政治家の見送られ方

2月13日、ようやくイタリアに新政権が生まれました。大統領の委任を受けて、元欧州銀行のトップだったドラーギ氏が新首相となり組閣をしました。選挙を経ていないので政治的政権ではなく、技術屋政権とか専門家政権というような意味をもつ governo tecnico というタイプの政権です。日本にはないシステムだと思います。

パンデミック勃発でパニックに陥ったイタリアの舵取りを担ったコンテ首相は、新首相との交代の儀式(閣議招集を知らせるベルの移譲)の後、ひとまず政治の表舞台から退きました。
この動画は、その時の様子です。

建物の窓から職員が長く拍手をしています。正直、私はちょっと感動しました。とても真摯な拍手に見えたからです。

もともと政治家ではなく弁護士で大学教授(過去に行政司法局の副局長だったとはいえ)、2年半前にいきなり連合与党に担ぎ出され、神輿的に首相になったコンテ氏。就任した頃はテレビの前で、「だれ、これ?!」とつっこみましたもの。

ですので、このふってわいた首相が、完全なパニック状態になっていたコロナ第一波の最中、自己主義や個人主義の傾向が多分にあるイタリア国民に向けてテレビ会見を繰り返し、説得しつづけ、「みんなでいっしょにやるしかない」という一種の連帯感を、完全ではなくとも、構築しつつ全国ロックダウンを完遂させた、ということを、私は本当に評価しているのです。

イタリアに住んでいる立場から言わせていただきますと、コロナ禍第1波のあった昨年の3月から5月のイタリアにおいて、全国規模での厳しいロックダウン強行は不可避であったと思います。日本とは全く状況がちがいました。
参考までに数字を上げます。
2020年5月末までのイタリアにおけるコロナによる死者数合計は33,415人、日本は892人でした。イタリアの人口は日本のおよそ半分で、この時期の死者はイタリア北部に集中していましたので、日本に置き換えると関東圏だけで75,000人ほどが亡くなったような状況を想像していただければ良いかと思います。

もちろん采配ミスもあったでしょう。経済支援がなかなか現場に届かない、外出規制や営業規制が頻繁に変わりすぎる、国会を軽んじている等々、批判も多く出ました。でも批判するだけなら簡単。批判していた人は、果たして本当の解決策を持っていたのでしょうか?

連日の首相会見を、夫といっしょに固唾を飲んで見守っていた昨春。あの時期、イタリアに住む多くの人にとって、彼の会見だけが唯一の指針だったのではないかと思います。

だから、私も書いておこうと思います。
コンテ首相、ありがとう。ご苦労さまでした。

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