Keita's talk その250 竹内敏信の記憶力と構成力


 マウント作業は基本的に取材に同行したアシスタントがやるのがルールだった。海外取材にはその当時はアシスタントが同行していないので、初めは新人、あとは成田まで送り迎えをしたアシスタントというのが大体のルールだった。


このルールができたのはオレの行動とは関係ない(笑)。やっていると必ず「おい雑誌で使いたいからあの写真を切ってくれ」と、横から催促がくる。

初めのうちはあの写真と言われても手いっぱいで、どれですか?と聞くことも多かったが、余裕が出てくると現像が上がったときに先生と話していた感じからアレねって、目星がつくようになった。で、それを持っていくと「これじゃない」という話になる(笑)。


先生がすごいのは撮影データを全て覚えていること。海外で大量に撮ってきたフィルムの中から、これっといって選んだ写真の撮影データは撮影地から大体の撮影時間まで覚えている。初めはやっぱり天才だ。と、思った。その天才もときには間違いを犯す。特に撮影データは微妙に違ってしまうことがある。

そこで雑誌で発表している類似カットの撮影データを確認する。このときもあの雑誌の何月ぐらいと直ぐにでてくる。特に写真集の担当になるとこの確認が結構骨の折れる作業だった。

でも、それに手間取っていると作品の並びに意見する楽しい時間がなくなるので、できるだけサクッと終わらせる必要があった。そこを他のアシスタントに頼むと後々の楽しみの効果が半減する。ただ、どの時期かは先生同様に覚えている先輩がいたのでちょくちょく聞いていたが、最終的には、一足早く事務所に来て終わらせるというのが一番だった。

そんな事務的な仕事を終わらせれば、先生が選んだ写真を見ながら自分的にああでも無いと考える時間ができる。そして、ちょいちょい自分なりの意見を言ってみると、最初のうちは鼻で笑われていても、たまにヒットすることがある。

ヒットするようになったと言っても3年目ぐらいからだったと思う。なぜかその時期に写真集を作って写真展をやるという流れが多く、担当の順番がよく回って来たのもラッキーだった。近々開催されるグループ展用に作られた年表を見るとそれほど写真展をやっていないので不思議(笑)


写真集や写真展の構成を側で見ていて感じたことは構成力が抜群に優れていること(写真集に関しては、最終的には信頼しているデザイナーさんに任せることも多かったが、基本的な流れは本人が作る)。自分の写真だけでなく、アマチュアの方の作品をまとめるときもその構成力で綺麗にまとめてみせる。大体、アマチュアの方のお手伝いをするとみなさん自分の写真じゃないみたい。と、言われる。

そんなのどうせお世辞?これが本当に凄かった。手伝っているオレも何でアレが…………と、感じることが多かった。

もともとオレは風景写真を撮るタイプでもなかったので、この構成力だけは絶対に盗んでやると思いながら事務所生活を送っていた。記憶力はもともとの素地がないので初めから諦めていた(笑)。


ヒットするようになったのも構成力のコツが少しわかったからだと思う。簡単に書くと一枚にこだわりすぎないこと。ある一枚は、そのほかの写真との流れがあって入っている。写真を変えるときもその流れに合わせて選ばないと先生は納得しないし、全体のまとまりもなくなってしまう。この全体をまとめるバランス感覚と流れの中に合わない写真はどんなに気に入っていても外す勇気が竹内敏信の構成力のすごいところ。

そして、その構成力は瞬時に判断される。撮影の時に時間をかけないのも瞬間に画面構成ができるからだとわかってきた。そして、それは光を追いかける上では欠かせない能力であることも。その能力は、何を撮るのにも必要なものだった。


理屈が分かってもそれを実践できるようになるわけでないので、日々が訓練だと思って先生の考えを理解して、その狙いを見極めることに気をつけていた。それは、写真展や写真集の構成だけでなく、取材の時にも応用できる。

車で移動しながら助手席の先生の手が上がった瞬間。何を見て何を求めているか判断して、それに合わせた機材を準備する。それが上手くいくと先生の機嫌はよくなる。機嫌が良くなると取材が順調進むので、次の出会いもよくなる。この引きの強さも竹内敏信という写真家のすごいところ。車を走らせる場所がどんどんと見事なタイミングになっていく。

で、ラッキーですよね〜というと、ちょっと機嫌が悪くなって「ちゃんと考えて動いているからだ。お前とは違うんだ」と、言われる。特に桜はそれが顕著だった。桜はその取材で狙いになる木を見つけて、この咲き具合に合わせて標高で移動していく。あれ?これは書いてはいけない秘密だったかな(笑)。桜の開花には温度が密接に関係しているので、見頃の桜と同じ標高で探すと見頃の桜を追いかけることができる。


目的にする桜は有名桜の場合もある。ただ、本気で撮影するのはその隣の町の桜。先生によれば、有名桜の近くには同じような立派な桜が必ずある。それは、おらの村にもあんな桜植えるべとなるからだそうだ。そして、その桜の周りには提灯もなければ、観光客のみなさんも少ない。


そして、桜の木は地域の皆さんに見守られていることが多いので、そんな樹はひっそりとしながら存在感がある。


この話はもっと長くなるのでこの辺で本題に、


そんなペースで取材が進むと、夜の食事も上機嫌で美味しいお酒が進むことになる。最後にホテルに帰った時に、「明日はゆっくりでいいぞ」その一言が出るときは先生の満足度が高い証拠でもある。まぁ、翌日の天候があまり良くないことが前提で、このちょと美味しい深酒作戦を使うのがオレは得意だった(笑)


ちなみに竹内敏信は絶対に車中泊をしなかった。翌朝の撮影現場まで多少距離があっても必ずホテルに泊まる。これはしっかり休んで疲れをとるためだと言っていた。風景に対峙するための気持ちがその日の疲れをしっかりとっておくことにつながっていることを知るのはずっと後のこと。


と、長くなったのでその話は、またいつか。

あくまでも佐々木啓太個人の感想、記憶に基づいて構成しています。


Keita's Page2·2018年2月に書いたものです。

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