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在宅の困難事例には、解決しやすいものと解決しにくいものがあるという話

先日、とあるベテランのケアマネジャーさんと話をしていて、「困難事例と呼ばれるくくりのなかでも解決しやすいものと解決しにくいものがありますよね〜」という話になりました。事例検討会と呼ばれるものは各地で開催されていますが、言語化がまだまだな分野だと思いますので、最近スタッフとも整理した内容を含めて共有したいと思います。

そもそも、ここでいう困難事例とは、「本人・病気・家族・環境要因で問題・課題の複雑度が高い患者さんのケース」を指していて、在宅医療・介護の分野ではよく使われているフレーズです。困難事例なんて存在しない!という主張をされる他職種の方もおられますが、あくまでシンプルな医療・介護のサービスを提供するのみで落ち着く事例とは異なる、という意味で、困難事例というフレーズを私は使うことを好みますので、ご容赦ください。ただ、困難事例と言ってそのまま思考停止にして問題自体を考えないことはよくないので(しばしば起きる事柄なので・・・大変ですね〜と言って考えきれないから別のわかりやすい仕事に着手してしまってしばらく期間をあけてしまうという・・・)、困難事例というタグをつけた上で、思考・探索を進めていく姿勢を前提としたいと思います。

では、困難事例で解決しやすいものについて、先に例示していきます。困難事例というからには、決してシンプルな状況ではないのですが、こちらについては、サービスの組み立て方や制度の使い方、今後の展望が比較的パターン化しやすい状況のように思います。例えば・・・

・身寄りがない、もしくは親戚が遠方である独居高齢者の支え方

・比較的こだわりや自身ペースのある老老介護の支え方

・金銭面が苦しくなっている認知症独居高齢者の支え方

・家族が一定の受け止めをしているが病院ではスムーズに緩和ケアのコーディネートをされていない癌末期の在宅看取り事例

などがそれにあたると考えています。身寄りがない場合は、後見人制度を念頭にマネジメントしていきますし、老老夫婦のこだわりであれば、歴史を紐解くことで解決の糸口を見つけていきます。こういった事例で、もし通り一辺倒なケアのアイデアを提示したり、介護サービスを提示するだけのマネジメントだけをしてしまう専門職の場合だと「難しい・・・」と感じると思いますが、後見人という制度の理解と進め方や、老老夫婦のこだわりの紐解き方が念頭にありながら在宅医療介護サービスを入れていく分には、比較的ワークしていくように思います。また、金銭面が苦しくなっている場合は、一定本人の金銭への価値観もありますが、最終的には生活保護も視野にマネジメントしていく手段を考えます。癌末期の在宅看取り事例についてはもちろん難しさはどれもありますが、家族が一定の受け止め・覚悟がある事例の場合、看取りの作法・流れを伝えて伴走すれば一定在宅看取りは完遂できます(在宅のお看取りには一定作法がありますが、これはまたの機会に)。

では、今度は困難事例で解決しにくいものを見ていきましょう。

・複数の家族の考え・思惑が異なっているケース

・多職種の間の考え・方針がずれているケース

・本人のこだわりが強すぎるケース(生活保護には落ちたくない、サービス拒否の度合いが非常に高い など)

例えば、複数の家族の思惑が異なっていると、ある日どんでん返しのような方針を言ってくる別の家族があらわれたりします。長男・次男・長女でそれぞれ思っていることが異なり、目線合わせもできていないケースなどは、関わる職種が困惑するような事態になりやすいです。こういった場合、その前から違和感があったり、ちょっとした言動の歯切れの悪さや、あれ?と思う瞬間があるので、それをもとに早めに情報を集めるのが賢明と思っています。ただし、集める情報もあまりに多いので、情報過多になりやすい印象です。(傾向として、富裕層だったり、遺産相続がらみが背景にあることもあったりする、という話が情報交換をさせてもらった他の職種からも聞かれました。)

多職種の間の考え・方針がずれているケースは、例えば、ある職種は在宅困難と考えて施設を推し進めるのが筋だとし、もう一方の職種は本人が望むように自宅にギリギリまでいさせた方が良い、と考えるという状況がわかりやすいかと思います。いわゆる信念対立が起きている状況ですが、お互いに持っている情報が異なったり、大事にしたい方針が異なりますので、なかなか話し合いを促すのにも苦労します。こういった状況が時々起きていることを考えると、そもそも事前に価値観のあうチームを集めて在宅患者さんに取り組むのがよいかなと思います。シンプルなケースではそれほど顕在化しませんが、複雑性の増す事例には、多職種の間でズレがあると非常に厳しい舵取りを強いられる印象です。

また、本人のこだわりが強すぎるケースも許容できる範囲であればいいのですが、金銭関係だったり、必要なサービスが拒否されすぎて命の危険まで出てくると大変になります。どのレベルまで本人のこだわりを大切にして、公的サービスとして支えるか?は、しっかり話し合っていかないと難しい場合が多いです。

まとめますと、困難事例で解決しやすいものについては、シンプルなサービス提案の域を越えたケアマネジメントが必要ではあるものの、まだ試行錯誤でなんとかできるイメージがあります。困難事例で解決しにくいものは、もちろん試行錯誤でどうにもならないでもないのですが、さまざまな人の思惑や信念対立が間にあるため、それを調整・交渉していくことに骨が折れる、という意味では、やっぱり難易度が高いのかな・・・と思います。

同じ困難事例という表現でも、解決しやすいものかしにくいものか?

日頃から在宅医療・介護に携わっている方は是非考えてみてください。




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