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【お料理】豚キムチ富久町【小説】
豚キムチ富久町
作:センチメンタル岡田
森山京一郎は、この頃、肥えてきた。
それというのも、昼食に、ナポリタンばかりを食べているからである。
彼は日中、肉体労働に従事している。
職場と自宅が近いため、昼休みは自宅に一度帰っていて、食費を節約するために自炊をしている。
彼は、毎日、違う料理を作るのが面倒だった。
そして彼は、毎日同じものを食べても平気なタチだった。
タコライスや、肉野菜炒めなど、手軽に作れる品目をいくつか作ったのち、パスタ、玉ねぎ、ピーマン、ケチャップ、そしてベーコンかウインナーかハムなどの適当なタンパク源さえ常備していれば、その都度買い出しをしなくても済む、ナポリタンに行き着いた。
それからというもの、彼は連日ナポリタンを昼に作り、食べた。
たまにアレンジを加え、しめじや舞茸などのキノコを入れたり、ピーマンの代わりにキャベツを入れたりして変化をつけた。
そんな生活が2週間ほど続くと、京一郎は職場ほ同僚から、"あれ、森山、顔、丸くなった?"などと指摘されるようになった。
自分の好きな分量を作れる自炊では、彼は毎回、多めに作ってしまう。パスタは炭水化物であり、玉ねぎ、ピーマンという野菜が入っているとはいえ、油で炒めているし、ケチャップによって塩分も多い。
おまけに京一郎は濃い味を好むので、ケチャップも大量に使う。たまにならまだしも、こういう品目を毎日食べると、肉体労働で消費したカロリーを上回って摂取してしまうようであった。
このままでは健康に良くない、と考えた彼は、食事を変えることにした。
調べてみると、発酵食品のコラボレーションは身体にいいという。それなので彼は、向後の昼食は、基本的に、キムチと納豆を混ぜ合わせたものをおかずにして、1杯の白ごはんだけを食べることにした。
ナポリタンほどお腹はくちくならないが、健康には代えられない。
以来、彼の家の冷蔵庫には、それまでの、ナポリタン材料の代わりに、キムチと納豆が常備されることになった。
☆
そういう食生活にして数日を経てた。
なんとなく今までよりも、身体の動きが良いような気がし、効果を実感しはじめた折、彼は日ごろ働いている自分へのねぎらいと、両親に顔を見せるのを兼ね、5日間の休暇をとり、北関東の実家に逗留した。
実家の四辺には緑が多く、コンクリートの照り返しが辛い東京よりも数段涼しかった。
都会の喧騒から離れ、Netflixで映画を眺めたり、気ままに散歩したり、自炊せずとも母が食事を用意してくれることのありがたみを感じたり、父と野球の話をしたり、先祖の墓参りをしているうちに5日間はあっという間に過ぎた。京一郎は、両親が健在なことに感謝した。
電車で2時間かけて、京一郎は、新宿区富久町のアパートに戻った。
その日も昼の労働を終え、一時帰宅し、キムチ納豆ごはんを食べると、キムチがかなり酸味を増していた。賞味期限を見ると、4日過ぎている。
早めに残りのキムチを消費した方がよさそうだ。昼休みを終え、後半の労働に従事しながら、彼はその方法を思案した。
仕事終わり、四辺は黄昏れ、再度帰宅した京一郎は、労働のさなかに閃いた方法"残りのキムチは豚キムチにする"を実行すべく、スマホでレシピを調べはじめた。
今まで豚キムチの調理経験に乏しい彼は、なるべく簡易なレシピを探した。すると、めんつゆだけで味つけできるというものがあったので、それをもとに調理を開始した。
京一郎は、冷凍庫から冷凍した豚こまを、冷蔵庫からは玉ねぎ、キムチを取り出す。
そのレシピではニラも材料に入っていたのだが、今回は切らしていたので割愛。
まずは、半分に切った玉ねぎの皮を剥いて薄めにスライス。キムチを容器から取り出し、食べやすい大きさにカット。その間に豚こまを解凍し、それもカットする。
フライパンにごま油を敷き、玉ねぎを投入。豚こまも投入。火が通ってきたところで、キムチも投入。ここらでめんつゆを入れるか、と調味料棚を開くと、めんつゆが無い。
仕方がないので、調味料棚にある、醤油、酒、みりんで味付つけすることにした。
それぞれを大さじ1加え、隠し味にガーリック塩をひとふりする。芳香が漂う。ひとくち味見すると、発酵の進んだキムチの酸味が炒まってまろやかなコクとなった味と、混ぜ合わせた調味料の複雑な味と、ジューシーな肉の油とが化学反応を起こし、佳味なるものが舌の上で蕩けた。
京一郎は、炊飯器から炊きたてのごはんを茶碗によそい、ホカホカと湯気のたつ豚キムチの皿横に並べる。
"いただきます。"
一人暮らしでも京一郎はちゃんとこの挨拶を口にする。完成した豚キムチは単体でも美味であったが、ごはんと共に食すと、更なる化学反応を起こし、彼はあっという間に平らげてしまう。
多めに作った豚キムチは半分ほど残ったので、明朝のおかずにするべく、ラップをかけて冷蔵庫に仕舞った。
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