映画「山の郵便配達」2001年中国映画を観て
山あいの村々に徒歩(カチ)で郵便の配達と集荷を行う仕事を若いころから何十年も行ってきたある男が足を痛め退職することになった。息子は、いつも家にいない父とは心理的に疎遠であった。だが、公務員という地位に魅力を感じた息子は父の跡を継ぐことを決心し、初仕事に出かけようとした。そのとき、仕事の段取りは伝えてあったが、心配した父は同行すると言い、ぎくしゃくしたまま二人で出かけた。
険しい山道を登り下りながら一回の集配で三日かける。
この話は1980年頃の話であるが、旧い石畳を行くとやがて細い山道となり山村は美しく竹や木々が空高く伸びて、田んぼは段々で山に囲まれ、燃えあがる緑の中を無数の蝶が舞うという映像の美しさもこの映画の見どころのひとつだ。
美しい自然に囲まれながら二人と愛犬ジナンボウが一歩一歩踏みしめて歩いていく。郵便を待ちわびる村人たちに歓迎され、父と村人との心の交流を垣間見て息子は父を見直していく。ぽつぽつと話し始める父と息子。父は「決して愚痴は言わないこと、仕事なんだから」という。それは根性論ではなく、仕事への振る舞い方を教えると言った風であった。
そんな二人であったが、息子は父がこんな大変な仕事を何十年もしてきたことへ尊敬の念と労わりの気持ちが湧き、川を渡るときは郵便のリュックを先に対岸に運び、戻ってきて父を背負って川を渡った。その時、父は背負われた背中の上で泣いていた。そして、焚火にあたり服を乾かして出かけるときに「行こう、父さん」と息子は生まれて初めて父を「父さん」と呼んだのである。
息子が父を見直したように、父も息子を見直していた。そうして次第にいろいろな話をするようになり、お互いの違い、世代間の考え方の違いを浮かび上がらせる。息子は「バスが通っているのになぜ歩いて郵便配達をするの?」と聞くと、父は「郵便配達は歩いてするもんだ。一歩一歩自分の足で歩くんだ」と人生訓のようなことを言う。そのように噛み合わないことも含めて二人は饒舌になっていく。今度は息子が、家にいることになる父親に村との付き合い方を教える。
こうして息子は通過儀礼を通過して、一人前と認められ一人で郵便配達にでかける。
父は山の村人たちと会話をしながら別れ、「二度と会えないんだろうな」と言いながら感傷にふけるでもなく恬淡と歩を進める。その生き方に息子と同様私も感動した。