天日槍(アメノヒボコ)

 異装をした一行が多遅摩(たじま)の国の長・俣尾(またお)の屋敷を訪ねて行った。
「新羅の国からいらっしゃったのですか」
 俣尾は一行の主人格の人物に尋ねた。
「はい、妻を追って難波に来たのですが、そこの神に邪魔をされて上陸出来ませんでした。妻との縁もこれまでと諦めて国に戻ろうとしたところ、天候が悪くて船を出すことが出来ず、暫くこの地に留まろうと思い、こちらに参りました」
 流暢な倭の言葉で新羅人は答えた。
「そうですか、離れが空いていますので、そちらをお使いなさい」
 こうして一行は俣尾の屋敷に滞在することになった。
 さて俣尾には前津見という娘がいた。彼女が新羅人一行の世話をしたのだが、主人格の人物は前津見を気に入ってしまった。
 やがて海の状態も良くなり船出にふさわしい天候になり、一行は新羅に戻ることにした。
 その日、主人は俣尾に前津見と結婚したいと告げた。だが、俣尾は娘を異国に嫁がせることを認めなかった。すると
「ならば、国に戻らずここで暮らしましょう。いかがですか」
と提案した。ここまで言われては俣尾も拒否出来なかった。
 婚姻を認められた彼は婚資として、多くの反物、鏡、玉を俣尾へ贈った。本来は逃げた妻の実家に贈るものだった。
 後世、“天日槍”と呼ばれる彼の子孫は倭の大王になるのだが、その物語はまたの機会にて。


#歴創版日本史ワンドロワンライ  2019年12月7日 お題「槍」
アメノヒボコの物語は様々なものがありますね。



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