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「XX 審判」のカード~ENHYPENのMVに込められた希望・再生・復活の願い

BTSの「PERMISSION TO DANCE」では


THE BEGINNING OF ERA. GOOD BYE COVID-19
(新しい時代の始まり、さよならcovid-19)

PURPLE BALLOONS SIGNAL THE END OF COVID-19
(紫の風船はCOVID-19の終わりを知らせる)

と書かれた新聞が映し出され、MVでも全員がマスクを放り出して踊る姿や「希望」を表す紫の風船など、コロナ終息への願いが込められた作りとなっていた。

ENHYPENのBORDERシリーズでも同じように、コロナウィルスによるパンデミックが起こってしまった世界を何とか救おうとしている姿が描かれているのではないか、と考えている。

MVやその他コンテンツの中でも、「再生」や「希望」「復活」の意味を持つシンボルがたくさん使われているからだ。

今回(2021.09.07現在)、ENHYPENメンバーやスタッフの方のコロナ感染というニュースを受けて、彼らの「完全復活」「再生/新たなスタート」を願って、その世界観に込められた想いをまとめてみた。

もちろん、これは私個人の一考察にすぎませんが、彼らの回復を待ちながら、へぇ、そういう見方もあるんだなぁとMVを見直していただけるきっかけになったらとてもうれしく思います。


Given-Taken/アポロンの矢

Given-Takenはアポロンのシンボルであるハープ(竪琴)のイントロで始まる。
太陽神とされがちなアポロンだが、正確にいうと元々は「光明の神」。
また疾病を司る神でもあり、アポロンの矢は疾病をもたらすと共に、疾病を払う、病を癒すとも言われている。


Drunk-Dazed/死と再生の神ディオニュソス

ディオニュソスはギリシャ神話に出てくる豊穣と葡萄酒と酩酊の神。聖獣は死と再生の神とも言われる。
ディオニュソスの祭儀は激しい陶酔状態を伴うものであったそうで、Drunk-Dazedのパーティーに通じるものがある。
元々は、冬の間は枯れて死んでしまう植物が春の訪れと共に蘇生することへの歓びを祝い、葡萄酒を飲んでもたらされる陶酔や酩酊(Drunk-Dazed)によって魂を解放しようというような意味合いがあったそう。


Drunk-Dazed/ソヌの持つ赤い液体

ギリシャ神話で赤い飲み物といえば「ネクタール(nectar)」。
ネクタールは神々の飲み物で、生命の酒・不老不死の霊薬である薬酒・滋養のある飲み物とされ、ワインのように赤い液体と言われている。
英語では蜂蜜の元となる花の蜜をnectarという。これはギリシャ神話のネクタール(nektar:nek(死)+tar(打ち勝つ効能))が由来だそう。(※補足1)


Drunk-dazed/月と蟹座

十二星座のうちで唯一、を守護星に持つ蟹座
元々は「再生と復活」という意味を持っている。
下のnoteでは、Drunk-dazedのジェイクの印象的な振り付けについて、蟹座に関連づけて考察をした。
EN-CONNECTのchamber5のステージでも、背景中央あたりに蟹座が大きく映し出されていると教えていただいた。
DVDをお持ちの方はぜひ探してみてください。



FEVER/希望の星

FEVERのMVでは、アクセサリーやメイクのグリッターに星が使われている。
タロットの「」のカードは「希望」を表す。
古くから「星」は季節を知る手がかりとなったり、航海では方角を知る道標にもなるなど、世界各地で希望の象徴となっている。
またHYBE INSIGHTを紹介するWeverseマガジンでは、トロフィーウォールの展示の説明で以下のように書かれている。

これまでに彼らが成し遂げた成果が星だとしたら、その星たちが集まって作ったファンダム名は、それぞれの意味と物語を持った星座となる。そして星座が、何もわからない旅人に道を教えてくれる案内人であり同行者となるように、アーティストにとってファンは、予測できないこれからの旅路をともにしてくれる存在だというメッセージを伝える。


ENHYPENの世界観は一見ダークすぎるように見えるが、再生や新しい誕生、希望を表すシンボルがここには挙げきれないほどたくさん使われているのである。

他にも、日食や月食、海、オーロラ、骸骨、コウモリ、虹、きのこ、スイカ、オレンジ、蝶などは繰り返し使われているモチーフ。


「XX 審判」のカードは復活を表す

突然の公開でENGENEが騒然となったDrunk-Dazed(Summer edition "Destroyed World")。

この赤いランプは「北斗七星」にも見える。
北斗七星は古来より人の運命を司る星ともいわれるそう。

また、途中で反転して映し出される「XX」の文字。
これも「復活、再生」の意味と解釈できる。

タロットのXX(20番目)といえば、「審判」のカード。
意味は「再生、復活、覚醒」なのだ。

このカードは「最後の審判」を主題とし、ラッパを吹く大天使ミカエルと死者の蘇りが描かれている。(※補足2)

最後の審判とは、「世界の終末に神が降臨し、死者も生者も裁かれて、天国か地獄かに振り分けられる」というキリスト教の教義をいう。

実は「終末」というキーワードは繰り返しスポされてきた。

ジェイの誕生日Vlive。
パク・ジョンソンで3行詩というお題では何度も「終末」というワードが使われている。

Summer editionの公開を知らせるtweetには「ゾンビによる世界の終末」という意味の「ゾンビアポカリプス」というタグが。

EN'OCLOCKでも、モーツァルトのレクイエム「怒りの日」、ベートーヴェンの「第9」など終末最後の審判をテーマとしたBGMが使われている。


また、大天使ミカエルもMVやステージなどで登場している。
IntroやOutroに出てきたモン・サン・ミッシェルの尖塔の上に配置されているのもミカエルだそう。
ちなみに、「ミッシェル」とは「ミカエル」のフランス語読みで、モン・サン・ミッシェルとは「聖ミカエルの山」という意味になる。


ミカエルのシンボルといえば「天秤」。
天秤で魂の善悪を測り、天国行きか地獄行きかを決めるといわれている。ミカエルの右手側が善、左手側が悪を表す。

(『 最後の審判』/ロヒール・ファン・デル・ウェイデン画)

この天秤。
英語では「balance」という。
そう、K-POP界隈で流行りのあの「バランスゲーム」、オールナイトニッポンXでいえば「選んでどっちっち?」とは、「天秤ゲーム」という意味なのである。

EN'OCLOCK ep.12のバランスゲームでは、どちらかを選択するのではなく、左右を釣り合うようにするというルールであった。

ここで連呼されていた「マイケル・ジャクソン」。
実は「マイケル」は「ミカエル」の英語読みでもあるそう。

このゲームで最後の審判のミカエルの天秤を模していたとすると、気になるのは「善悪のバランスをとっている」ということ。
つまり終末の日のミカエルとは違って、善なのか悪なのか決めてしまわないということ。

これは、

人間には必ず悪(闇or影)の部分もある。

それも全て受け入れてうまくバランスをとっていこう=「Love myself」というHYBE哲学に通じるものを感じる。

またep.13で見られた姿。

誰かにとってアンラッキーなことでも、違う誰かにとってはラッキーかもしれない。
それをうまく交換したり、励ましたり、手を取り合ったり、無理しなくていいよと言ってあげたり…。

「運」を試す確率の旅の中で、アンラッキーをラッキーに変えていける力、ネガティブをポジティブに変えていける力を強く感じた。

誰かに与えられた(Given)運命を不運だと嘆くわけでも、罰だと受け入れるわけでもなく、その中から自らラッキーを掴み取り(Taken)、運命を切り開いていく力。

メンバーだけでなく、周りのスタッフさんもみんなそういうマインドなのではないかな、と。

カムバック前の大事な時期に、メンバーの大多数がコロナに感染するという最悪な状況でも、スタッフさんを含めてこのチームならきっと乗り越えてくれると思える、そんな神回であった。


さいごに

ENHYPENの世界観は、エッシャーの「天使と悪魔」の絵のように、白と黒どちらを地と見るかによって見えてくるものが変わるところがとてもおもしろい。(※補足3)

それはタロットとも似ている。
正位置でいい意味を持つカードでも、逆さまにすると悪い意味になってしまうこともある。

見る人によって意味がまるっきり変わってしまう世界。

あなたにとってENHYPENは、天使?それとも悪魔?

あなたにとってENHYPENは、ヒーロー?それともヴィラン? 

どう見えたとしても決して間違いではない。

ただ今回、彼らの完全復活を待つ間、願掛けと思って、MVやコンテンツの中の「再生、復活、希望」のシンボル探しをしてみませんか?


ここまでお読みいただき、どうもありがとうございます。


⚠ここからは補足説明になります(興味のある方のみご覧ください)⚠

〈※補足1〉
ソヌがやろうとしていることは錬金術と見ることもできる。
錬金術で作り出す「賢者の石」は命の水を生み出すことができ、飲んだ者の寿命を延ばすことができるといわれる。
賢者の石をつくるために必要な溶液を「王水」とよぶ。色は赤橙色で、錬金術を表す絵では「」として描かれる。
ハリーポッターの本はこれまでにも小道具で何度か登場している。

〈※補足2〉
タロット「審判」のカードに描かれている天使をガブリエルとする説もある。最後の審判の日にラッパを吹くのはガブリエルであるからだ。
ただこのタロットの絵に関していえば、髪に炎が描かれていることから、火を象徴するとされるとされるミカエルではないか?という説をここでは支持している(ガブリエルは水の象徴とのこと)。
〈※補足3〉
エッシャーはオランダの画家で、建築不可能な構造物や、無限を有限のなかに閉じ込めたもの、平面を次々と変化するパターンで埋め尽くしたもの、など非常に独創的な作品を作り上げた(Wikipediaより)。
ペンローズの階段を元に描かれたエッシャーの階段は、映画「インセプション」の夢の構造セットのモチーフとなっている。
I-landの建物の見取り図やMAMAのステージの階段などにもエッシャー、インセプションっぽさは伺われる。

ペンローズは「ブラックホールが形成されることは一般相対性理論の確固たる予言であることの発見」という研究により、2020年にノーベル物理学賞を受賞した数理物理学者であり、これまでの宇宙観を大きく変えた人物である。
彼はまた心や意識を量子力学から科学的に読み解こうともしており(数学的イデア)、HYBEの宇宙観や哲学に大いに影響を与えているのではないかと思われる。


⚠補足の補足⚠

なぜ私がギリシャ神話やタロット、錬金術などにこだわって考察をしているのか?
それはズバリ、すべてユング心理学に繋がるからです。

BTSは「ユング 心の地図」に基づいて「MAP OF THE SOUL」というアルバムを作成しました。

BTSの世界観だけではなく、HYBEの作り出す世界の根幹にはユング心理学の理論があると思うのです。

以下に、神話やタロットとユング心理学との関係をとてもわかりやすく書かれている本の一部を引用させていただきます。
HYBEの世界観において、なぜ思春期の理想と現実とのギャップに苦しむ様子が繰り返し描かれているのか、それもこちらを読んで、なるほどと腑に落ちました。

_______以下引用_____________

ユングは、集合的無意識の領域には、国や人種を超えて共通の神話を生み出すような普遍的モチーフが存在し、微妙に形を変えて古今東西の文化に出現すると考えた。それらのモチーフを「元型」と名づけたのである。

(中略)

元型は、人生の支えとなるような意味を帯びていると、ユングは言う。元型は生命の基盤であるからだ。こうした元型と適切な接触を果たすことによって、人は十全な自己実現を図ることができるのだ。

(中略)

ユングは、この「元型論」によって、それまでは原始的な迷信と受けとめられていた錬金術や占星術に新たな光を当て、再解釈を試みた。たとえば、銅や鉛などの卑金属から黄金を製造する錬金術の謎めいた過程は、現実の化学変化を示すばかりではなく、心の成長ないし変容のプロセスを象徴するものだと考えた。鉛から黄金への変化は、実は未熟な人間が成長してゆく過程なのである。

(中略)

このようにして錬金術や占星術は、人間の心の最深部で起こるドラマの象徴的な表現とみなされ、元型的なイメージの宝庫へと変化していった。神話、魔術、易、そしてタロットも同様である。そこにみられる膨大な事象と象徴は、ユング心理学によって現代的な意味を与えられ、新たな命を得たのである。

(中略)

「人はみな、一二~一五歳ごろに思春期という深遠な肉体的、感情的ステージを通り抜ける。だが、内面の主観的レベルでは、人生で何度もこの道を通る。そのたびに根本的に、幼く無邪気な視点を捨て、人生すべてを受け入れる覚悟を決めなくてはならない」
(引用元:『タロットの秘密』/鏡リュウジ)

最後までお読みいただき、どうもありがとうございました。

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