取る一手将棋を詰将棋に応用(2)

 前回の記事で、「取る一手将棋」という変則将棋を紹介しました。特に、終盤の手筋は通常の将棋とは感覚が大きく異なり、できれば詰将棋にも応用できないかと考えました。
 「取る一手」「詰将棋」というと、フェアリー詰将棋に詳しい方は、「強欲ルール」を思い浮かべると思います。しかし、「強欲ルール」だけでは、前回の記事で述べたような、駒を取らせている間に詰み形を構築するような手筋は表現しづらいのではないかと思いました(もしかしたら私が知らないだけで可能なのかもしれませんが・・・)。
 そこで、取る一手将棋の面白さを損なわずに、かつ、詰将棋のように正解を1つだけに絞れるようなゲーム(仮名:「取る一手詰将棋」)を考えてみました。
 偉そうに「考えてみました」と言いましたが、「取る一手将棋」を知る人なら簡単に思いつくものであるため、既にどなたかが考えられていてもおかしくありません。少し検索する限りでは、将棋でそういうWEBページは見つかりませんでしたが、書籍等では既にどなたかが書いている可能性もあります。更に、チェスプロブレムには’MustCapture’という用語があり、内容まではわからなかったのですが、もしかしたら本記事の内容と同一のルールかもしれません(詳しい方教えていただけるとありがたいです)。よって、オリジナルの案でない可能性は大なのですが、その場合は単に取る一手ルールの問題を何問か作ってみた、というだけの記事として読んでいただければ幸いです。

取る一手詰将棋(仮名)のルール

  1. 攻方・玉方ともに、取れる駒がある場合は、必ず取らなくてはいけない。但し、取る手が通常の将棋の反則手(王手放置・自爆手)に当たる場合を除く。

  2. 取れる駒が複数ある場合は、(反則でなければ)どれを取っても良い。

  3. 攻方は、①「王手」、または、②「玉方の手を、駒取りに限定する手」のいずれか(または両方)の連続で玉を詰める。②は王手でなくても良い。

※3に捕捉しますと、玉方は、王手をかけられた場合は、それを解除する手を指します。その際、駒を取って解除できるのであれば必ず駒を取らないといけません。駒取りで王手を解除する手がなければ、玉を逃げるか合駒をします。攻方の最終手は、必ず王手になります。王手が解除できなければ詰みになるのは、通常の詰将棋と同じです。
 「王手はかけられてはいないが取れる駒がある場合」は、(反則でない限り)必ず駒を取ります。

※変化や無駄合いに関する考え方は、通常の詰将棋と同じです。ただし、通常の詰将棋では無駄合いでも、本ルールでは無駄合いではないような手はあり得ます(次回述べます)。

 以上が、ひとまず考えてみた「取る一手詰将棋」のルールです。1と2は、前回述べた「取る一手将棋」のルールと全く変わりありません。一番重要なのは3で、王手または、「玉方の手を駒取りに限定する手」のいずれかが指せる、そして、後者の場合は王手である必要性はない、という部分です。どういうことか、例題を基に説明をさせていただきます。

例題1)

 図は取る一手詰将棋の例題(5手詰)です。ここでは答えから先にお見せしてしまいます。

例題1の作意手順
▲32歩(図1) △同玉 ▲21金 △同玉 ▲22金まで5手詰 

図1

 ▲22金で詰め上がっていることには異論はないと思いますが、問題は図1の▲32歩と、3手目の▲21金です。これらの手は王手になっていません。かなり違和感があるとは思いますが、この手は先述のルール3の「玉方の手を駒取りに限定する手」に該当します。
 どういうことかというと、図1の▲32歩と打たれた王方は、ルール1の「取れる駒がある場合は必ず取る」に従い、△32同玉と応じるよりありません。これが、「玉方の手を駒取りに限定する手」の意味です。3手目の▲31金も同様に、△同玉と応じるしかありません。よって、5手目以外に王手をかけていないにもかかわらず、玉方を限定手の連続に追い込み,即詰みに打ち取ることができるわけです。
 他の手も見てみましょう。問題図から、▲31金△同玉▲22歩(図2)とするのはどうでしょうか?

図2

 初手の▲31金は「王手」であり、かつ「駒取りに限定させる手」であるため、取る一手詰将棋の指し手として問題はありません。玉方も▲31金を取れるため、2手目も△同玉と応じるしかありません。
 問題は図2の▲22歩ですが、この手は明らかに「王手」ではありません。また、「駒取りに限定させる手」になっているかどうかですが、▲22歩には▲14桂の効きがあるため、ルール上△22玉とできません。ここで、ルール1の「但し、取る手が通常の将棋の反則手(王手放置・自爆手)に当たる場合を除く。」という部分が効いてきます。△22玉が通常の将棋の反則手であるため、玉方は取れる駒が1枚もなく、そのため、玉方の手は「駒取りに限定されている」状態とは言えません。したがって、▲22歩はルール3の①も②も満たしていないことになり、▲22歩という手は「取る一手詰将棋」の攻方の指し手とは認められません。

 それでは、初手から▲32金△同玉▲22金(図3)とするのはどうでしょうか?

図3

 この手は、明らかに「王手」であるため、ルール3を満たします。しかし、先ほどと同様に22の地点には紐がついているため、玉方は△22同玉と取る必要がありません(というより、取ってはいけません)。したがって、玉方は△43玉や△33玉等、好きなマスに逃げることができ、そのいずれの場合でも詰ますことはできません。
 図2は「取る一手詰将棋」のルールを満たさない手であり、図3はルールを満たすが詰まない手、と言えます。

 例題1は、単に玉を危険地帯におびき出すだけの、つまらない問題でした。今度はもう少し、取る一手将棋「らしい」問題を見ていきましょう。

例題2)

 例題2は、1,2筋に歩が効かないため、王手をするなら▲12金か▲21金ですが、いずれも取られた後が続きそうにありません。となると、「王手」以外の手、すなわち「玉方を駒取りに限定させる手」を指すことになりそうです。とは言え、▲13金は△同飛車(取る一手)▲同歩(取る一手)となった局面は、「王手」も「駒取りに限定させる手」もかかっていない状態なので、失敗です。困ったようですが、△33飛を逆用する手があります。

例題2の作意手順
▲34歩△同飛(図4)▲13歩「不成」△24飛▲12金 まで5手詰

 ▲34歩と、飛車の頭を叩くのが正解。王手でない事はもちろん、玉に直接作用していないので普通はあり得ないですが、「玉方を駒取りに限定させる手」であるため、指し手としては合法です。玉方は取る一手ルールにより△同飛と応じるしかありませんが、そこで図4。

図4

 図4は攻方の手番ですが、現状、▲24歩が浮いている事に注目してください。つまり、現状の局面で仮に攻方が1手パスすれば、玉方は△24飛とするよりないのです。ということは、今のうちに詰めろをかけてしまえば、玉方が歩を取ってる間に詰ますことができるのです。よって、3手目▲13歩「不成」で、玉方は「駒取りに限定」されて△24飛しかなく、▲12金を打つことができました。

 ここで、3手目は▲13歩「不成」としましたが、成ってはダメなのでしょうか?5図は▲13歩「成」に△24飛とした局面です。

図5

ここで、再度ルール1を見ていただきたいのですが、「攻方・玉方ともに、取れる駒がある場合は、必ず取らなくてはいけない。」となっております。取る一手の呪縛を受けるのは玉方だけでない、という事を忘れてはいけません。図5においてはルール上▲22と、とするよりなく、△同玉でも△同飛車でも全く詰みません。
 初手の▲34歩のように、浮き駒を取らせて手を稼ぐ手筋や、▲13歩不成のように、不成で相手の駒を取れないようにする手筋は、取る一手将棋においては頻出となっております。

詰将棋と呼べるの?

 2つの例題を通してご覧いただいた「取る一手詰将棋」ですが、違和感を感じた方も多いと思います。その違和感の元は、なんといっても、攻方に「王手でない手」を許容している点かと思います。
 (私の知る限りでは)「王手の連続で」という部分は、どんな複雑なフェアリー詰将棋においても、絶対的なルールであり、それを破っている「取る一手詰将棋」は「詰将棋」とは呼べないのではないか、といった疑問も当然あるとは思います。ただ、「駒取りに限定」というところで、「王手」と同等程度には双方の指し手を限定することができ、「余詰」「変化」「不詰」「手数」といった概念も、詰将棋と同等に考慮できる事から、フェアリー詰将棋を好む方々であれば、本作品も楽しめるのではないか、と思って書かせていただきました。
 「詰将棋」というネーミングがまずいのであれば、例えば「取る一手将棋問題」とでも呼称すれば良いのではないか、と思います。

次回予告

 次回はもう少しルールのおさらいや、通常の詰将棋ではありえない手筋なども見ていこうと思います。
 問題は、以下のものを使用するつもりです。次回投稿前に「解けた!」という方、ぜひDMやコメント下されば大変ありがたいです(ただし、ソフトチェックができないので問題が破綻している可能性もあります)。

問題1)

5手詰。テーマは「取れる駒が複数ある場合」。
※テーマ通りの局面になったら失敗です。

問題2)

21手詰。テーマは「強制成らせ」。

問題3)

7手詰。テーマは「紐付きは良くない」。

問題4)

7手詰。テーマは「第二のライン」。

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