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本部経験が長い「意識高い系」の銀行員が地方銀行をダメにする

銀行本部の「意識高い系」の行員と、現場経験が豊富な行員。彼らの間には大きな隔たりがあります

データと理論に基づく意思決定は確かに重要ですが、それが現場の実情から乖離していることは少なくありません。

一方で、顧客との接点を大切にする現場行員は、その経験から得た知見を活かし、実践的な改善策を提案しますが、大局的な視野を欠くこともあります。

この記事は、約23年間、地方銀行の本部も営業店も経験した筆者が、銀行内で生じるこのような問題を具体例を交えながら解説し、両者のギャップをどう埋めるかについて考察します。

「意識高い系」の実態

「意識高い系」の銀行員は、理論的な知識は豊富ですが実務経験が不足しており、これが銀行業務に様々な弊害をもたらしていると考えます。

理由は、地方銀行の本部行員は、メガバンクやコンサル企業の真似事に終始し、時には上から目線で非現実的な方針を押し付けるためです。

たとえば、私の経験の一つで言えば、ある地方銀行では、顧客管理の新システム導入が提案されましたが、これは現場の実情を無視したもので、多くの現場行員から不評を買いました。

最終的に、このシステムは使い勝手が悪すぎて、顧客との関係が損なわれる一因となり、数年で運用方法が変更されました。

このような本部行員が現場の実務を理解していないために導入してしまう無駄な取り組みは、地方銀行ではよく起きます

なぜなら、銀行本部に持ち込まれるITソフト会社や、コンサル会社からの提案の殺し文句「メガバンクで使われています」や「他社では積極的に導入されています」という意味のないものに、彼らが簡単に騙されがちだからです。

しかし、少し考えてみれば分かることですが、地方銀行の顧客とメガバンクやコンサル会社の顧客のニーズは違います。

それを無駄に知識や理論だけ持つ「意識高い系」の本部行員は理解していない傾向があります。

彼らは営業店や顧客から学び、現場の声をもっと尊重する必要があるのではないでしょうか。

本部行員が銀行業務に及ぼす影響

「意識高い系」の本部行員が銀行業務に及ぼす影響は様々ありますが、最終的には効率的でない業務プロセスや顧客満足度の低下につながります。

本部行員による理論やデータ主導で策定される方針が、現場の実情との齟齬を引き起こす例は多くあります。顕著なのが販売目標の設定とキャンペーンの実施です。

ニーズを考慮しない販売目標の設定

地方銀行では多くの場合、本部が市場全体のデータを基に一律の販売目標を設けます

このアプローチは、地域ごとの経済状況や顧客の具体的なニーズを考慮せず、どこでも同じ目標が適用されます。

これが問題なのは、地域によって顧客の経済状況や金融に対する関心が異なるからです。

たとえば、地域経済が活発で顧客の投資意欲が高い都市部では、積極的な運用商品の販売目標が現実的かもしれませんが、経済的に緩やかな地域や、判断能力が乏しい高齢者が多い地域で、同じ目標を設定するのは非現実的かもしれません。

そのような地域では、顧客はもっと保守的な貯蓄商品やリスクの低い投資を好む場合が多く、強引な一律の販売目標は顧客との信頼関係を損なう原因になりかねません。

効果の薄い押し売りキャンペーン

同様に、本部が一方的に決定したキャンペーンも問題を引き起こすことがよくあります。

例えば、クレジットカードの新規申込みキャンペーンを行う場合、地域によっては、行政等が主導する決済方法が浸透しているため、カード使用率が低いエリアもあります。

そのような地域でキャンペーンを実施しても、効果が乏しいだけではなく、必要のないサービスを押し付けることになり、トラブルに発展する可能性もあります。

このような策は、顧客の実際のニーズを無視しており、結果として顧客満足度の低下や、現場サイドの士気の低下を招くことになります。

本部行員は、地域の実情や顧客ごとのニーズを理解し、それに基づいた柔軟な策定実施が必要です。

しかし、資金力の乏しい地方銀行にはそのような個別のニーズに応えるリソースはありません。

そのため、一律の目標設定やキャンペーン実施しか出来ないのが現状だと思います。

現場を知らない本部行員

本部経験が長くなるほど、本部行員は現場の実態から遠ざかってしまう傾向は強まります。

この隔たりは、地方銀行では頻繁に直面する問題です。

彼らは、理論やデータに基づくだけで、現場での実際の業務フローや顧客のニーズとは乖離していることに気づきません

彼らの意思決定は、「もっともらしい」理論に依存していますが、これは実際の業務において、ほとんど役に立たない結果をもたらします。

本部経験が長い行員は顧客との直接的な接触が少なく、顧客が直面している実際の問題を理解する機会が減少していきます。

その結果、彼らが策定する経営理念や戦略は、現場のスタッフや顧客にとって非現実的で、不適切なものになりがちです。

知識は豊富であるがゆえに、自分たちのアプローチが最適だと過信し、現場の声に耳を傾けることを怠っているのだと思います。

このように、本部での長い経験は、現場の現実から遠ざけ、彼らが持つ知識が実務では役に立たない「象牙の塔」の住人になってしまう危険性を孕みます。

本部行員の問題解決策

本部行員には、定期的に現場を訪れ、直接顧客と接し、現場の状況を肌で感じ取る必要があります。

解決策としては、本部行員に対して現場の実務経験を必須とする制度を設けるなどが効果的だと考えます。

本部経験の長い行員は直接営業店での勤務を経験し、顧客対応の現実や地域ごとの特性を理解する機会を持つべきでしょう。

具体的な事例として、本部と営業店でのローテーションを義務化し、直接顧客と接する機会を与え、顧客のニーズや問題点を直接学べるようにすることが考えられます。

より現場に即した政策が策定可能となり、顧客満足度の向上にもつながる可能性は高まるのではないでしょうか。

ただし、本部経験の長い行員が実際の現場でうまく機能しないケースも考えられます。

彼らは、元々銀行の現場に適合しなかったために、本部での仕事を割り当てられている可能性があるからです。

このような行員は、理論や戦略の策定には長けているかもしれませんが、具体的な顧客対応や日常的な営業活動には不慣れであり、コミュニケーションが苦手な可能性があります。

また、本部経験が長い行員を突然現場に送り込むのは、混乱を招き、現場のスタッフからの不平不満を増加させる可能性があります。

銀行の営業店は、日々の業務に迅速かつ効果的に対応する必要があり、本部から来た行員が業務の流れを理解し、貢献するには時間がかかる場合が多いかもしれません。

本部行員が営業店の実務について、現場でゼロから勉強し直すようなプロセスを踏めば、営業店の事務効率が低下し、客からの対応が遅れるなどの問題が生じることも考えられます。

これらの問題を緩和するためには、本部行員を現場に送る際には、適切なトレーニングと段階的な導入が必要でしょう。

本部行員にはまず、現場の基本的な業務を理解してもらい、簡易な業務や顧客対応から徐々に関わらせ、現場での実務能力を高めると同時に、現場のスタッフとの協力関係を構築する機会を提供する必要があるでしょう。

このような体系的なアプローチにより、本部と現場のギャップを少しずつ埋め、銀行全体としての業務の質と顧客満足度を向上させられるのではないでしょうか。

本部と現場の違いについて

以下の表は、「本部経験が長い行員」と「現場経験が長い行員」の比較を行い、それぞれの性格や考え方の違いに基づく弊害についても記述しました。

あくまでも私の経験に基づくものであり、主観的ですが一定の合理性があるのではないかと思っています。

筆者作成

まとめ

地方銀行の未来を心配している元銀行員から見て、銀行本部の「意識高い系」の行員と、現場経験が豊富な行員との間に存在するギャップは、組織全体の効率と顧客満足度に重大な影響を与えていると思います。

本部行員は上からの指示で現場の実情を無視した決定を下し、これが業務の非効率化や顧客からの信頼損失につながることを、あまり理解していません。

一方で、現場行員は顧客の直接的なニーズに敏感であり、彼らの声に基づいた改善策を提案しますが、時に全体の戦略を見失うことがあります。

この問題を解決するためには、本部行員に現場の営業店での直接的な経験を積ませ、現場の実態を理解させることが不可欠だと考えます。

さらに、現場行員の声を組織全体の戦略立案に生かせれば、より実践的で全体的に調和の取れたアプローチの実現が可能ではないでしょうか。

地方銀行が持続可能な成長を遂げるためには、本部と現場の協力体制を強化し、互いの強みを活かすことが求められていると考えます。

バランスの取れた改革が、顧客満足度を向上させ、地銀の将来性につながる施策ではないかと私は思っています。

最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
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