見出し画像

【こぼれ話】テーマで読む「三田の文人たちは先生だった」を語る(前編)

当社では、より書籍に関心を持っていただけたらという思いで、書籍の一部をまとめて立ち読みできる「KUP立ち読みのススメ」を公開しています。この度、そのサイト内に文学ジャンルを集めた「【テーマで読む】三田の文人たちは先生だった」を新設いたしました!

↓ページはこちら(以下、バナーから本の立ち読みページに飛ぶことができます)

KUP立ち読み三田の文人

【テーマで読む】とは?
ウェブサイト「KUP立ち読みのススメ」内では【テーマで読む】として、特定のテーマに沿って編集者と営業担当がセレクトした本をまとめて紹介しています。最近では、政治・社会ジャンルをまとめた「いま世界で何が起きているのか――政治・社会を見通すための34冊」や雑誌「教育と医学」を中心とした「子どもの心とからだを考え・支える人のために――雑誌「教育と医学」と関連書籍」などが公開中です。

当社ではこれまで文学や批評などに関する書籍も出版しており、特に「井筒俊彦全集」や「精選 折口信夫」など、明治~昭和期にかけて活躍した人物の作品を再認識いただくきっかけとして世に送り出してきました。彼らは書き手であるだけでなく、実は教壇に立つ先生だった一面もあり、教師と教え子といった関係などを通して、他の人物との交流も深めていたのです。この特設サイトは、人物相関図を交えて、彼らの知られざる一面に触れる一助としてご覧いただければと思っています。

そんな熱い思いでこの特集を作った担当が集まり、裏話トークを展開してもらいました!

<話す人>
佐藤さん:佐藤琢磨選手が好きな編集者。荷(はす)の写真も担当。
村上さん:K-POPをこよなく愛する編集者。文人たちのイラストも担当。
中島さん:ペンギンをこよなく愛する(でも飼いたくはない)営業担当。
<聞く人>
杉浦:エスニックと辛い食べものをこよなく愛する新人。

***

先生と学生の濃厚な交流

――まずは「三田の文人たちは先生だった」ができた経緯について聞かせてください。

佐藤:最初は永井荷風で特設サイトを作る構想だったと思いますが、もう少し広げて「三田の文人」で考えた方がおもしろいという議論がありました。名前を挙げていくと今の相関図になるような方々がいて、眺めてみると、みんな大学できっと教えてることに気がつきました。

中島:あいだにひとつ「三田の文人とその仲間達」っていう構想も挟まっています。最初それで僕らが選書をして持ち寄ってるんですけど、その「仲間達」ってふわっとしすぎていると感じていました。そこで確か佐藤さんが大学教授とかいうくくりを持ち出したんですよ。それまでそういうくくりで文人たちを紹介したことってなかったですよね。

佐藤:ないと思うんです。小説家や批評家など書き手である人たちが大学で教えて、学生との交流があって、人によっては、非常に濃い交流の関係になる人もいました。

永井荷風は文学科の草創期の教授で、「三田文学」創刊時の編集長です。どちらかというと学生との濃厚な関係は生まれてないようですけれども、それにしても谷崎潤一郎(作家、1886-1965)のデビュー作を「三田文学」で激賞したり、久保田万太郎の最初の作品を世に送り出したり、文学の場に登場するきっかけを作っているんです。

永井荷風a

その久保田万太郎は、大正8年(1919年)の30歳から、慶應義塾大学嘱託として、文学部予科で作文を8年間教えています。

久保田万太郎a

西脇順三郎も教授だし、折口信夫も國學院と慶應の教授で濃厚な学生との付き合いがあった。そう考えると、単なる書き手というだけではないと訴えた方が面白みが増すんじゃないかと思いました。

画像13

――三田という場所で先生をしていた。その切り口によって先生の教え子や付き合いといったつながりが見えてくるんですね。

佐藤:それぞれの作品の中にも、交流がある人には匂いみたいなのが感じられます。例えば折口は非常に濃厚な気がします。ただ作品があって読者がいるのではなくて、学生との空気感とか、そういうものも一緒に受け取って読んでもらえると、読者としてもいろんな繋がり方が読者としてもあるんだなって受け止めてもらえる。そうなるといいなという願望があります。

折口信夫a

村上:折口は学生と寝食を共にしたりとかしていますよね。折口の最後の弟子である岡野弘彦先生(歌人、國學院大学名誉教授)の『折口信夫の晩年』(佐藤担当)にも詳しいです。

佐藤『精選 折口信夫 Ⅵ アルバム』は、アルバムから生涯をたどることができるような構成になってるんだけど、國學院と慶應の先生で、歌の会をやり、学生と合宿みたいなものをする。色んな遊びをその時々に行って、学生たちと一緒に遊んでいる写真も何枚かありますが、みんな笑顔で楽しんでいる。折口先生の難しい論文には直接的に表れていないけど、エッセイになると何とも言えない暖かさっていうのが伝わってくるんです。

KUP立ち読み三田の文人_書籍01n

私は国文学専攻だったから、2年生になって最初の国文学の専門の講義で折口信夫の「まれびと論」を読めと言われて、読みましたが、何が書いてあるのかまるっきりわからなかった。それまで読んできた日本語とは別次元で、本当にショックでした。「精選折口」の編集過程でも、読むたびに難しいと思ったのですが、岡野先生の『折口信夫の晩年』というエッセイを読んだら、折口先生の印象が変わった。同じ難しさでも折口先生の人となりを知った後では難しさのヒダの感触が分かるような気がし始めました。

KUP立ち読み三田の文人_書籍02n

中島:井筒俊彦も『意識と本質』から読むと大体みんな挫折するんだけど、もうちょっと周りのエッセイとか講演録をまとめたような作品から読めば、なんとか入り込めるんですよね。入り口を間違えると一生読まなくなる。ちょっとした違いで不幸せな出会い方になってしまうんです。

井筒俊彦a

KUP立ち読み三田の文人_書籍03n

選書で気づく文人の意外な一面

――このサイトには「先生と文学」「先生と詩歌」「先生と批評」という三つのサブテーマがありますが、どのように決めたのですか。

中島:三人でまず持ち寄ったんですけど、村上案が一番記憶に残っていて、キーワードの意味で、ユーモアとか江戸趣味とかグルメとか宗教とか旅とか、今より方向性が違う感じでそこに本をぶら下げていったら面白いんじゃないかって言う話をしていました。佐藤案は最初期は慶應義塾大学教授をまず置いて、その中で詩人、歌人、作家、評論家、そういう系統の人たちを入れていた。

村上:色々あったのですが、今後新刊が出たときに追加していくことも考えて、一番シンプルで作りやすい中島案になりました。

中島:最初は「先生と小説」にしていたんですけど、文学って小説だけじゃない。「先生と文学」というふうに、小説以外の文学作品を今後サイトに追加することを考えて少し膨らみを持たせて、「先生と詩歌」「先生と批評」っていう置き方を最終的にしました。

「○○歳で先生だった」っていう案も途中で出ました。若い時に先生になったタイプの人と、晩年になって教えることになった人という分け方です。色々話し合って、削ぎ落としてなるべくベースはシンプルにしようということで、こうなりましたっていうところなんですけど、もしかすると村上さんのキーワードで分類する切り口みたいなことになってた可能性もありました。グルメの人たち、とか。小説家でもグルメで有名な方ってたくさんいますもんね。この中だと誰でしょうね。

村上:私の妄想では久保田万太郎ですね。湯豆腐のイメージです(笑)。そういえば、持田叔子先生(近代文学研究者、作家)の『荷風へ、ようこそ』の中でも美味しいものが出てきますね。紅茶とかショコラとか。

KUP立ち読み三田の文人_書籍04n

――サブテーマの中の書目の分け方で気を付けたことは何ですか。

中島:一番重視したのは、永井荷風は全部「先生と文学」みたいに人ごとに考えるのではなくて、作品ごとに分けて考えるというところですね。

佐藤:折口先生は文学といえば文学だけど、詩歌もある。西脇先生は批評でもあるけど、詩歌がメインでノーベル文学賞の候補にもなった。やっぱり詩歌が文学の本当の中心なのかなと、私は思います。今は読者が一番読むのは小説かもしれないけど、小説は新しいスタイルのものなので、未来永劫小説が最も読者に読まれるスタイルなのか、まだわからない。海外では詩歌を朗読して楽しむのは、非常に広範囲に行われていますね。

村上:三田の文人という意味では、詩や歌に比重を置いているなという印象があります。

――選書する中で難しかったことはありますか。

中島:まず37点を選んだところから、意外と文学・詩歌・批評で分けるのが難しかった。どこまで文学で、どこから批評なのかというのが、どっちのニュアンスも持ってるものもあるし。最終的に佐藤さんは読後感みたいなところも大切にしたんですか。

佐藤:テーマは三つに分けてあるけれども、関所があるほど厳密なものではないから。でも三つに分けていくことで、読者がまず自分は批評に関心があるとなれば、「先生と批評」に何があるんだろうなととりあえず覗けるような見出しがあるのはとてもいいことだと思う。

この分け方で画期的なのは、「先生と詩歌」に『井筒俊彦全集 第一巻』が入っていること。最初の一編は二十歳のときに書いた詩です。若松英輔さん(批評家、詩人、『井筒俊彦全集』編集担当、2013~2015年「三田文学」編集長)もおっしゃっているんだけど、先生の本質は詩人だと思うんです。詩人からスタートして文学の方に行き、哲学の方に行き、宗教の方へと、広大な領野に行った。「意識と本質」でも芭蕉が出てきたり、詩に通ずるものがたくさん引用されている。「意識と本質」を詩歌に入れるわけにはいかないけれど、「井筒俊彦全集 第一巻」が詩歌に入っていることは我々の主張としては三つに分けた中で意味があると思っています。

KUP立ち読み三田の文人_書籍05n

中島:以前、渋谷のMARUZEN&ジュンク堂書店でずっと井筒俊彦の棚を作ってもらったんです。定期的に選書を切り替えて維持してきたんですけど、ロシア文学の特集が一番反響が大きかったんですよ。井筒っていうとコーランとかイスラムだったり言語学者だったり、それぞれイメージがあると思うんですけど、ロシア文学という切り口が新鮮だったみたいで、ダントツでフェアの小冊子も持って行かれましたし、よく売れた。ちょっと切り口というか見せ方を変えるだけで、一気に新鮮になる。それってとても面白いことなんじゃないかと思います。

…後編へつづく

***

後編では、人物相関図で見えた意外な発見や、これからの文学ジャンルの本について意気込みを語ります。

#慶應義塾大学出版会 #座談会 #テーマで読む #文人 #三田









この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?