詰将棋メーカーコンテスト 「第一回四季杯」感想

詰将棋メーカーさんの短手数コンテスト「第一回四季杯」の感想です。
コンテスト自体は終了していますが、作意および作者のコメントは一切見られない状態なので、作者の意図を十分に汲んでいない感想である可能性ありますが、ご了承ください。

第1問 celafim様作

 作意手順(予想)
▲12飛 △同玉 ▲24桂 △同香 
▲23金 △11玉 ▲12飛 △21玉 ▲22飛成 まで9手詰

 作者のCelafim様は、と金一色のような難解作から簡素型まで様々なタイプの作品を投稿されているのですが、今作は縦4×横3マス内のコンパクトな配置で、解きやすい問題を出題してくれました。
 初手はほぼ2択で、金から捨ててしまうと5手目に打つ駒がなくなるので、飛車から捨てるのが正解、とわかります。金・飛車と持っていて、高い方から捨てていくのが主眼の1つだと思われます。
 非常に易しい問題であり、易しさを売りにしているのであればこれで文句はないのですが、自分は「解き手を惑わす」手を常に入れたいと考えてまして、以下の2点より、初手の飛車打ちが見えやすくなっているのが少し気になりました。

・持ち駒が飛車が2枚、金が1枚であり、複数持っている方を捨てやすい心理が働く。
・斜め駒がないと詰まないことが、5手目の時点で(つまり、5手の読みで)わかってしまう。

 上記を念頭に、自分なりの改変図を考えてみました(下図)。

改変図 7手詰

 この図であれば、飛車が1枚、金が2枚あるところから飛車を捨てる不利感があり、また、「金がないと詰まない」とわかるのは5手後ではなく7手後となっているので(5手後の時点では▲23金という手段がまだある)、ちょっぴり解きにくくなっていると思うのですが、どうでしょうか?

第2問 駒井めい様作

作意手順(予想)
▲12桂成 △同玉 ▲33角成 △13角
▲24桂 △同飛 ▲11金 まで7手詰

 ▲16香と△13玉の間に▲15角が入っており、いかにも開き王手が決め手になりそうな初型をしています。更に、双玉とあって、双方ともに技がかかりそうです。
 初手は第一感の▲12桂成が正解。△14玉と逃げるのは、▲33角成△25玉▲15金で作意より2手早く詰みます(後手の△26歩の配置はこの順を詰ますためでしょう)。
 よって、2手目は取る一手。3手目▲33角成の空き王手に、13の地点に合駒をするしかありませんが、まともな受けだと▲11金まで、桂馬が余ってしまいます。ここで、△13角!と双玉特有の逆王手が飛び出します。王手なので▲11金とするわけにはいかないですが、ここで角を取らずに▲24桂が好手。実戦でもたまに出る、「逆王手に対する合駒の王手」で、もちろん△同角とは取れません。やむを得ず6手目△同飛ですが、先手玉への王手が外れたので、悠々▲11金と打って詰みとなります。双玉特有のスリリングな展開が続く作品でした。
 ところで、作家視点だとどうしても気になるのが、△44銀の配置です。この駒は何のために配置されているのでしょうか?調べてみると、この駒がいない場合、4手目の△13角合に対し、▲同香成△同玉▲25桂!(下図)△同飛▲35角!とし、以下、どう応じても詰んでしまうのです。

△44銀無しの場合の余詰めの図

 この順はこの順で面白いですが、いずれにせよ余詰めは消さないといけないので、手順中の▲35角を消すために、△44銀を配置したのだと思います。ただ、それだと△34歩を配置した方が軽い感じはしますが…?

※追記。△34歩案については駒井めい様ご本人からコメントをいただきました。△34歩でなく△44銀とした理由は、
①△34歩だと、2手目△14玉の変化で、記事で紹介した▲33角成の他に、▲33角不成や▲42角成等もあり、スッキリせず、△44銀配置だと▲33角成に限定されるため。これについては、変化手順が非限定であっても、傷でも何でもないですが、解き手になるべきわかりやすくしてあげようとい優しさを感じます。
②△34歩を置いてしまうと、玉の逃げ場のうち34の地点に逃げる選択肢がなくなってしまう。実際には作意手順には34に逃げる余地はないのですが、「塞ぐ必要がない地点を塞ぐ」作品としては損だと思われます。

上記のように配置一つ見ても、こだわりがあって面白いです。追記終。


 余談ですが、この余詰めの図、仮にこの順を作意にした作品にしようとしても、△25同飛▲35角に、△同飛とすっきり取ってくれず、△24合とされると▲23金以下「変長(駒余り)」になりますので、この図のままではうまくいかなそうです…。と、話が横道に逸れ過ぎましたね。作品を解いた後は、駒の配置を見て、「何のために配置されてるんだろう」と考えると勉強になることが多いです。

第3問 keima82作

作意手順
▲13桂成 △同玉 ▲14歩 △同玉 
▲23銀不成 △同金 ▲15飛 △同玉 ▲25角成 まで9手詰

私の作品です。主張としては以下の通り。
・7色図式
・清涼詰
・全手捨て駒

ところで、〇〇図式って、持ち駒は含めないんでしたっけ?だとしたら、7色図式を満たさないことになります。自作についてはこのくらいで。

第4問 シナトラ様作


作意手順(予想)
▲65桂 △同馬 ▲73竜 △63角
▲54歩 △同馬 ▲52銀成 まで7手詰

 短手数のスペシャリスト(と、私が勝手に思っている)で、チェスのプロブレムでも活躍されているシナトラ様の作品。実は、本コンテストの5問中唯一私が不正解してしまった作品となります。
 初手は▲52銀成のような手は、詰将棋的には考えないですし、▲73竜は△同馬があるので、桂馬を打って馬をどかすことを考えます。すなわち、▲65桂か▲45桂の2択です。
 まずは▲65桂と打ってみましょう。△62玉は▲52銀成~▲93角、△63玉とするのも▲52銀不成△54玉▲63角と、少し不安感は漂いますがこれで詰んでいます(△66歩の配置はこのためでしょう)。よって、△65同馬とするしかありませんが、満を持して▲73竜とできます。合駒の一手ですが、駒を打つのは何を合駒しても▲54歩△同馬▲52銀成まで、駒余りの詰み。唯一、△63角の移動合だけが駒余りを防ぐ手で、これが正解となります。
 では、初手▲45桂の場合はどうでしょうか?△62玉や△63玉と逃げると、▲65桂の場合と全く同じ順で詰むので、やはり△同馬の一手です。3手目▲73竜も同様(下図)。 

初手▲45桂~▲73竜の図

 図から打って合駒するのはダメなので、△63角の移動合に、▲54歩~▲52銀成で詰み…!?あれ、詰んでしまいました。余詰め?
 もちろんそんなわけはありません。図から、△63馬!とする手があるのです。すると、不思議なことに▲54歩が打歩詰で打てなくなっているのです。仕方なく▲52銀成か▲52とくらいしかありませんが、これで詰んだら作品にならないですね(もちろん詰みません)。
 先ほどの初手▲65桂の場合は、馬が65の地点にいたので、63に移動することはできませんでしたが、初手▲45桂の場合は馬の移動が効いて逃れているのです。更に、初手▲45桂と指したとしても、その△63馬合に気づかないと、△63角以下詰みと誤認してしまうところが非常にうまく、まさにそれが私が引っ掛かった順なのでした。
 詰将棋において問題を解けないのは、「そもそも難しくて詰みまでたどり着けない」というのが圧倒的に多いと思いますが、私が本問で犯したミスは「解けたと確信したが間違っていた」というパターンで、こうした紛れが存在する問題はレアで、良問であることが多いと思います(このような紛れを「偽作意」と呼ぶことがあります)。しかも、本問の紛れは、初手の桂馬の打ち場所が違うだけで、2手目△62玉・63玉の場合の詰み筋や、3手目の先手の指し手、4手目の角の移動合や持ち駒を打った場合の詰み筋等は全て同じであり、紛れと作意が大きくシンクロしているのがわかるかと思います。
 恥ずかしながら不正解してしまいましたが、むしろ不正解したことによって、本問の面白さを存分に味わえたといえるかもしれません。

※追記。シナトラ様ご本人によると、「△63馬のような受けをセルフピン(self-pin)と呼んでいます。つまり本作は『セルフピン回避の限定打』がテーマ」とのこと。自ら馬が合い駒になることで金縛りに遭い(それによって打歩詰になる)、それを回避するための▲65桂の限定打というわけですね。

第5問 Spring様作

作意手順(予想)
▲46角成 △14玉 ▲15歩 △同銀
▲35馬引 △34銀 ▲26桂 △同銀 ▲24馬まで9手詰。

 Spring様は詰将棋メーカーの常連の方で、正統的な作品からマニアックなフェアリーまで幅広く作問されている方です。本作は今回のコンテストの「ラスボス」的位置づけであり、他の4問より圧倒的に難しいと思われます。私は正解こそしましたが、本問だけで5分以上費やしてしまいました。

 まずは初手ですが、▲51馬は△42歩でダメそうですし、▲33馬は取られても逃げられても詰まなそうです。▲36桂も、△同ととされてうまくいきません。▲26馬は、作品として出された場合は読む必要がない手ですが、実際△54竜と取られて、難解ながらも詰まなそうです。
 そこで、初手は▲46角成とします。これに対して、△23玉には▲22馬!△同銀▲24馬が気持ちよく決まります。▲46角成には△35歩合がややこしいのですが、▲同馬引△33玉▲34歩以下、どう応じてもこの後5手で(計9手)駒余りで詰みますし、他にもいくらでも詰みがありそうです。▲46角成に△35銀の移動合はいくらなんでもやりすぎで、▲同馬上△14玉▲15歩△同玉▲33馬まで駒余り7手で詰みです。解いている際は作意が9手詰ということもわからないので、この辺の変化はかなり難解なのですが、「いくらでも詰みがある」あるいは「駒が余って詰んだ」ということは「応手が間違っているのだろう」と推測することができます。
 そこで、2手目の正しい応手は△14玉となります。それに対して▲35馬引とするのは時期尚早で、△54竜と取られると15の地点が開いて詰みません。そこでいったん▲15歩△同銀を効かせてから、▲46馬と開きます(下図)。

5手目▲35馬まで。駒余りにならない受けは…?

 図から△23玉は、▲24馬△同銀▲同馬。△24合もやはり▲同馬△同銀▲同馬で駒余り(ちなみに、初手▲46角不成だと最後の▲24馬ができず不詰みになるので初手は成限定)。また、34の地点に合駒を打つのは▲13馬と、どう応じても駒余りになってしまうようですが、図から△34銀!の移動合が好手。25の地点が開いたため、▲13馬では詰みませんし、▲同飛も△同竜▲25銀で上手いかと思いきや、△同竜(下図)が逆王手で「ギャ!」となります。

失敗図

 したがって、7手目は取れる駒をどちらも取らない▲26桂(下図)が正解で、△23玉には▲34馬まで駒余りなので、△26同銀▲24馬までが正解となります。

7手目▲26桂馬まで。

 △34銀という意表を突く移動中合(厳密には竜の紐がついているので中合ではありませんが)、それから駒を取らず▲26桂の収束がきれいに決まり、序盤の変化の難解さもあって非常に解きごたえがある作品でした。

 1つだけ疑問があるのが、「△13歩は必要なのか?」という点。作意手順には関係しないので、余詰を防いでいるか、変同・変長等を防いでいるかのいずれかだとは思いますが、私にはわかりませんでした。更に、△13歩がいることによって、最終手で▲13馬△15玉▲24馬とする順が駒余りになってしまい、やや味が悪くなってしまいます。置かずに済むのなら置きたくはない駒ですが、どうでしょうか? 
※追記 ご本人からコメント頂き、やはり不要駒だったようです。

終わりに

 今回の詰将棋メーカーさんのコンテストは、27名の方が解答に参加されたそうです。しかし、個人的にはもっとたくさんの方に参加してほしかったなあと感じました。普段の作品も、閲覧数が50程度で回答数は20以下と、良サイトの割には、絶対的な参加者数が少ないといった印象です。私に関しては駄作を出したり、長期休養をしたりで偉そうなことは言えないですが、専門誌レベルの作品から初心者レベルまで様々な問題が投稿されているので、詰将棋メーカーをよく知らない、という方はぜひ始めて見てください。
 なお、今回はかなり気合入れて記事を書きましたが、次回のコンテスト時に同等の記事を書くか、放置状態になるかは未知数ですのであしからず…。
 


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