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「部活帰りのコンビニアイス、うまかったよね」を広告化するー『エモ消費 世代を超えたヒットの新ルール』

はじめに:ヤケドとインパクトとコミュ障と

ボクが広告をつくり始めたのは、今から約17-18年くらい前だ。

当時はSNSといえば、mixiくらいしかなく、広告メディアといえばやはり4マスがまだまだ強かった。

その頃、よくクライアントから言われたのは、

「インパクトが足らん!もっとインパクトを!」

というリクエストだった。なので、誤解を恐れずに言うと、時にはネガティブな表現もインパクトになり得た。

そんななか当時求人広告をつくっていたボク。

あるとき、工場の求人広告で最強にインパクトのあるキャッチコピーを!というクライアントからのをリクエストを受けた。「よし!」と意気込み、ボクがひねり出したキャッチコピーは、

「人と、まったく、しゃべらない仕事です」

ーそのあと、めちゃくちゃ担当営業に怒られ、当時の上司からもコテンパンにやられた。

ボクとしては「なので、コミュ障の人にぴったりでしょ?」ということをいいたかったのだが、インパクトという言葉に引っ張られ、ヤケドをしてしまったわけである。

そんなこんなでときは流れて、いまは2023年。こんかい紹介したい一冊は「エモ消費 世代を超えたヒットの新ルール」という本である。


エモを切り口に、買う理由をつくる

ボクがこの本にタイトルを付けるとしたら、「エモを切り口に、買う理由をつくれ」

この本、「エモ消費 世代を超えたヒットの新ルール」では、

「ターゲット:Z世代」
×
「メッセージ:How to say/共感性」
×
「メディア:SNS」

について、掘り下げている

筆者は、今瀧健登さん。Z世代へのマーケティング・企画UXを得意とする Z世代のプランナーだ。

「エモ」とは「ハッピーな共感」

この本では、「エモ」とは「ハッピーな共感」という風に定義されている。

なにかをプロモーションするときに、「エモ要素」をまとわせることで、SNSを使ってZ世代に響くプロモーションを行うための方法論を分かりやすくまとめている。

なぜエモが必要なのか?

①そもそも広告はうざい存在であるから
普段から大量のメディアに触れているZ世代にとっては尚更。

そんななか、ボクがヤケドをしてしまったように、インパクトを重視したびっくりさせるだけの広告なんかは、はっきりって迷惑以外何者でもない。

②特にZ世代は人とは違うものを選びたいという欲求が強いから
現代はSNSのせいで、自分がどうやって生きれば良いのか、とても選びづらい時代。

そうした中で特にZ世代は「自分らしさ」「個性」を大切にする。人とは違うものを選ぶという意識が、消費行動の主体になっている。

③「自分だけの買う理由」
そうした中で広告メッセージとして重要になってくるのは、「自分だけの買う理由」である。

多くの人には刺さらないかもしれないけど、
→商品・サービスを「自分事」として共感を持って伝え
→それを入り口に商品やサービスに対してポジティブな印象を持たせ
→購買へと繋げていく

ことが重要なのである。

こうした内容を踏まえて、以下、それぞれのキャッチコピーを比較して欲しい。どちらがエモいと思う?

インクが切れず、書きやすいボールペン
初めて契約を取った日、上司にもらったボールペン

柑橘系のさわやかな香りの香水
街ですれ違った人が、元カノと同じ香水をつけてた

ハムが大特価!
ハムがたくさん!親子のワガママチャーハンをつくろう

中華街でいちばん小籠包がおいしいお店
デートで立ち寄りたい、肉汁あふれる小籠包のお店

従来商品の3倍の吸引力の掃除機
掃除が早く終わったら、夫婦でゆっくりコーヒーを

早い話が、

日常のちょっとしたハッピーな「あるある(エモシチュエーション)」を、うまく商品やサービスに紐づけて訴求することで、共感性のあるメッセージができるんじゃないか

という話である。


「エモ=ハッピーな共感」が生まれる3つの条件

では、「エモ=ハッピーな共感」が生まれる条件とはなんだろうか。筆者によると3つの条件が存在するという。

  • ①経験を通じて……その商品やサービスに関する過去の自分自身の経験

  • ②ハッピーな感情……めちゃくちゃ幸せというよりも、ちょっとしたハッピーさ。修学旅行が楽しかったという思い出よりも、部活帰りのコンビニが楽しかったという日常的なハッピー

  • ③コミュニケーションがあること……一人でハッピーになった経験よりも、誰かと一緒に体験した経験

これらが重なるところに、エモさが生まれ、人は人に伝えたくなるのである。

ただし、これは100%の共感である必要がない。60点くらいの共感でよいのだ。

一人で考えず、インタビューを通じて紡ぎ出してく

こうしたエモシチュエーションは一人のクリエイターが机に向かってウンウン考えるものではなく、チームでつくる。

さらには、ターゲットとなるZ世代グループにインタビューをしながら、紡ぎ出す。「エモをひねり出す」のではなく、「探す」といったイメージだ。

具体的には、

  • ①考えたエモシチュエーションを、ターゲットグループにぶつけて、反応を確かめる

  • ②ヒアリングした内容などから、商品に紐づくエモシチュエーションを考える

  • ③ターゲットグループにヒアリングして、どんなときにエモを感じるかを探る

インタビューを通じて「共感できる/共感できない」といった仮説検証を繰り返す。こうして紡ぎ出されたエモシチュエーションを、SNS上で動画コンテンツとして配信していく。


「共感」と「コールアンドレスポンス」

ボクが今瀧さんの主張を読んでなるほど、と思った点は2つ。

ひとつめは広告コミュニケーションが、単なるインパクトを与える時代から、共感性を重要視した時代に変化したこと。

ふたつめは、メッセージをクリエイターがアイデアをひねり出すのではなく、ターゲットとなる人へのインタビューとレスポンスによって、積み上げていくというものだ。

ボクとしては、こうした方向性・方法論の重要性を常々感じていたので、とっても納得できる。

今回の「エモ消費ー世代を超えたヒットの新ルール」を読んで、次世代のコミュニケーションメッセージのつくり方について、改めて確認することができたように思う。


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