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童話「約束」〜将来大人になるあなたへ

6 あとがき

 いろいろ不思議な話をあなたにした分けですが、この間息子が彼の今住んでいる家からひょっこり現れて、手土産みたいな物を置いていったそうです。

 母は今年九十六歳になるんですが、頂いた物は一度仏壇に供えたりします。もう一つの物は私の姉(彼の伯母)宛てでした。それは自分がこの家で十年住んでいたこと、その時に世話になった人へのお礼の印ということでした。何だか水臭い話と思う程ですが、これは彼にとってみれば一つのけじめというか、区切りなのだと思いました。ちょうど父の七回忌に彼を僕の今住んでいる家に呼んだのですが(離婚したので姓は母方に変わりました)、それから一緒に住んでいて、よく夏に長野や新潟へ旅行しキャンプをしたり、群馬から福島までの尾瀬を歩いたりしました。そんなことを思い出せば何だか溜息も出てしまうんですが、私の母に「あれは(最初は戻って来るかも知れないと思っていたのが)やっぱり決心して、ほんまに出て行ったわ」と言ったのが、ちょっと効き目が有り過ぎたのか、翌日になってさめざめと涙を流していました。歳も歳なので少し心細くなったのだと思います。それで、もしそのまま彼が変わらないままだったら、それも困るやろうと言って少しは慰めてやりました。ただ僕は今は夜勤の仕事を続けていて(まもなく仕事が変わります)、その時には以前は二階にいた息子も、今は僕もいないので、母一人になっているという寂しさや心細さは確かにあるはずです。 僕が以前彼にカンボジアで勇気を出して話したことがあったということをあなたも覚えていると思いますが、今度は彼が勇気を出して、口にこそしませんでしたが、自分の決心を表したとのだと思います。だから痛いほど気持ちは伝わってきます。彼は最初から大卒で就職した訳では無く、もともとプー太郎というか、失業という言葉も知りません。ですから厳密に言えば潜在失業者すらないんですが、自称ゲーマーがどういう風に今の彼の血肉になっているのか想像すら出来ません。ただ以前は気を揉んでいたことが、今は一応「独立した」と思えることで何故か安心感すら覚えているのです。親の欲目というのではなくて、素直な感情です。私が父親に大学卒業するのに面倒を見てもらったのと同じように、僕も彼に同じことをしました。確かに彼の口に上る言葉は時々辛辣な言葉であったりしますが、心根は悪くないのは知っていますから、殆ど怒ったりすることはありませんでした。そして話を最初に戻せば、三匹のハツカネズミの話です。彼を入れて三人の生活が続きましたが、また僕と母の二人になってしまいました。そうなればどうしてもあと一人増えないと家族が三人になりません。変な言い方をすれば、これは遅かれ早かれ我が家での準備をせよとのお達しであるということです。心の準備だけではなく、例えば台所やその周囲を直すという修繕の必要もあるでしょうし、新たな段階に変わろうとする自分の人生を磨き直すという意味での勉強というか努力も必要でしょう。僕は三十三年間公務員の仕事をし終えて定年退職したわけですが、それから第二の人生があり、今度の仕事で退職後4つ目になりますが、いよいよ第三の人生を謳歌する時が来たのです。使命感のようなものもある程度実感しています。まだまだ死ぬわけにはいきませんからね。具体的なことをここで細かく書くわけにはいかないけど、もしそれが現実となった時にはちゃんと次の手紙で書きますからね。

 それから劇場でのテロなんていつ起こるか分からないなんていう話もしたと思いますが、実際に2016年前後はそういったテロが次々起こったのですよ。2015年11月にはパリで同時多発(サッカースタジアムや飲食店などで)テロが起きて130名もの人々が亡くなりました。翌年の3月にはベルギーの都市ブリュッセルの空港や地下鉄でテロが起きて32名の人々が犠牲になりました。7月には南仏のニースで花火を見学に来た観客のところに大型トラックが暴走し84名の人々が轢き殺されました。その翌年の2017年5月にはイギリスのマンチェンスターで自爆テロが起きて観客22名が犠牲になっています。あなたに僕はこんなことが実際に起きたらもう誰も逃げようとしても運がある人しか助からないみたいな話をしたと思います。これから日本ではいつ起きるか分からない大地震も起きると言われていますし、命が幾つあっても足りないのが現実でしょうか。

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