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また一つ、田中圭の扉が開いた『リバーサルオーケストラ』

『リバーサルオーケストラ』

それは2023年の1月に幕を開けた。

このドラマは、時にハートフルで、時にかわいくて、時にカッコいい

架空の街、埼玉県西さいたま市でことはおこる。
「音楽」により市を盛り上げようとする市長・常葉修介(生瀬勝久)。
そして、訳あって辞めてしまった元天才バイオリニスト谷岡初音(門脇麦)。彼女は西さいたま市役所の広報課に勤務している。
そこで彼女は地元のオーケストラ『児玉交響楽団』、通称『玉響』と出会う。
一方、海外でマエストロとして活躍していた市長の息子、常葉朝陽も『玉響』を立派な楽団にさへるべく指揮をするよう立て直すよう、父に半ば無理矢理日本に連れ戻される。
そんな中、朝陽は天才バイオリニストだった谷岡初音を偶然見かけ、音楽の世界に再び引きこむ。
自由がまま、要はバラバラだった玉響。
だが、その音色を「悪くない」と評する朝陽と初音。
ここから朝陽の叱責、初音の参加と玉響の立て直しが始まる。
ポンコツオーケストラを一流の楽団にしていく、いわゆるサクセスストーリーでもある。

こんなお話の『リバーサルオーケストラ』だが、なんと言っても、田中圭が役を生きた常葉朝陽がとびぬけてカッコいい。

もちろんドラマ自体も素晴らしかったが、この常葉朝陽を生きた田中圭がいてこそ、と言っても過言ではないくらい田中圭にこれまでにない新鮮さを感じた方も多いのではないだろうか。

彼の役はマエストロ。要は指揮者。
このマエストロ、とにかく笑わない。
『冷徹、鉄仮面、ばーか』

と、門脇麦演じる谷岡初音に劇中で言われるほど。

このクールさを表すのに、マエストロとしている時は徹底してタートルを着ているところもいい。

なぜか。
それは、タートルを身にまとうことで、素肌を顔以外一切出さず、首まで隠したことで、何を考えているのかわからない、素顔を見せない、という働きにもとらえられるから。
もちろん、この姿一つとってもカッコいい材料にはなるのだが。

そしてこの前半から中盤にかけて、全く笑わないところに田中圭の新たな魅力が詰まっていた
なぜなら、これまで彼は比較的『かわいい』『ワンコ系』『愛されクズ』といった役が多かったから。この落差に御新規タナカー(彼を応援する人々の総称)さんは心射抜かれただろう。

元々彼を好きなタナカーは言わずもがなだ。

現に彼はこのドラマで新たなタナカーを獲得した。
それはXにも表れている。
なにしろこのドラマを機に新規にアカウントを作った方が多いのだから。
その中にはもちろん、過去の私のようにそれまでひっそり応援してた方もいるだろう。
だが、この常葉朝陽という役を生きた田中圭は、思い切ってXを始めよう!というところまで観ている者の心を動かし、沸き立たせた

それに、2024年の1月期にはTBSで日曜のあの21:00枠で西島秀俊主演のオーケストラものをする。

ドラマの企画がどの段階で決まるのかは知らないが、もしかしたらこの『リバーサルオーケストラ』が残した功績が影響されているかもしれないと考えると、タナカーでもある私自身もワクワクする。

もしそうであるなら、それだけ爪痕を残したのだから。
それだけ影響力があったのだから。

なにしろ相手は『VIVANT』でどれだけの投資をしたの?というくらいのあの枠だ。

実際、この『リバーサルオーケストラ』はドラマとしてもそれだけ説得力のあるドラマだった。

既にキャストとして紹介した主演の門脇麦、脇を固める田中圭、この2人が最強であり、生瀬勝久、平田満、原日出子といったベテラン勢から前野朋哉、瀧内公美、といった中堅所、更には坂東龍汰、恒松祐里といった若手に至るまで、みながみなそれぞれの持ち味をだしていた。

話の展開としては、ざっくりまとめると、各話でキャストそれぞれに焦点があてられ、その流れをもってポンコツ楽団がひとつになって行き素晴らしい楽団になっていくというもの。

こう書くと、ドラマとしてはありがちと思われる方もいるかもしれない。でもそれだけではもちろない。

なにしろ、X上に流れるアンケート『2010年以降の日テレ「水曜ドラマ」枠人気投票結果』で3割を超すブッチギリの1位街道を驀進したのだから。
それだけ今も尚、このドラマは支持されているのだから。

更には、久しぶり、そう、あの『のだめカンタービレ』以来のオーケストラに焦点をあて、見事にクラシックを身近にしたところにこのドラマとしての功績があった。

ただこのドラマ。
情報解禁の際にはこの『のだめカンタービレ』と比較するつぶやきも多かった。「千秋様を超えるものはない」とまで書かれた。

だが、もしかしたら、制作陣の中に『のだめカンタービレ』を観て育った方もいらしたかもしれない。
制作陣もこのドラマと比較されるのは想定内だったであろう。

脚本を担当したのは、『エール』、『彼女はキレイだった』、『最愛』と、朝ドラからサスペンスタッチのものまでこなす、そして私が大好きなドラマを書く清水友佳子氏だ。
ハズレないわけが無い。寧ろ大当たりだ。


ところで、実は私たちはクラシックを身近に聞いてきたはずだ。
そう、『聴く』ではなく、『聞く』で。
3分クッキングでは、20世紀初頭に活躍したドイツのオペレッタの作曲家レオン・イエッセルの管弦楽のための作品で『おもちゃの兵隊のマーチ』が、運動会では『クシコス・ポスト』『天国と地獄』などが使われていた。
私の中でも『月の光』は下校の音楽だ。だからこの曲を耳にすると帰りの時間だ!と思い出す。

作曲家にとっては、あ、この曲3分クッキングの曲ね、なんて思われていたら、3分クッキングなんてタイトルじゃない、おもちゃの兵隊マーチなんだから、と、そんなつもりではなかったのにと嘆くか、はたまた怒るか、時を経て未だに使われている、親しまれていることを嬉しく思うかこれ如何に?だが、本人に聞く術はもちろんない。

こうして実はころころ転がっていたクラシックだが、あえて聴く方は決して多くはなかったのではないか。
もちろん私の会社にもクラシック好きな女性も男性もいる。
だが、全人口的に見るとやはりクラシックというのは敷居が高く、あえて聴くという方は多くはないのではないか。

ところが、このドラマの登場で事態は一変した。
楽しそうに音を奏でる楽団に、そして演奏される曲目に、視聴者は親しみを覚えたはずだ。
時に、ホールで、時に、船内で
どんなところであっても、楽器さえあれば曲は奏でられる。
(実際は音の鳴るものであればなんでも、だが)
そして聴衆を楽しませることができる。
それは演奏者たちが楽しんで音を奏でているから。音楽を愛しているから。
そんな様がみてとれるドラマとして仕上がっていた。

時にそれは私たち視聴者をも巻き込んで。

というのも、全面バックアップの神奈川フィルのオーケストラコンサート、通称オケコンがあったから。
そこに門脇麦は初音としてバイオリンを、田中圭は朝陽としてマエストロを、楽団に混じってそれぞれバイオリン、指揮をこなす。
そしてこのオケコンに参加できた人々は実際一瞬だがドラマにも参加した。
『観客』として。
かく言う私もだ。

また、このオケコンに参加して新たな発見もあった。
それは「カスタネット」の存在だ。
そう、小学校の時に音楽の授業で使った青と赤の楽器。
手軽な楽器。
そう思っていた。このオケコンに参加するまでは。
ところが、余興として、カスタネット奏者が奏でる音を見本とし、会場にいる観客全員で真似して叩くところがあった。
「コン」「コン」「ココン」
といったイメージしかなかったカスタネット。
あなどるなかれ、カスタネット。
観客は観たこともない、聴いたこともないカスタネットの叩き方、音色に驚かされた。
プロが叩くカスタネット。それはもう小学校の授業どころのそれではなく、別の楽器なのでは?というほどカスタネットの概念を超えていた。

さらに後日、長丁場に渡るロケにエキストラとして参加された方々も多い。

本物のクラシックを実体験し、劇中で『観客』にもなった。

よりクラシックが身近になった。

物語へと話しを戻そう。
最初は門脇麦が生きた初音を始め、嫌われ者だった田中圭が生きる朝陽。
でも彼は常に冷静で、常に楽団のことを考えていた。

前述通り、父により海外から引き戻された朝陽にとっては不本意極まりないに違いない。
ただここで、小道具が朝陽を可愛くする。
例えばプリンの登場。
朝陽が小さい頃から好きだったというプリン。
それを石野真子扮する母が買ってきて、あの甘い温かい口調で朝陽に渡す。

こういったシーンをところどころにさしこむことで、朝陽がただの『冷徹、鉄仮面』ではないことを表現する。
生身の人間である、ということを。
観ている者にくすっとさせながら。

当然視聴者は思惑通り、「朝陽さま、可愛い」となる。
そして自然に朝陽の幼少期を思い浮かべたりもする。

こうして、段々と常葉朝陽という人格が円やかになり、愛されキャラにも変容していく

これは、田中圭という役者の役の生き方の素晴らしいところだ。
何もかもが自然で、何もかもが常葉朝陽なのだ。

なにしろ役を纏わないオフショになると、とたんに朝陽の『あ』の字もなく、そこには「朝陽っぽい格好をした『田中圭』」がいるだけなのだから。

こうして、『リバーサルオーケストラ』はクラシック音楽だけではなくそこで使われたサントラ(サントラ担当は清塚信也氏)は自然と視聴者に溶け込み、山野楽器銀座店においては初回入荷分が直ぐに売り切れとなる事態へと発展した。

ここまで書いてきて。

この『リバーサルオーケストラ』をまだ観ていない方はレンタル屋さんに走ってほしい。
既にご覧になった方は、この私の話をきっかけにまた観てもらえたら嬉しい。

それだけ、この朝陽を生きた田中圭は素晴らしかったから。
それだけ、このドラマは素晴らしかったから。

そして、クラシックという聞きつつも聴いてなかった新たなジャンルを私たちに開けてくれるから。
そしてなにより、新たな『田中圭』がみられるから。

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