高倍率ズームレンズという魔物


 高倍率ズームレンズというのは、広角から望遠までが1つになっているとても便利なレンズ。


 デジタル世代のそれは写りも良く、大いに盛り上がる商品でもある。


 そして、これが写真をつまらなくしているの元凶だと思う。


 結局便利なものを使い始めると人はものに使われるようになる。自分が使っているようで実は使われる。


 ズームレンズが良いのは指先の動き1つで画角を変えられること。もっと寄りたいやもっと引きたいと感じたらズーミングすれば終わる。

 このやり方だとカメラを覗く前に構図を決めなくなる。というよりそんなことは学べない。カメラを覗いてからいろいろ考えるのでタイミングはいつも後回しになる。もちろん構図も甘くなるので、あとでトリミングすることになる。


 初期の高画素カメラの謳い文句はどんなにトリミングしても大丈夫。そんな話を聞いたことがある。そして、このカメラはプロ向けの製品だった(笑)


 これでは撮っているとは言えなくなる。そもそも、ほとんどのメーカーはカメラやレンズが売れれば良いだけで、写真表現の広がりなんて本気で考えてはいない。だから、高倍率ズームで十分となる。

 便利でコストパフォーマンスも良さそうだから売りやすいというオマケまでついている。そんな目先の利益を求めた結果迷走している会社がどんどん衰退する。


 案外単焦点レンズをしっかり充実させている会社の方が強くなっている。カメラの性能だけではなく、単焦点レンズをいかに充実させるかが、カメラ事業存続の分かれ目のように思う。

 例えば、某S社はしっかりとした単焦点レンズのラインナップを揃えている。確かにここにくるまでには時間がかかる。その時間をマウント情報を公開することでクリアーしたと言える。さらに初期はオールドレンズの受け皿としてボディーの需要を増やしていた。

 それがしやすかったのもマウント情報を公開して、マウントアダプターを作る他社の参入を容易にしていたからだ。確かに一部粗悪な製品を生みだすことにもつながるが、ネット時代は情報の伝達も早く、その中でそのような粗悪品は淘汰される。実はマウント情報を公開している方が粗悪品対策になるようにも感じる。

 とは言え、単焦点レンズの充実にはかなり時間がかかるので、企業の基礎体力の問題もでてくる。と、よく言われるが、結局は経営者の判断であり、決断によるところが多い。こんな話を書くと株主が....と言われ、負の連鎖になるのが悲しい現代。

 本当は株主を説得できるだけの長期戦略に欠けているだけで、さらに短期的な利益を追求する株主しか興味を示さない会社になっていると言える。


 高倍率ズームレンズは1つで様々な焦点距離に対応できるので、単焦点レンズでラインナップを充実するより遙かに楽に目先の利益を追求しやすく、さらに妥協の産物なので、コスト管理がしやい。

 もちろんレンズ作りには妥協は必要。妥協というかバランスを取らなければいけないところがある。それでも高倍率ズームレンズのそれと単焦点レンズのそれでは意味が違う。


 デジタルカメラの商品サイクルは所詮は3年から5年。高倍率ズームレンズは後に続かないから始末が悪い。しっかりした単焦点レンズなら10年以上は稼いでくれるし、次のレンズにもつながる。



 フィルム時代ボディーとセットの安売りダブルズームレンズメーカーの代名詞的な存在だったレンズメーカーさんもデジタル世代では高性能単焦点レンズを充実させて、いまではカメラメーカーのように自社でカメラを作るところまでになっている。これには経営者の決断が大きく関わっている。

 確かにニッチな製品構成かもしれないが、写真という語り口で考えるとこれほど楽しい製品を多数揃えているメーカーは少ない。そして、そのレンズは単焦点レンズが主な商品になっている。

 これはレンズ固有の個性を作りやすからでもある。個性は万人に受け入れられるものではない場合もあるが、それはそのメーカーさんの魅力になる。確かに高倍率ズームレンズが得意というのも1つの個性かもしれないが、それはあくまでも商売的な利益のためだと思う。


 そして、目先の利益ばかりを追いかけて、楽をした結果、迷走が始まれば、スマッシュヒットを飛ばそうとさらなる迷走連鎖が加速する。


 無難な性能で高倍率ズームレンズが作れるのもコンピューターシミュレーションという平均値のおかげだ。それがコスト管理ががしやすいと思う理由でもある。


 ここでも最初の便利なものは使っているように感じて実は使われるという話が重なる。そんなレンズ作りばかりしているとレンズの個性を語れなくなり、その良さは数値の良さを強調するだけになる。そんなレンズでは誰も楽しめない。

 ちょっとお高く感じるレンズでそんな作り方をするとさらにたちが悪い。それは、どんなに良く写っても面白みにかけるから。ただ、マニアックすぎるとなかなか理解されないジレンマが残る。


 それを伝える側の問題も見過ごしてはいけないのかもしれない。まぁ、その話に関してはあまり深掘りすると問題が大きくなるので割愛。

 って、そんなこと言ってると時代遅れって言われそう。そんな単焦点レンズを喜べるのは日本というニッチな市場だけのような気もする(笑)


 無難なレンズではなく、個性がある単焦点レンズそこが写真表現、写真文化の救世主のように思う。そもそも、写真文化ってないのかもしれないし……。それにレンズの個性と書いているとクセ玉好きと勘違いされそう。



 また、次回。

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