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日本のマウスピース矯正の実態

「日本矯正歯科学会の市民講座:透明なマウスピース矯正装置を用いた矯正治療の注意点」が上がっていた今日この頃です。

昨年からコロナ禍により歯科受診控えが叫ばれる中、矯正歯科においてはGoogle検索数やマーケット拡大により過去最高の伸びを示しています。
SNSを中心としたネット広告やTVCMまで、いろんなマウスピース矯正が乱立し、まさに「マウスピース矯正 戦国時代」といったところでしょうか。
患者ニーズが高まり、一般歯科クリニックにマウスピース矯正を導入される先生が増えてきました。

今回は、日本のマウスピース矯正の実態と、クリニックに安全に取り入れるために心がけるポイントをお伝えしたいと思います。


日本で使用されているマウスピース矯正は大きく2分されています
・日本の技工所で作成されるもの
・外資系企業により海外で作成されるもの


日本の技工所で作成されるもの

日本国内で作成されるものは技工士法が適応され、歯科医師の技工指示書のもと製造されます。
古くは石膏模型を切りアナログセットアップしてマウスピースを作成していた時代がありましたが、最近は口腔内スキャナーを用いてデジタルセットアップを行うものが増えています。
さらに、3Dプリンターを院内に導入しインハウスでマウスピースを作成するクリニックも台頭し、広くマウスピース矯正が普及していくと推察されます。

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“手軽にできるローコストなマウスピース矯正ってどうなの?”

インターネット上の広告では、「手軽にできる」「費用がかからない」などと謳い、マウスピース矯正の敷居がぐっと下がった印象です。
しかし、本当にそれは「ローコストな矯正治療」なのでしょうか?
① 運営している企業はどんな会社なのか?
② 歯を動かす技術、研究開発はどの程度なされてきたか
③ マウスピースの素材は矯正力に適したものなのか
広告サイトをたどっていくと運営企業や場合によってはどなたの歯科医師の監修かを見つけることができます。
その運営母体はITベンチャーや医療とは別分野の企業であることも多く、そもそも医療機器として当てはまるのか疑問視されています。歯科医師の介在していない商品もあり、また歯科医師が監修していたとしても、お一人や数人の知識レベル、少ない経験値に頼った装置はどうなのでしょうか?また、マウスピースの素材はただのプラスチックで良いのでしょうか? 歯を動かすために適切な力がかかり続け、なおかつ1~2週間口腔内に装着し続ける耐久性も必要です。
少ないマウスピース数で治療が終了すればコストも抑えられるかもしれません。しかし、1枚当たりのマウスピースの価格はどちらが安くなるか、果たして「本当のローコスト」なのか「それは医療、矯正治療なのか」疑問が残ります。
私たち専門家は患者さんに正しい知識を伝える責務もあるといえるでしょう

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・外資系企業により海外で作成されるもの

海外技工物は日本の技工士法に当てはまらないため、長年グレーゾーンとされていました。

しかし、マウスピース矯正の世界シェアNo1「インビザライン システム」は莫大な資本をかけて研究開発が行われ、歯が動くバイオメカニクスや矯正力学に適したアライナー素材など多くの技術が特許となっています。治療結果向上を目的にフィードバックされる1000万症例以上のビッグデータ、グローバルマーケットの需要にあわせた最先端の生産拠点に比べてどうしても日本の小さなカンパニーでは太刀打ちできないのが現状です。
適切な矯正力をかけるために数百ものマテリアルから開発されたマウスピース素材は、ただのプラスチックとは異なります。 

そして、海外を見渡すとさまざまな今までワイヤー+ブラケット矯正を中心にしていたメーカーもこぞって参入しているのが現状です。中国のあるメーカーはインビザラインに本当にそっくりなものもあって驚きます
後発企業の技術開発や価格競争が過激なってくると予測されますが、積み上げてきた症例ビッグデータの差は大きくインビザラインのシェアを大きく奪うのは難しいかもしれませんが、今後の新たな発見や発明、動向に期待したいと思います

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安全にマウスピース矯正をクリニック取り入れるために


大前提に、矯正治療の前の検査・診断を適切に行い治療計画を立案できる力があることが大切です。そのうえで患者さんに適した装置を選択するべきだと考えます。

装置が何であれ、歯並びを変えるということは患者さんの人生を左右することだと、私たち歯科医師は重く受け止めなければなりません。
公益社団法人日本矯正歯科学会のYouTube動画に槇先生のコメントがアップされていました
「矯正歯科治療は、正確な診断や精密な治療計画に立脚して行われるべき医療行為であり、誤ったマウスピース型製品の使用は予期せぬ大きな問題を引き起こす可能性があります」と注意を呼びかけています。


外科矯正の適応やリンガル矯正のニーズもありすべてをマウスピース矯正で行うことは難しいものもあります。ビギナーの先生におかれましては、マウスピースで治りやすい症例を線引きすることも時には大切です。どんなシミュレーションを作ったとしても治療がその通りになるかというとそうではありません
マウスピースだけで治療が完結することは少なく、ワイヤーやブラケットでリカバリーを行い、顎間ゴムや他の追加装置を使用しながらゴールへ向かうこともよくあります。

まとめ


マウスピースなら簡単そうだしという考えは非常に危険です。ワイヤーの歯の動きとは別のマウスピース特有の考え方が必要であり、治療のアプローチはドクターによって様々です。
時代の流れとともに医療技術が進歩していることもマウスピース矯正をスタートするには追い風です。
マウスピース矯正を正しく理解し、多くの患者さんの健康と笑顔がもたらされることを切に願います。


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