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【試し読み】激動する国際政治の構図を理解するには?『入門講義 戦後国際政治史』

第二次世界大戦の終結から80年近くが経過しますが、現在も国際情勢は激動の一途をたどっています。

昨今ではウクライナ情勢をめぐる緊迫した駆け引きが行われていますが(2022年2月時点)、こうした事例を考えるにあたっても、主要国の外交や地域政治の構図とその変化を把握していないと、できごとの要因にたどり着くのは困難です。

『入門講義 戦後国際政治史』(2022年2月下旬発売予定)は、第二次世界大戦後から現在までの国際政治史の流れを大きくつかみたいと考える一般読者や初学者にむけて作られました。

戦後国際政治史の大きな変化を捉え、その構造とプロセス、文脈を理解するため、さまざまな工夫を凝らした構成となっています。特に、日本外交の流れを独立した節として読むことができるのが類書にない特長のひとつです。

このnoteでは本書の「はじめに」を公開します。本書の問題意識からはじまり、特徴と使い方について詳しく説明していますので、ぜひご覧ください。

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編者紹介

森 聡(もり さとる/Satoru MORI) 担当:アメリカ
法政大学法学部教授。1972年生まれ、京都大学大学院法学研究科修士課程修了、米コロンビア大学ロースクール修了、東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。博士(法学)。1996~2001まで外務省。専門分野:アメリカ外交史、現代国際政治。主要著作:主要著作:『ヴェトナム戦争と同盟外交―英仏の外交とアメリカの選択:1964-1968年』(東京大学出版会、2009年、アメリカ学会清水博賞受賞)、『アフターコロナ時代の米中関係と世界秩序』(共編、東京大学出版会、2020年)、Ironclad: Forging a New Future for America's Alliances (共著、the Center for Strategic and International Studies, 2019)など。
福田 円(ふくだ まどか/Madoka FUKUDA) 担当:アジア
法政大学法学部教授。1980年生まれ、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程単位取得退学。博士(政策・メディア)。専門分野:東アジア国際政治、現代中国・台湾論。主要著作:『中国外交と台湾―「一つの中国」原則の起源』(慶應義塾大学出版会、2013年、アジア・太平洋賞特別賞)、Taiwan's Political Re-Alignment and Diplomatic Challenges (共著、 Palgrave Macmillan, 2019)など。

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はじめに

 本書は、第二次世界大戦後から最近に至る国際政治史の流れを大きくつかみたいという一般読者や初学者のための入門書である。

 第二次世界大戦の終結からまもなく80年が経とうとしているが、この間に「戦後世界」はめまぐるしく変化してきた。第二次世界大戦後には、当初戦勝国の協調を前提とした国際連合の下で一つの世界がめざされた。しかし、まもなくアメリカとソ連という2つの超大国は対立しあうようになった。アメリカを頂点とする西側陣営とソ連を頂点とする東側陣営という2つの世界が出現し、軍事力・経済力・イデオロギーをめぐるグローバルな勢力争いである冷戦が、その後40年あまりにわたって東西陣営間で繰り広げられることとなった。1960年代半ばから70年代末にかけて一時的に緊張緩和をみたものの、冷戦下の国際政治は、第三世界をも舞台として、ときに核戦争の危機もはらむ緊張に満ちたものとなった。同時に、二極構造で始まった冷戦下の世界は、東西陣営の内部でアメリカとソ連の地位が相対的に低下していったことで、多極的な様相を帯びていった。
 やがて1980年代末に冷戦が終結を迎えると、アメリカを頂点とする単極構造の世界が出現し、ヒト・モノ・カネ・情報が世界を行きかうグローバル化が進展した。さまざまな分断を抱えた世界は、自由主義的民主主義や法の支配という共通の価値のもとにやがてひとつの世界に統合されてゆくであろうという希望すら語られるようになった。しかし実際には、冷戦後の世界では多くの民族問題が噴出した。アメリカが主導するグローバルな秩序への批判や反発は、さまざまな場所で、さまざまな形を取りながら、強まっていた。2001年のアメリカ同時多発テロ事件をきっかけに、アメリカがアフガニスタンとイラクで戦争を始め、それが行き詰まってくると、アメリカの指導力にかげりがみえ始めた。2008年のグローバル金融危機をきっかけに、「一強」といわれたアメリカが主導する国際秩序の揺らぎがますます鮮明になり、アメリカと中国・ロシアとの対立が深まるなかで、世界は多極的な構造に移行し始めている。国際秩序は流動化し、コロナ禍の襲来によってその先行きは不透明さを増している。

 今日の国際政治がいかに作られてきたかを理解するためには、こうした戦後国際政治の大きな変化を捉えて、その構造とプロセス、そしてなにより文脈を把握することが大切であり、そこに国際政治史を学ぶ意義があるといえよう。もちろん、世界のあらゆる出来事やその詳細を網羅することはできないが、注目する主体、時期区分、地域などから切り口を作って焦点を当てる対象を限定すれば、戦後国際政治の大きな流れがより理解しやすくなる。そして、現代の国際社会で起きているさまざまな問題の起源や背景について考えをめぐらせることもできるだろう。

本書の特徴と使い方

 このような問題意識から編まれた本書が、どのような性格と特徴をもつ入門書であるのかを、以下で簡単に説明したい。

 まず本書は、主権国家間の関係に焦点を当てる。したがって、外交や危機、戦争など、国家間関係を中心に国際政治の流れを追う。国家内部の政治情勢や、政府内の政策上の路線対立なども必要に応じて取り上げた。アメリカやソ連(ロシア)、中国といった大国については、可能な範囲で、それぞれの国の指導者や政権が、どのような世界観の下で戦略を組み立てたり、外交を繰り広げたのかを解説するようにした。また、国によっては選挙や革命、クーデタなどの政変がどのようにその後の国際関係に影響したのかといったことにも触れている。他方で、企業やNGOなど主権国家以外の主体については、一部の国際テロ組織を除いて、本書では取り上げていない。多国籍企業やNGOの活動は重要だが、本書の主役ではないので、非国家主体による各種の越境的な活動の歴史に関心のある読者は、他の専門書などで必要な知識を補完していただきたい。

 時期区分についてもさまざまなものがありうるが、本書は次のような区分に応じて章立てを行った。第1章から第3章までは冷戦の時期を対象とし、第4章と第5章は冷戦が終結した後の時期を扱う。
 第1章は、第二次世界大戦終結から1960年代半ばまでの期間を取り上げる。この時期に米ソ対立が激化し、西側陣営と東側陣営が形成され、各地で危機が頻発した。各陣営の内部では統合が進んだり、亀裂が生まれたりする時期でもあった。
 第2章は、1960年代半ばから1979年までの期間を扱う。いわゆる緊張緩和(デタント)と呼ばれたこの時期は、米ソの軍備管理交渉が進展したが、第三世界での米ソ間の競争は続いた。デタントは1970年代半ば以降破綻していくが、その後の米ソ対立の再燃を決定的にする1979年12月のソ連によるアフガニスタン侵攻までを区切りとした。
 第3章は、1980年代の「新冷戦」下の国際政治を取り上げる。この時期には、米ソが再び対立を深めて一時軍拡競争に走るが、1980年代半ばから関係を改善し、冷戦の終結へと向かう。この間、ヨーロッパでは東欧革命やドイツ統一といった劇的な変化が訪れ、アジアでは地域経済協力や民主化が部分的に進展したが、中東ではイラン・イラク戦争やレバノン内戦などの紛争にさいなまれた。
 第4章は、冷戦終結から2008年までの期間を扱う。冷戦が終わり、ソ連と東側陣営が解体したことによって、グローバル化が世界規模で進展する時代が到来するが、地域紛争や大規模人権侵害、条約に反した核開発、そしてテロリズムなどが問題となった。「一強」と言われたアメリカは、アフガニスタンとイラクでの戦争に足を取られる一方、中国が台頭し、ロシアはNATOの東方拡大やアメリカの単独行動主義、カラー革命などに不満と不安を募らせていくことになる。
 第5章は、2008年以降の時期を取り上げる。この時期には、アメリカが長引く2つの戦争とグローバル金融・経済危機によって疲弊するなかで、それまでの国際秩序が動揺する動きが鮮明になっていった。ヨーロッパはユーロ危機や難民流入、イギリスのEU離脱、ウクライナ危機などに見舞われ、中東では「アラブの春」が起き、アジアでは中国が活発に影響力を拡大するなどした。そして2020年に新型コロナウイルス感染症が世界を席巻し、こうした国際秩序の動揺はいっそう加速した。

 ところで、戦後国際政治史が語られる際には、特定の主要な出来事に焦点が当てられるので、ある時期に取り上げられた国や地域が、次の時期では取り上げられず、さらにその次の時期で再び取り上げられるといったことが起きる結果、空白がどうしても生まれてしまう。本書は、主要な国・地域について、できるだけこうした空白が減るように、国や地域ごとに節を設けて、それぞれの地域における国際政治の連続と変化をできるだけ縦断的にたどれるようにした。そのため各章の第1節はアメリカとソ連(第1・2・3章)、もしくはアメリカ(第4・5章)、第2節はヨーロッパ(第1・2・3章)、もしくはヨーロッパとロシア(第4・5章)、第3節は中東、第4節はアジア、第5節は日本、という構成としている。アフリカ地域と中南米地域については、これらの地域と関係する出来事を、該当の箇所で可能な範囲で取り上げた。他方で、日本に焦点を当てる節を設け、激動する国際情勢に日本がどのように向き合ったかをたどれるようにした。
 このような構成としたので、特定の国・地域の国際政治の流れをおさえたい読者や特定の国際問題の背景を理解したい読者には、各節を縦に読んでいただくと理解が深まるはずである。また、ある節で取り上げられている出来事の背景や詳細が、他の節でも書かれている事項については、カッコ内に参照先の節と項目番号を記載したので、参照していただきたい。各時代の大きな出来事は、複数の節で言及されているが、それぞれの節の視点から同じ出来事を捉えているので、地域によって同じ出来事が異なる意味をもっていたことも理解していただけるだろう。
 なお、各章と各節の冒頭に、該当する時期の概要と、大きなテーマについて考えるための「問い」を設けた。特定の問題意識を持って歴史の流れを追いたい読者は、これらの「問い」を意識しながら読み進めていただきたい。そこで頭をよぎる自分なりの「問い」が出てくれば、それを書きとめて、改めて読み直すと新たな発見があるかもしれない。その答えが本書で見つからない場合には、末尾の参考文献リストを参照して、専門書を手に取れば、新たな地平が開けてくるはずだ。
 以上のような本書の仕掛けを活用すれば、たとえば、冷戦期に米ソ関係が各地域にいかなる影響を及ぼし、逆に各地域の国際関係が米ソ関係にいかなる影響をもたらしていたか、あるいは、冷戦終結後の世界で、ある地域での出来事がアメリカを媒介して他の地域にどのような作用を及ぼしていたのか、などといったさまざまな問いに考えをめぐらせて、現代の国際政治がどのようにして作られてきたかを理解できるはずである。

 本書が、一人でも多くの読者に戦後国際政治史に関する理解と興味を深めていただけるきっかけとなれば、執筆者陣としては望外の喜びである。

編者

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