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そのままのあなたでいい

「7,000個の即席麺…」
 酒井美穂子さんがやまなみ工房に入所したのは1997年の春。
 出会った時には既に手にしていた即席麺「サッポロ一番しょうゆ味」。
 美穂子さんは歩く時、食事中、時にはお風呂に入る時でさえ、どこに居ようと誰といようと深い眠りについた時以外、片時もサッポロ一番を離さない。
 母の話によると17歳の頃、彼女にとって辛い出来事があった時期、台所にあったサッポロ一番をふと持ち始めた。
 以来その即席麺は空腹を満たすためではなく、安心を与え、時に怒りの矛先となり彼女の心を受け止めた。
 一年に約350袋。
 「いつか自ら違う楽しみを見つけてほしい。そう願い寄り添って振り返れば20年…メーカーから感謝状が欲しいわ。」母の笑顔が眩しい。
 「サッポロ一番しょうゆ味。」
 無意識に形成された僕達の価値観や偏った常識に照らせばそれは食べるためだけのものかもしれない。
 美穂子さんは自分を語らない。
 でも僕達は彼女から大切な事を学ぶ。
 「あなたはありのままのあなたでいいんだよ。」
 「あなたの価値観に正直でいいんだよ。」と。
 美穂子さんとやまなみで迎えた18回目のお正月。
 美穂子さんが手にするサッポロ一番は、僕達みんなの宝物。
 美穂子さんの素直な表現は僕達みんなの誇り。
 ありのままの自分で存在できる安心と幸せを運んでくれる7,001個目のサッポロ一番。
 彼女が彼女らしく安心して歩ける道を、今日も優しいスタッフと共に歩みたい。
 2015年、やまなみ工房には8名の仲間が増え73名になる。
 ゆとりあには1名の仲間が増え41名になる。
 これからも一人一人が健康で自分らしく心豊かに笑顔で過ごせますように。
 本年も皆様のご支援ご協力を賜りますよう心よりお願い申し上げます。
やまなみ工房/ゆとりあ
施設長 山下完和

前の勤めていた時の課長が障がい者アートを語る人だった。
課長は共生社会の話をよく職員にしていた。
社会福祉協議会という名の職場にいたにもかかわらず、わたしは
あまり福祉に興味はなかった。
(子育て相談員で雇ってもらっていたので)

しかし、課長からやまなみ工房に通う酒井美穂子さんの話を
教えてもらった時、衝撃が走り、美穂子さんの即席めんが
展示されているというので、富山県の展覧会に同行させてもらった
ことがある。

美術館にはたくさんの即席めんの袋が壁いっぱいにきれいに
展示されており、一袋一袋に日付が記載されていた。

美穂子さんが毎日やまなみ工房に持ってくる即席めんに
スタッフの方が日付を付いていた。

即席めんをどう見るのかで価値が変わる。

即席めんが作品になるなんて、これまでの人生で
想像したことなんてなかった。

もしかしたら、それはただの即席めんで、美穂子さんのこだわり
という見方で終わっていたかもしれない。

即席めんは美穂子さんの作品であり、美穂子さんの生きている証。

美穂子さんの即席めんは「あたなはそのままでいいよ」という、
生き方を教えてくれているようだった。

わたしたちは教育されすぎてしまって、大事なものを
忘れてしまってはいないだろうか。

何か変えよう、変えようと急ぎ過ぎてはいないだろうか。

そのままのあなたでいい。
そのままのあなたがいい。



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