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新NISAを「投機の器」ではなく「投資の草木」として資産形成を始めてみては

新NISAが始まってから4か月近く経った。巷では賛否両論あり、やるべきか、やめておくべきか、迷っている人も多いだろう。2024年度に入ってからのグローバル株式市場の株価低迷・下落を受けて、「やるべき派」の中には「買った瞬間から含み損だ」と頭を抱えたり、「高くて買えなかった銘柄が安くなった」と新規に買いに入ったりしている一方、「やめておくべき派」が「そら見たことか」と言わんばかり意気揚々としているかもしれない。相場には上がり下がりはつきものだ。新NISAは資産運用の手段の一つに過ぎないわけで、新NISAの目的が「投資」であると自分の中ではっきりしているのであれば、新NISAをうまく活用すべきだと思う。
おそらく「やめておくべき派」の主たる理由は「危ないから」「損をするから」であろう。一番ダメなのは「政府が勧める制度だから」、勝手に「危なくない」「損はしない」と思い込んで新NISAを始めることだ。政府は、2000兆円にも及び個人金融資産を貯蓄から投資へと振り向けるきっかけとするために、国民の資産形成の一助となる仕組みとして新NISAを制度化しただけだ。お上の制度なら損しないだろうという根拠なき理由で、新NISAを始めるべきではない。
「やるべき派」としては、新NISAの最大のメリットである「配当金、分配金が非課税であること」を無期限で享受できる点を挙げておきたい。そう言うと「売却益も非課税だろう」といわれそうだが、売却するときに売却益が出るとは限らないわけで、売却損になる場合もあるし、その場合、新NISAは他の口座で生じた売却益と相殺することができないというデメリットがあるため、やはり「配当金、分配金が非課税であること」に絞って新NISAの活用を考えてみよう。
まず「投機」と「投資」の違いは何だろうか。農林中金バリューインベストメンツCIOの奥野一成氏はその著書「ビジネスエリートになるための教養としての投資」の中で、「投機」と「投資」の違いについて説明している(115~140ページ)。農地を例に「この農地はいま安い値段で買えるので、いま買っておいて来年値上がりして売れば、その差額が利益になる」という考えが「投機」、「農地をいま買って作物を植え、それが育ったら刈り取って販売すれば、売上げになる」という考えが「投資」だという。同じように、株を買う場合、「株を買っておいて値上がりして売れば、その差額が利益になる」という考えが「投機」、「その事業を営む会社の株を買って、その事業から利益が出る」という考えが「投資」である。つまり企業の株式を買うという行為が、その株がいくらで売れるかと考えるか、その企業が将来どれだけ利益を稼ぐかと考えるか、の違いだ。「やめておくべき派」が「危ないから」「損をするから」と考えるのは、新NISAを「投機の器」と考えるからだろう。そうではなくて、新NISAを「投資の草木」として考えるといい。「投資の草木」から得られる果実は配当金、分配金である。将来にわたってどれだけ配当金や分配金が得られるのか、予測は誰にもできないが、その企業の株を買って長期間保有する、短期間で売却しない「投資の草木」として新NISAを活用すれば、そのメリットを享受できると考える。年間の非課税枠360万円(うち成長投資枠は240万円)かつ生涯投資枠1,800万円(同1,200万円)を非課税のまま保有できる期間が無期限であることだ。いつ投資しても、いつまで投資しても期間中は非課税扱いだし、利益確定の売却をした後に非課税枠を再利用してまた新しい投資ができるのは魅力的に映る。
大事なポイントは20年、30年と長く続けるつもりで「投資の草木」としての新NISAを使うのだ。特につみたて投資における複利の効果は長く続けるほど発揮されるため、老後の資産形成として活用するのに最適だ。少しずつ種を蒔き年々成長していく。そして収穫の時期には実をつけ、それがまた種を生み土にかえり草木として20年、30年と長く成長し森林や植栽地が広がっていく。そんなイメージだ。決して1年経ったら伐採してしまうものではない。そして、日々の生活に無理なくコツコツと積み立てられる金額で「投資の草木」としての新NISAを使うのだ。特につみたて投資は一定期間、例えば毎月、自分で設定した一定の金額が口座から引かれて積み立てにまわっていくので、新NISAで積み立てていることを忘れてしまうくらいの感覚で継続していくとよい。毎月、種を蒔き、少しずつ成長していく。そうすれば知らぬ間に金額が積み上がっている。
初心者には、最初から成長投資枠で企業の個別株に投資をするのは、ややハードルが高く感じられるだろう。個別株にしろ投資信託にしろ、値上がり値下がりはつきものである。値動きに一喜一憂するのではなく、新NISAを「投資の草木」として考え、水をやりながらすくすくと育て、「投資の草木」から得られる果実(配当金、分配金)を楽しむくらいの感覚で、「投機」ではなく「投資」を行うのがいい。投資(投機?)そのものが好きで日々の株価をチェックするのが楽しい、値上がりしたら売却益を得たい、という人も世の中には一定数はいるだろうし、それを新NISAでやれないことはない。ただ、投資を始めたとしてもあまり時間をとられたくはない、限られた時間を仕事や趣味に使いたい、という人が大半だろう。そういう人たちのために、新NISAを活用してもらえると、長期・分散・投資先となる企業の財務にも資するものとなると思う。

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