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いわゆるIPO投資とはどういうものかを考えてみると2通りの傾向が見えてきた

先日、孫正義さん率いるソフトバンクグループの子会社アーム(Arm Holdings plc)がNASDAQ市場に新規上場(IPO,initial public offering)して少し話題になりましたが、日本の株式市場でも毎月(3月と9月が多い)新規上場する企業が名を連ねています。

2023年10月以降の上場予定リスト(リンク先より)

特別人気がある銘柄だと上場日から買い注文が殺到して数日の間に株価が数倍になることもあるので一部の投資家からは人気があるようですが、実態はそれほど簡単でもなさそうです。


IPO投資とは

新規公開株に投資をすることです。新規公開株とは、新たに株式市場に上場する株式のことであり、上場とは「投資家に株式を買ってもらえる状態になること」を指します。(見出しリンク先より引用)
また、そもそも投資とは?という疑問も出てくるかもしれませんが、投資に対する個々人の考え方のバラツキが大きい印象があるのでここではあえて定義しません。また、「株式」と「株」とで使い分ける場合がありますが同じ意味です。

企業が新規上場する一般的な目的は事業拡大のための資金調達で、知名度や信用度の向上等も目論んでいると考えられます。一方で、東芝のように経営方針の再考で株式の上場廃止にかじを切る企業も時々見受けられます。

東芝の上場廃止日程表(リンク先より)

上場時の資金調達の資金の出処は投資家で、当該企業の上場を取り持つ証券会社の口座を持っていれば誰でも新規公開株取得に参加できますが、限られた株数に取得したい投資家が殺到するので、まずは「抽選」に参加することになります(ほとんどの参加者は抽選となりますが一部例外もあり)。倍率等の詳細は通常非公開なのですが、僕の知っている限りでは楽天証券だけが抽選結果とともに倍率等も通知してくれます。おおよその感じですが、人気のなさそうな銘柄でも数十倍、人気があるものは数千倍もの競争率になっています。

この時点でこの形のIPO投資は「多少は当たりやすい3等や4等程度の宝くじ」のような印象で、個人的には投資には該当しないかなと思います。

証券取引所に上場後、最初に取引が成立した値段のことを「初値(はつね)」と言いますが、抽選に当たった場合の新規公開株を購入する値段(公募価格)に比べて初値のほうが高いケースが通常なので、一般的には儲かるイメージがあるのかもしれません。年間100社前後上場して、公募割れのリスクを恐れずに全ての抽選に参加としても当選するのは大体5回程度なので、資金確保や予定管理や手続き等の手間を考えると個人的には小遣い稼ぎ感覚としての認識しかありません。

年間IPO数推移(棒グラフ数字左端)、折れ線は日経平均推移(右端数字)。リンク先より

IPO銘柄の紹介をしているサイトや動画もありますが、彼らもIPO銘柄に関する情報を提供ながらアフィリエイトや広告収入からの稼ぎのほうが圧倒的に多いはずで、特にIPO投資で稼いでいるわけではないと思います。

もう一つIPO投資「セカンダリー」とは?

簡単に言うと、新規公開株が初値を付けた後の売買に参加する投資スタイルのことです。

企業等が株式や債券を発行して資金調達する市場のことを「プライマリー・マーケット(発行市場)」、発行された株式や債券を、投資家間で売買する市場のことを「セカンダリー・マーケット(流通市場)」と呼ぶそうです。ここでいうセカンダリーとは流通市場のことですね。

結局やる事は、他の通常の上場銘柄を売買する場合と同じなので、先の抽選型の参加とは違い、どの証券会社の口座からでも資金があれば自由に売買に参加できます。

そして個人的な一番の注目点は、当該新規上場企業の「株価の方向性がまだはっきり認識されていない」ところです。通常の上場企業であれば四半期ごとの決算発表の積み重ねで、ある程度妥当性のありそうな理論株価は算出可能です。「理論株価」とは、「資産状況や稼ぐ力から導き出したその企業本来の実力を反映した株価」というようなイメージです。もちろん株価は景気や相場全体の流れ等の外部要因にも左右されますが、各々の企業の業績や見通し等の内部要因の良し悪しが投資家にとっては最大の注目点だと思います。

現実の株価の値動きはなかなか理論株価通りには行きませんが、ファンダメンタルズで株式投資を考える場合には理論株価は重要な拠り所になると思います。そして5年先10年先の会社の成長を思い描いてある程度の確信を持った銘柄を投資対象先として購入し、突発的なニュースがない限りは四半期ごとに進捗を確認しながら資産形成して行くのが長期投資のオーソドックスなスタイルの一つだと思います。

一方で、新規上場株の場合も理論株価の算出自体は可能なのですが、若い企業も多く業績もまだまだ安定しそうにない傾向があり、あてにできそうな理論株価を導くことは容易ではないことも多々あります。その辺りを見極める事ができれば、初値の価格が高すぎるのか低すぎるのか、それとも妥当なのかの見当が付きそうですが、ほぼ目論見書や有価証券報告書や当該企業のサイト等の情報だけで判断する我々にとってはなかなか難しいと思います。

株価が理論株価に比べて低すぎる(いわゆる割安)という状況であれば、自身の見通しに落とし穴がない限りはその銘柄を購入して待ってるだけで実際の株価が実力通りにどんどん理論株価に近づいてくれるという期待が持て、時にはオーバーシュートと言って、人気に火が付き理論株価の遥か上まで行ってニヤニヤしながら売却することもあります。まぁ滅多にないですけど。

また現実には、たとえ株価が割安状態であったとしてもそのまま放置されて低迷し続けるというパターンもありえるので、その場合はどこかの時点で見切りをつけたり配当や株主優待のリターンを受けつつ我慢強くキャピタルゲインの機会を伺うことになるかもしれませんし、企業業績の悪化等で予想外の株価下落による損切りや塩漬け状態になるのかもしれません。

確かに上記のようなリスクはありますが、新規上場時のふわっとした状態の中で実力には程遠いと思われるような割安価格で売買されているところを目撃するとバリュー投資家としては食指が動くもので、投資対象銘柄としてリストアップしたくなる気持ちは理解できます。

もちろん別のパターンもあります。一時的に人気が加熱して初値が信じられないような割高(理論株価に対して)の株価になることもあり、人気に乗っかってある程度の利益を出した利食い組の大量離脱や、決算等の現実の業績状況に直面しながら投資家の期待値も下がって行き、身の丈に合った株価に落ち着く銘柄も少なからずあります(むしろこっちのパターンのほうが多いかも)。

IPO投資に限りませんが、企業の実力や投資家の思惑等をある程度見極める力を普段から身につけていかないと行き当たりばったりの出たとこ勝負になってしまい、投資をしているつもりでも実態は投機になっているパターンに陥ってしまいがちです。とにかく、勝負感でもテクニカル分析でもいいです、もちろん全勝とは行きませんが、年間をトータルで勝ち越せるような自分にとっての「必勝法」と言えるようなスタイルを確立することが一番のポイントかもしれません。
☆了☆


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