見出し画像

エンジェルタイム ~君がくれた時間~

君が亡くなって二ヶ月が過ぎた。16年と11ヶ月、君と生きた日々がまるで夢のよう。時の流れは残酷だ。日を追うごとに君がこの世界に存在しないという事を思い知らされる。

いつか君の命に終わりが来ることをわかっているつもりでいたけれど、本当は何一つわかっていなかった。

君の居ない暮らしがこんなにも苦しくて寂しいだなんて想像すらしていなかった。本音を言うと考えたくなかったんだと思う。

君の肉球の匂いを嗅ぐのが好きだった。不安な時は君が眠る間にこっそりと君の肉球の匂いを嗅いで心を落ち着けた。

君を抱きしめた時に感じた温もりを頭の中で何度も再生するのに君の匂いの記憶が少しずつ朧げになっていくのを感じるのがどうしようもなく切ない。

けれど、今でも君の大きな愛に包まれているような不思議な感覚が続いている。それはまるでベランダに干したふかふかのお布団のような柔らかくて温かいもの。

家事をしている時、仕事をしている時、自転車に乗っている時、ふと頭をよぎるのは君と過ごした大切な時間。

君と一緒に居るだけで何もしていなくても、その時間が特別なものになる。それはきっと君が愛そのものだからなんだろう。そんなことにようやく気がついた。

一日に何度も君を胸に抱いて眠る感覚が蘇る。君の感触、君の鼓動、君の寝息、全てが鮮明に蘇る瞬間がある。

君が虹の橋を渡るひと月ほど前のことだった。君は突然、甘えん坊になった。

ママの胸の上で眠るジャスミン

君はもともとあまり抱っこが好きじゃなかった。ママはいつも君にベタベタとひっついていたけど、君は抱きしめられるよりも同じ部屋に居てお互い自由に動き回ることが出来る状態を好んだ。

そんな君が、いつも抱っこをせがむようになった。ママが君のすぐ隣で寝ていても君は抱っこをせがんだ。そんな君が愛おしくて愛おしくてたまらなかった。

君が歩くことが出来なくなったのは今年3月に入ってからだったね。君はとても悔しそうだった。何度も歩こうとして転んでしまい起き上がれなくなって横たわる君が本当に悔しそうで、胸が張り裂けそうだった。

寝たきりになった君はオムツでおしっこするのを嫌がったね。歩けないとわかっているのに、体を引きずるようにして移動してなんとかしておしっこシートの近くまで行こうとしていた。力尽きてラグの上でおしっこを漏らしてしまった君は罰が悪そうにしていたね。

虹の橋を渡る前日のジャスミン

「本当はちゃんと出来るのに…」

君がそう言っているような気がして心が痛かった。両手足の麻痺により自由を奪われた君の足にママは小さな鈴をつけた。それは君がまだ赤ちゃんだった頃に使っていたものだ。


寝たきりの君が少しでも足を動かすと鈴が鳴ってママが駆けつけられるように鈴をつけたんだったね。ママは仕事を辞め君の介護に専念する事にした。


君は容赦無く鈴を鳴らした。


「寝返りをうちたい」
「お水を飲ませて」
「うんちを取り出して」


様々な要求があった。君の介護に忙しく眠れない日々が続いた。けれど、君はママを信頼し切ってくれているように見えた。


「大丈夫、動けなくてもママがちゃんとお世話してくれる」


君がそう思ってくれているように見えた。ママはそれが本当に嬉しくて胸がいっぱいになった。


だって君が病気になる前のママは、君に助けてもらってばかりいたから。ママが泣くたびに君は走って来て、ママの涙をペロペロと舐めた。君はいつもママの心の支えだったね。

涙を拭うジャスミン救急隊

君の背中には

「わたしがママを守るんだ!」

そう書かれているような気がした。ママは君に甘えてばかりいたね。君が病気になってママは

「これまでの恩返しをしよう」

そう心に誓ったんだ。君を存分に甘えさせてあげたい、ママを頼って欲しい、そう思ったんだ。

【ジャスミンと過ごした大切な時間↑】


君はママの胸の上で寝るのが好きだった。ママの心臓の音を聞いていたのかな。とても安心しているように見えた。


君が安心しているとママは嬉しくなった。嬉しくて嬉しくて、その瞬間が永遠に続いて欲しくてポロポロと涙が出た。

ママは母親の愛情というものをよく知らずに育った。君はそれをよく知っていたね。だからママは自分に「母性」が備わっていないんじゃないかと不安になったことがある。けれど君の介護を通して自分には溢れんばかりの母性が備わっていたのだと気づくことが出来た。

君を愛することでママは救われたんだ。ママの心にぽっかりと空いた大きな穴は君を愛することで埋まっていったね。誰かを愛することがこんなにも素晴らしいことだなんて思いもしなかった。昔のママはいつも寂しくて誰かに愛されたいとばかり思っていたから。君は一生をかけてママに色んなことを教えてくれたね。

君は人間みたいに愛の出し惜しみをしない。いつも精一杯しっぽを振ってママに愛を伝えてくれた。ママが落ち込んでいたらそっとママに体をくっつけて来たよね。君は言葉が話せなくたっていつも行動で愛を示してくれた。


君は何年もの間、どんなママも愛してくれた。でも最後に「ママにどんな状態の君も愛させてくれる時間」をプレゼントしてくれたんだね。君がくれたエンジェルタイム、ママは一生忘れないよ。


Keilani

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?