ウクライナのクリミア・タタール出身ピアニスト、Usein Bekirovの「Hands」
このマガジンでは、かつてアルメニア出身のピアニストTigran Hamasyanや、その隣国アゼルバイジャン出身のピアニストIsfar Sarabskiのアルバムを紹介したことがあるが、今回紹介するのは旧ソ連圏でも、そこからさらに西へ飛んだウクライナのクリミア・タタール出身のピアニストUsein Bekirov(Усеїн Бекіров)が、同じウクライナのドラマーMax Maiyshevと共同名義で出した「Hands」というアルバムだ。
クリミアといえば、2014年にロシアがウクライナから一方的に自国に編入して国際的な避難を浴びたことが記憶に蘇る。クリミア・タタールはウクライナ国内の少数民族のひとつだ。
Usein Bekirovは1982年にウズベキスタンのフェルガナで生まれ、8歳の時に家族でウクライナのクリミア自治共和国の首都シンフェロポリへ移住し、現在はキエフを中心に活躍しているミュージシャンだ。
彼はシンフェロポリの音楽学校やウクライナ国立音楽アカデミーでクラシックを学んだ。2016年に最初のジャズアルバム「Taterrium」をリリースしたが、エスノジャズに限らず、ポップスやクラシックなど幅広い音楽を手がけている。
彼の音楽にはクリミア・タタールのみならず、ウクライナ、さらにはアゼルバイジャンなど東欧の民族音楽の要素がちりばめられている。しかし、上述した2人のピアニストのアルバムには、アルメニアやアゼルバイジャンの民族性が時に強くにじみ出ているのに対して、このアルバムではそうした民族音楽的要素が全編に通奏低音のように貫かれているといった感じに仕上がっている。(Memories of YouやSydor Haytarmaという曲などでは民族楽器らしき木管楽器の演奏が聴かれるが)
アルバムには、レギュラーメンバーのほかに、1980年代にマイルス・デイビスのグループに参加していたMike Sternのギターをはじめ、トルコのSarp MadenのギターやフランスのHadrien Feraudのエレクトリック・ベース、レバノンのIbrahim Maaloufのトランペットなどがフィーチャーされている。最初に聴いたとき、アメリカの最先端のコンテンポラリージャズかと聴き紛った所以だろう。
Tigran HamasyanやIsfar Sarabskiのアルバムは少人数編成でピアノを前面に押し出した演奏が特徴的だったが、Usein Bekirovのこのアルバムは多人数の編成でUsein Bekirovのピアノはあまり目立たないものの、ソロ部分では流れるようなタッチを特徴とする彼の演奏が聴かれる。
*Usein Bekirovの経歴などに関しては、ウクライナ版Wikipediaを参照しました。
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