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# 102_本連載の概要

 本連載における主要なコンテンツは映像です。また、FabBiotope2.0というプロジェクトに対するQ&Aの文章です。映像は、2019年夏に東京都美術館で開催されたTURNフェス5[1]に出展作家として参加させていただき、我々の展示空間内で実施した五つのトークを三十分×二回の計十話に編集したものです。当時の記録をふりかえると、その空間はある種の舞台に見えてきます。その舞台美術を、空間を扱う小林空が。そこで特殊な状況を立ち上げることを、ある意味で劇作家的に私、島影圭佑が。そして、その立ち上がった状況を映像で記録し、計十話の映像に編集することを、映像監督として岩永賢治が。また、我々のプロジェクトに関わる人々が出演者として登場致します。

 岩永との協働の過程で、また、編集し終えた映像群を改めて観て、そこにオルタナティブな小さな社会を錯覚しました。つまり、FabBiotopeというものを主題に我々と関係する様々な人々と議論する、そこに集団的な想像力が立ち現れているように見える。私たちの生きている社会というのは当たり前ですが複雑です。様々な人々によって構成されている。今回、トークに登壇していただいた方々は弱視者、エンジニア、当事者の家族、研究者、キュレーターなど様々な立場や役割の方々に参加いただきました。それら集合した映像群を観ると、そこに新しい小さな社会が立ち現れているように見えるのです。また、これも当たり前ですが、例えば弱視者であったら研究者であったら誰でもいいわけではなく、私が活動していく中で出会ったり協働したりしている人々、その中でFabBiotopeというものを主題に一緒に考えたい、お話を伺いたい、議論したい、そういった方々にお声がけさせていただき参加いただいたわけでございます。つまり、その人でなければいけなかった。「その人でなければいけなかった」その集合が、結果として多様な人々によって構成されているものになった、そのような感覚なのです。
 岩永は、編集後、三分間の短編映像は旗のような存在に、十話の映像群は様々な人々に開かれた扉のようなものになったのではないか、と振り返っています。つまり、もしかしたらこの映像群は私が思い描いている新しい社会像、そのイメージ、そのプロトタイプとして見ることができるかもしれません。登壇者は、ある意味で、その社会の造形に関与してくれている市民、そのモデル、そのケーススタディのように見えるのです。そういう意味で、この連載の主要な目的はFabBiotope2.0に参加する弱視者やエンジニアを募集するものにはなっていますが、そこを主役としながらそれ以外の人々、プロジェクトに関与いただきたい、このオルタナティブな社会を構成する一員になっていただきたい方を表象するような連載になっているかもしれません。
 もちろん登壇者それぞれの方にそれぞれの物語があって、この少ない事例からどのような方に構成員になっていただきたいのか、その条件を導くのは不可能であるように思えます。その個別のケーススタディとして見ていただく他ありません。しかし、そのような人がいるのだ、現実に存在しているのだ、というリアリティに触れていただく、その複数の自律したリアリティに触れていただくことでオルタナティブな社会のイメージを、その世界観を想像していただく、それは可能なのではないかと考えています。そして、その世界観を想像いただく中で、心が動く方、そういった方が現れるのではないか。そして、場合によっては出会い、また場合によっては協働する。個別な新たなモデルとして、社会の造形に関与する存在になっていただく、そういったことを期待しているのかもしれません。また、そういった複数のリアリティから社会像を想像いただく上で、映像の媒体はひとつ機能を果たしているように見えます。映像では主に言葉や声を切り取りにいっていますが、それが出力される肉体を扱っている側面が多分にあります。複数のリアリティや複数の肉体を映像群から感じ取っていただければと思います。
 Q&Aに関しては、また、これもFabBiotope2.0に応募を検討されている弱視者やエンジニアの方を対象の中心に文章を書いておりますが、同時に多様な角度からの問いに対して回答を通じて言語化を試みている文章になっております。Q&A形式になっておりますのは、様々な立場の方が本連載に訪れ、それぞれの角度からそれぞれの深度で本プロジェクトの情報に足を踏み入れていただければと考えているからです。
 また、冒頭にも述べました通り、本連載で公開していく映像群は2019年に実施したトークの記録映像を編集したものになっているため、当然現時点とのタイムラグがあります。もちろん当時から変わらぬ部分もありますが、変わっていることも多分にあり、また、当時明らかになっていなかったことでも、今やっと言語化できるようになった部分もあります。その当時から今にかけての差分のようなところをQ&Aの文章で補っていければと考えています。
 また、現時点で準備しているQ&Aの文章は、自分自身への自己言及的な、自分に対して自分で質問するというものもあれば、このプロジェクトの構想を他者に說明する中で投げかけられた質問から問いを設計しているものもあります。ゆえに現時点の私のからだから反応された、肉体的な、インタラクティブな文章です。ですので、なるべく客観的な文章を、と意識しながらも、かなり主観的、感覚的な言葉の発露も伺えます。本来、一般にQ&Aは客観的で冷静な回答文、そういった文章を書く時に用いられる形式ですが、その形式に乗りながら、ある意味、物語を書いている、そのような感覚で読んでいただけるとよいかもしれません。
 また、本連載を読んでいただき質問がございましたらフォームよりご送信いただけると幸甚でございます。いただいた質問の中で、私の方で全体に向けて回答させていただくべきと感じた質問は、本連載の中で公開Q&Aとして投稿させていただければと思っております。

 では、次回は第一話の映像の紹介に移っていければと思います。またお会いできることを楽しみにしております。

[1] 開催日:2019年8月16日ー18日、20日 主催:東京都、公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京・東京都美術館、特定非営利活動法人Art’s Embrace、国立大学法人東京芸術大学

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Keisuke Shimakage

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