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【イベントメモ】SaaSベンダーのディベロッパーリレーション〜DevRel/Japan CONFERENCE 2022から

2022年8月5日(金)〜6(土)にDevRel/Japan CONFERENCE 2022がオンライン/オフライン並行で開催されました。昨年もコミュニティやマーケティングに関する多くの知見をを与えていただいたこのイベント。今年もまた個人的に気になったセッションについて紹介してみたいと思います。

DevRelとは?

本題に入る前に少しDevRelというものについて説明します。

DevRelとはDeveloper Relations(デベロッパーリレーションズ)の略で、IT製品やサービスのマーケティング活動の一環として、製品やサービスの情報をそれらを使用する開発者に届けるための活動で、ブログやSNSの発信やコミュニティの形成など様々な活動を行っていくことです。
これらDevRelに関わるマーケター、エバンジェリスト、エンジニアなどのコミュニティのひとつがDevRel Japanであり、その大規模なカンファレンスがDevRel/Japan CONFERENCEです。

<カンファレンスの動画です>

本パネルの狙い

SaaSサービスは利用が容易な一方で、試用・カスタマイズに制限がある場合が多く、DEvRel担当者は開発者体験の設計に常に頭を悩ませています。
このパネルではSaaSベンダーの皆様にお集まりいただき、SaaSならではの方法論や工夫を深掘していきます。

パネラー紹介

モデレータ
長内 毅志さん
・freee株式会社で技術マーケティングを担当
・個人事業主としてWeb、クラウド、バックエンドエンジニア
池原 大然さん
・Twillioデベロッパーエバンジェリスト
・TwillioQuest日本語プレビュー担当
・長距離散歩、ドラクエウォークが趣味、ゲーム大好き
舟木 将彦さん
・CircleCI合同会社プリンシバルディベロッパーアドボケイト
・Dejima、Sybase、SAP、Microsoft・・・
松下 享平(マックス)さん
・株式会社ソラコムでテクノロジーエバンジェリスト
・講演や執筆を中心に活動 登壇回数500回以上

SaaSサービスで苦労すること

大然さん:電話の規制に引っかかりやすいこと。トライアルのときにその国の番号を使用できなかったりします。日本もその対象になり開発者体験も悪くなってしまいました。その状態で実際に電話のプロダクトを試してもらうのに試行錯誤しています。解決方法としては「使える国の電話番号を使ってください」
長内さん:やっぱりSaaSで開発者に触ってもらうのはAPI中心になりますかねぇ
大然さん:そうですね。APIの他にローコード/ノーコードのビジュアルエディタを持っているので、触ってもらうときはこっちのほうです。細かな実装や組み込むとなるとAPIベースになります。
舟木さん:CiecleCIというのはソフトウェアのビルドとかテストを自動化するためのサービスです。入社したときはSaaSとしてフリーのユーザーには一部の言語や機能歯科提供していなくて、説明しても実際にやってみてできなかったということが多かったのですが、私が会社と交渉してフリーのデベロッパーでもたくさん使ってもらえるように変えてもらいました。
長内さん:CircleCIの場合、初めて使った人に違いがわかりにくいというのがあると思いますが?
舟木さん:自動化出来るということには大きな差はないので、テストが早い、ビルドが早いとか・・・機能の前にメリットを話すようにしています。
マックスさん:ソラコムはSaaSというよりプラットフォームに近くて両方の性格があります。苦労しているのは分かりづらいところが多くて、それをご理解いただくことが畳敷あります。機能に加えて「なぜそれがあるのか」「それがあるとどう嬉しいのか」は相手のバックグラウンドを理解しないとお伝えできないので、一概にサービスの説明だけでは伝わらないことがあるなぁと思います。
長内さん:ソラコムさんのサービスって遊びがいのあるサービスと思ったんですけど・・・
マックスさん:お客様は個人の開発者から企業内のIoTやDXの担当までいるので温度感が結構違います。ステージに合わせて紹介したり使ってもらうというのが苦労するポイント。
長内さん:デモ中に通信環境が悪くなったりするのでデモの危険性やスリル感があるのではと思います。

APIに関して何を伝えるか?

長内さん:APIの場合はエンドポイントと出力されるJSONの形さえわかってしまえば伝えることがないというので悩んでしまうのですが、そのへんどうですか?
大然さん:正直TwillioもAPIを開発者に使ってもらうというのが大半なのですが、Twillioだけではなんにも出来ないのでイメージを持ってもらうのに苦労します。ウェビナーでも具体的にシナリオベースで話してイメージを持ってもらっています。Howを冒頭で話します。そうしないとどう使っていいか、何に使っていいかわかりません。
長内さん:サンプルシナリオで夢を見せる感じですかね
大然さん:「できるかもしれないよ」を見せるという感じですね
マックスさん:100%同意ですね。APIってイマジネーションを膨らませてもらわない限り絶対買ってもらえない機能だったりします。そのイマジネーションを膨らませるのにWebを使うというのがあるのですが、そこで満足してしまうとAPIを買ってもらえなくなります。
長内さん:サービスだけで充分だと思ってAPI買ってもらえないというのはありますね。APIを使うとどれだけ夢が見れますよというのが勝負どころ。
舟木さんのCiecleCIは夢を見せるのが難しそうですが、そのあたりどうですか?
舟木さん:APIが求められるのは自動化が動いた結果のデータを分析するためにほしいというのが多い。でもユースケースとして様々なデータを持っているのでお客様にAPIを使ってデータを抽出して分析すればより価値の高い分析ができる事を示すようにしています。単に自動化で効率化するという話ではなくて、人がやらないので家庭のデータが見えるようになるのがメリットかなと思います。

SaaSサービスのコミュニティ

長内さん:DevRelのみなさんはコミュニティとは切っても切れないと思うのですが、そのへんはどうでしょうか。最初はマックスさんに聞きたいのですがIoTってネットとハードの両方あるのでそのへんが他と違うかなと思うのですが・・・
マックスさん:コミュニティって表現難しいのですが「好きな人たちの集まり」になるんですね。IoTではハードウェアだけでコミュニティが存在していたりもするのですが、それをどう繋げていくのかというのは日々意識しているところです。加えてSaaSサービスというところから考えると好きな人達が「こんな事出来るかも」みたいなイマジネーションが広がる話の場を提供したいですし、その種を提供するというのは企業側が行わなければと思います。
長内さん:実際にハードウェア、組み込み、ソフトウェアのコミュニティって違うものなのですか
マックスさん:けっこう向いている方向が違ったりしますね。一つの技術にフォーカスしたいという系統の人達もいるし、自分の持っているものをどうやって横に広げていくかということに興味がある人も居ます。
長内さん:僕が体験した感覚だとハードウェアの組み込みの場合はバグがない前提、ソフトウェアの場合は「動けばいいや」という感じですが、そのへんって感じますか?
マックスさん:けっこうそのへんは摩擦が起こる領域です。ソフトウェアは容易に変更できますがハードウェアは変更できないことが多いので変更に投資が必要なので確実な方法を提供していくという方向ではあります。それはしょうがないです。
長内さん:Twillioもそういう傾向があると思いますが大然さんはどうですか?
大然さん:そんなにハードウェアと結び付くプロダクトはあんまりありません。PBXすらクラウドに持ってこようよという動きがある中で、基本的には電話の知識がなくてもソフトウェアの知識があれば使えますよというスタンスです。
長内さん:CircleCIのコミュニティってどんな人が集まるかなと思いますが舟木さんどうなんでしょう
舟木さん:作ったアプリケーションではなくて自動化にフォーカスが当たっていく、そのほうが発表したりブログが書きやすいですね。自動化の効果や部品再利用の成果など数値化しやすいのでコミュニティとしてなにか共有したいというモチベーションにはつながるかと思います。
一方難しい点としては一旦出来てしまうと、あまり直さないので進化が起こりにくいというのがあります。そこをどう広げていくのか・・・がないとなかなか広がりません。もちろん新機能はありますが新機能でユーザのプロダクトのどこが良くなるのかなかなかリンクしないので・・・そこは苦労しています。
長内さん:ベンチマークの楽しさを追求している人が多いのかなと思いますが・・・
舟木さん:日本でのユースケースはEXCELオタク的なマインドセットを持っていることが多いです。
長内さん:数字として明確に出るのが楽しいんでしょうね
舟木さん:数字が出ることで認められやすい、頑張りましたは認められにくいけど、こう減りましたはアピールしやすいですね。

コミュニティの人にどう情報発信してもらうか

舟木さん:CiecleCIとしてはTweetやブログを丹念に拾っていってコメントを残していったり、Tweetやブログのまとめサイトを作って公開するとかをして、そういう方々の中からイベントのときに登壇していただき、登壇した内容を書き起こしをして弊社のサイトで公開することで登壇者のブランディングができるようにしています。CircleCIと一緒に活躍する場を用意するというのがやっていることです。
マックスさん:僕があえてやっていないことがひとつあって・・・ソラコムは2周間に一回サービスを出しているんですが「やってみた系」の情報は出来る限り僕が書かないようにしようと思っています。そこに余地を残しておいて、やってくれる人を誘い込むような感じですが・・・
舟木さん:何でも書いてしまうと他の人の参入余地がなくなるのと新機能はそんなに深掘しないで「まずはやってみた」を出していただくのがいいかと思います。もうひとつ「やってみた」はベンダーの仕事ではないのかな・・・と思います。ベンダーとしてはもう少し深いところ哲学とか方向性とかを伝えるのが役割と思うところがあります。

そもそも論として好きになってもらうにはどうしたら良いか

大然さん:それってDevRelの活動かなぁと思っていて、「わぁ凄い」というモーメントが好きになってもらうきっかけかなと思います。試してもらうきっかけを提供するのが重要だと思います。
長内さん:freeでもファーストわお、セカンドアわおというのがあって、最初に「わぁすごい」と思わせるのが重要と、そこからさらに触ってみて「やっぱりすごい」という2回めの驚きを与えることが大事だと言われています。
大然さん:上司に言われて触るというのでは、あまり正常な触り方ではないかと思います。

KPIって意識していますか?

マックスさん:コミュニティはボランティアなので数字を積むというのはやっていません。イベントの人数は成績表であって結果で、これを予算として積むのは無理なので、報告はしますが積み上げはやっていません。一つだけやっているのは開催回数です。フィードバックの面を増やすということで参加側からも参加しやすくなるので人数が少なくても開催しましょうというのをやっています。
長内さん:ソラコムさんは創業された玉川さんがAWSのエバンジェリストということもあってコミュニティに対して信頼している感じが伝わってきますよね。
マックスさん:コミュニティで開発者の人たちと1対1で話していくというのを考えたときに面のマーケティングという意味では効率が悪いんですよね。でも個人の開発者の人の力を信じてあげるというかコミュニティに対しては何をやってはいけないというのはないと信じています。
大然さん:KPIはDevRel組織がどこに(開発orマーケ)属しているかですごく変わると思います。Twillioはマーケの下にいるのでKPIとしては認知度やどれ位トラフィックを産んでいるかを見られます。どれくらいコンテンツを出して開発者の心を引いているかをすごく持っていると思います。ブログにどれ位検索されたかは週次で意識してみています。完全に数字に責任を持っているわけではないですが、それぞれチェックしています。
長内さん:Googleで「Twillio」と検索して確認する感じですか?
大然さん:2つの戦略を持っていて、ひとつは一般的な開発者のためのコンテンツ、もうひとつはTwillioを使うためのコンテンツです。両方をミックスさせて最終的にはトラフィックがどれだけ流れているのかを見ています。
長内さん:トラフィックというのは会社のサイトへの流入量ですか?
大然さん:そうですね。
長内さん:記事がいくつで他ではなくて、その結果、どれくらい来てくれるかを見ているというわけですか?
大然さん:そうですね。あまり何記事だしなさいというわけではなくマーケティング全体として持っている数字はあるので、その何割まで僕らが占められるかを見ています。
舟木さん:うちのKPIは面白くて「愛(LOVE)」をオービットを使ってカウントしています。ユーザーがどれだけTweetのなかで話題にしているとかブログに書いているかをパブリックのリポジトリに対するプルリクの数とかイベント参加人数とか・・・この人は何点とかをスコアリングして、クオーターごとで愛の高い人がどれだけ成長しているのか、新規に愛情を持った方などを見ています。
長内さん:グローバルでオービットを使ってらっしゃるんですね

オービットは惑星の軌道を模したDevRelの計測概念になります。コミュニティを4層に分けて、近づいているのか遠のいているのかを測るものです、Githubにそのあたりは散らばってます。

開発者イベント

マックスさん:IoTって領域が広いので、ソラコムが主語にならないようなトピックを作ろうというのを昨年展開しました。今もその形でやっていこうと意識しています。
大然さん:ハンズオンではできるだけ短時間で障壁無く体験いただけることを気をつけて設計することが多くなりました。例えば電話番号を探さなくてもいいように準備するなど・・・
舟木さん:ハンズオンは時間の拘束を考え、朝練、昼練、夕練と時間をいろいろ用意しています。子育てなどでなかなかイベントの時間が取れなかったりするのでそこに配慮しています。効率を優先すると人の少ない朝練なんてやめてしまえとなりがちなのですが、そ1人2人の方が良いブログを書いていただいたりして、朝やったから良かったというのもあります。オンラインで場所の壁はなくなったのですが時間に配慮しないといけないと感じてます。
長内さん:個人的にはそろそろオンラインじゃなくてオフラインに戻りたいなぁと思っているのですが・・・
舟木さん:CiecleCIは4月に東京で一回やりました
マックスさん:僕らもオフラインを試行していて・・・IoTってデバイス(物理)があるのでどうしょうもないのですが、それをやるための仕組みづくりをコミュニティの人たちと一緒にやって、皆が安心してできるような形をプラットフォーマーとして支援しています。
大然さん:うちも今年からですね。TwillioJapan主催で小さなMeetUPとか、地方で少しずつやっていて具合を見ています。大都市圏はもうちょっとかかるかなという感じですね。
長内さん:皆さんの食いつきを見たら皆オフラインやりたいという感じですね


感想

今回もものすごいテキストの量で、みなさんいっぱい言いたいことがあるんだなぁと感じました。SaaSならではというよりも、けっこう幅広い話が聞けたと思います。KPIの話なんかは他でも適用できそうな話だったので、何か使ってみようかと思います。


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