもトレーニング編、初出勤編を書きましたが、今回は3回目のシュッキンです。開会式直前に迫った現場の様子をお届けします。

フリートサービスとは?

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「フリートサービス」とはなかなか聞きなれない言葉ですが、簡単に行ってしまうと「大会関係者用専用無料タクシー」みたいなものです。普通のタクシーと異なるのはあくまで大会の運営に関する個別移動に目的が限られているという事です。オリンピック期間中の移動と言えば選手、コーチなどが注目されますが、それ以外にも広報・プレス関係、競技団体関係者、ドーピング検査などを行う人・・・・などなどたくさんの人がホテルから会場、会場から会場へ移動することになります。選手などに関しては集団でバスでの移動となりますが、これらの外側を埋める関係者は1人~数人での異動となる事が多くなります。特に今回のオリンピックはコロナの関係もあり、公共交通機関を使用することはよろしくないという事もあるので専用移動サービスの重要性は非常に高まっています。ここの領域を受け持つのがフリートサービスで、これらの車両の多くがボランティアによって運行されています。ちなみにバッハ会長の乗る車はプロの運転手が担当します。

フリートサービスでは上の様なカラーリング(赤系と青系があります)が施されたトヨタのVOXY、ミライ、プリウスが使用されています。もし道路上で見かけたら優しくして下さいね。あおり運転とかカンベンです。


築地へGo!!

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二回目のシュッキンとなる今回は午後からのシフトです。シフトは朝6時スタートから夕方4時スタートまで細かく分かれています。基本的に休憩時間を含めて7時間労働になります。
今回は3回目なのでサクッと場内に入りました。シュッキン前に築地場外で昼ご飯を食べようかと思っていましたが、混雑していて時間に間に合わなくなりそうだったので、そのまま行って食堂でおにぎりセットを買って食べることにしました。食堂は1人ずつパーテーションが分かれていて「黙食」します。たしかに売店なんかでは話し声がありますが、会話しながら昼食を取っている人は見かけないです。

大会直前という事もあり、前回は研修中だったバスの運転手さん達がフル活動になっていて、管理棟はかなりにぎやかになっていました。「いよいよ」という空気が漲っています。

今回も待機?

ディスパッチルームに入りアルコールチェックを済ませると、スタッフの人から「いま車が足りないから」と言われて番号のカードをもらいました。車や専用スマホの取り回しも大変みたいです。再び食堂に戻ってぶらぶらして戻ったら番号を呼ばれたので専用スマホをもらってログインしました。案内のスタッフの方が来て駐車場に向かいました。
配車スタッフが不足しているようで、今回の点検はボランティア同士で組んで行うことになったのですが、今回初シュッキンの人が多いらしく、経験者と初心者が組むことになりました。
今回の車は前回と違い立体駐車場ではなく、その前に広がる平面の駐車場にある車を使用しました。ワイパーを上げてある車は故障中という事で、上がっていない車を使用しました。1割くらいは故障している感じです。

点検に入ってトラブル発生、ペアの方の専用スマホが調子が悪く車を認識せずにエラー発生、対応策を聞くためにスタッフを探しに行きました。それでも少しの時間で復旧したみたいで、再びここから点検を進めます。ウインカーOK、ブレーキランプOK、ライトOK・・・・すべてOKでしたが前の人のブルートゥースの設定がまだ残っていて、それを消すのにちょっと手間取ってしまいました。

いよいよ配車待ちです。前回はなかなか出動指令が来なかったのですが、今回はすぐに出動という文字がカーナビ画面に映し出されました。最初の行先は晴海の選手村です。まずはそこでの待機となりました。

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晴海の選手村は築地から近いのですぐに到着です。ボクシーの運転には慣れましたが、自動ドアなどのオプションが各車両微妙にちがっていて、そのあたりは戸惑いそうです。停車場に車を停めて、運転席から選手村を眺めながらの待機です。

しばらく暇にしているとカーナビに出発の文字。こんどは有明での待機です。一般道を通っての移動の途中ガソリンが1/4くらいだったので給油して会場に向かいました。思いっきり渋滞に巻き込まれていたら、そこから行先変更の指示・・・今度はビックサイトです。

ビッグサイトに到着したら、オリンピック時期以外はタクシーの待機場になっているところに何台かのフリート車両が待機中でした。車両を集めてみたものの利用者が遅れていてなかなかはけていかないとのことでした。こういうのって流動的に変化するし、前例とかノウハウが無いのでうまく予測するのは厳しそうです。今日は開催前のレセプションとかセミナーみたいなのが開かれているようでたくさんの外国の方たちが歩いていました。タクシーで移動される方も多いようでタクシーのほうはあまり待ちが無く出入りしているようでした。

前回の待機の悪夢か・・・・と頭の中をよぎりました。

初仕事!

それでも30分くらいしてから初仕事、待機車両が無い前提で導線が作られていた関係で、出入り口まで戻ってUターンして乗車場に向かいました。
本日最初の仕事はIOCの役員が宿泊しているというホテルまでヨーロッパ系の初老の男性を載せていく仕事です。お台場から高速道路に乗ってレインボーブリッジを超えて赤坂方面に向かいます。レインボーブリッジは景色が良くて気持ちいですが首都高はナビがあってもなかなかわかりにくいですね。
無事にホテルに到着して、男性を降ろしそこで再び待機です。トイレに行きたくなったのでホテルに入らせてもらいました。内部ではレセプションが行われておりたくさんの関係者が居ましたが入場は非常に厳密な入退場管理体制になっていました。

もう本番なんだな・・・・気を締めて取り組まないといけないと感じつつ車に戻って再び待機、

そこから指示があって築地デポに戻ったりしましたが、実際のステークホルダーは載せないまま残り2時間すこしとなりました。「あと1回くらいなのかな」と思いつつ指示された東京プリンスまで向かいました・・・・が走っている途中で行き先は今日3度目のビッグサイトでした。ちなみに2回目のビックサイトは待機車両があふれていて入れず、そこからいったんデポに戻っていました。

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今回は比較的あっさりと乗客(ステークホルダー)が現れました。こんどは東京プリンスまでヨーロッパ系の女性3人を乗せていきました。

道路を実際に走ってみて思うのは、一般の車が意外なほど多くて、道路が混雑し、ところどころ渋滞している事でした。昨年の今頃であれば走っている車はほとんどなかったのですが、もはや普通の平日といったくらい車は走っています。あと街を歩く人もほとんど減っていない、ヘタすると今年の前半よりも多くなっているような気がします・・・・緊急事態宣言はどこに行ったのやら・・

ホテルには無事に到着してフリート車両がずらーッと並んでいる待機場での待機。ちょうど夕焼けになっていて東京タワーも点灯している美しい景色を見ながらのしばしの休息です。もう時間的には終わりなのですが、もう一回くらい載せたいと思って待機してました。

オリンピックスタジアムに突入?

そこからの出発指示は例の役員がいるホテルからオリンピックスタジアムまで中国系の男性4人を乗せていく仕事です。明後日には開会式が行われる会場です。今回の行き先は自動的に指示されたものではなく、乗車場のスタッフから行き先を支持されて自分でカーナビを操作して行先を登録しました。

いよいよ出発しましたが、すでに空は真っ暗になっています。首都高に乗っていつもと違う新宿線を走り外苑前で降りました。ここから苦難の道が始まります。

まず最初の難関。カーナビに従って進んでいくとカーナビに指示された行き先はコーンで道が塞がれて普通にははいれません。しかもたくさんの警察官の方がこちらをじっと見ています。がくがくブルブルとウィンカーをつけたまま呆然と停車していると、スタッフらしき人が寄ってきました。
ウィンドウを下げて「指示でお客さんを会場まで載せていくんですよー」というと「わかった」という感じでコーンを少しだけあけてくれました。やはり大会関係者のカラーリングとボランティアのユニフォームは無敵だな・・・なんて思いつつ進みました。

道はかなり広い範囲で封鎖されていて、各ポイントには警察の方やスタッフがいて、誘導してくれています。・・・言われるがままに進んでいき、外苑のあまり変わらない景色の中で、すでに自分がどこにいるかわからない状態です。

あれ?

誘導され到着したのは細長いが広い駐車場。他の会場と違い他のフリート車両は見当たりません。しかも会場のオリンピックスタジアムからは離れた場所です。ふと右手を見ると荘厳な雰囲気の立派な建物・・・・ここは聖徳記念絵画館の前。戸惑っているのは自分だけでなく乗客のステークホルダーも一緒です。なかなか降りようとしません。きっと心の中では「うそだろー!」って言ってたと思います。

再度駐車場のスタッフに確認したところ「ここで降りる」という事なので車を降りてドアを開けステークホルダーには降りてもらいました。

その後、座席のアルコール消毒をしながら駐車場のスタッフに聞いてみたところ海外の要人であってもここで降りてもらって持ち物検査などを経て会場入りしてもらうとのことでした。例外は天皇陛下くらいだという話です。確かに開会式会場はテロの標的なのでこれくらいしないといけないのでしょう。

厳戒態勢の中の彷徨い車両!!

実はここからが大変でした。とにかく複雑に張り巡らされたコーンに従って帰路につきました。もうキンム時間を過ぎていたので築地のデポに帰るだけです。しかしながら聖徳記念絵画館の敷地から出ると案内の人がほとんどいません。しかも行く先行く先にはがっちりとしたバリケードが設置されています。まるで迷路のようです。

やばいやばいやばい

少し焦っていましたのでバリケードの前でUターンしようかと思いましたが、スタッフが駆け寄ってきてUターンはダメだから前に進むように言ってきました。「いや前にはバリケードが・・・」と思いましたが右には進むことができるようなので車を進めました。

しかし前を遮ったのは・・・・

気がつけば前には大きなテントで出来た検査ゲート・・・目の前には車止めのバリケード。車を停めて周囲を見回すと気がつけば周りを取り囲んでいるのはスタッフや警察官ではありません。迷彩服を着た自衛隊の方々です。

「ひえー!帰りたい!!」

しかも、みんなこちらをじっと見ていますが話しかけてきません。なんだか変な汗が出てきました。戒厳令ってこんな感じなのか・・・と思いつつ思い切って近くにいた迷彩服のお兄さんに声を掛けました。

「すみませーん帰りたいだけなんですぅ」

理解してくれたようで横にあったコーンを開けてくれました。

なんとかそれで無事帰ることが出来ましたが、途中も厳しい交通規制のためにルートがわからず、カーナビを使わずに無視しながら帰り着きました。


終わり

なんとか無事に築地デポに帰りつきましたが、すでに8時半、もどって手続きをしたら9時近くになりました。今日は3回、8人の輸送でした。前回に比べると働いた感じはあります。ボランティア用のアイスを喰いながら荷物を片付けて帰路につきました。

今日は意図的にギリギリまで載せましたが23時とかのシフトの時は1時間前くらいに戻り始めないと帰宅難民になりかねないな・・・なんて思いました。

次回はオリンピック期間中のシュッキンとなります。
ここまでの経験だけでも「イベントは内側に居たほうが楽しい」は間違いないです。

次回もどんな体験があるのか楽しみです。



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