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ベーシックインカムは「AI・ロボット税」で

 私が資本主義の終焉を確信するようになって十数年経つ。きっかけは、自身が生業としてきた翻訳業で自動翻訳の利用が進み、私の仕事を脅かし始めたことだった。そのとき私は、今の言葉に置き換えるなら「AI・ロボットに仕事を奪われる」ことを実感した。

 以来、私はポスト資本主義社会について考えるようになったのだが、その過程で出会ったのがベーシックインカム(BI)の思想だった。私が実際に直面したように、「AI・ロボットに仕事を奪われる」危機に多くの人々が直面し、実際に仕事を失うことになれば、世の中は失業者であふれかえり、大変な事態になる。そのとき、ベーシックインカムがあれば安心だ。安心であるばかりでなく、人類は労働から解放されるのではないのか? 私はベーシックインカムに無限の可能性を見出した。

現実の政策課題としてのベーシックインカム

 当時、世界ではすでに大小様々なBI支給実験が様々な国で行われ、一国の特定地域レベルではBIに似た現金支給制度が実施されてもいたが、それから十年余りの間に、スイスではBI実施を問う国民投票が行われ(結果は残念ながら圧倒的多数で否決されたが)、またフィンランドでは全国規模のBI支給実験が国家プロジェクトとして推進された。さらに、BI実施を掲げる政党が政権に就いたイタリアやスペイン等では、部分的・制限的ながら実際にBI支給が開始された。

 ベーシックインカムは机上の議論から、すでに現実的な政策次元の問題になっているのだ。

ポストコロナ社会で加速するAI・ロボットの人間労働代替

 ベーシックインカムはポストコロナ社会においてますます現実味を帯びた課題として世界中で急浮上してくるだろう。なぜなら、コロナ以前から、2030年代には世界中の半数の人々がAI・ロボットに仕事を奪われるだろうという予測が提起されていたが、ポストコロナ社会では、AI・ロボットによる人間労働の代替がさらに加速するものと思われる。

 一部には、AI・ロボットによる人間労働代替に否定的な見解も依然として存在するが、代替過程はすでに始まっている。

 確かに日本でも、あるいは世界的規模で見ても、この間、失業率に目立った変化はないが、一方で不安定な非正規雇用労働者の比率が一貫して増え続けている。これは、見方を変えれば、今まで2人でやっていた仕事を3人でシェアしているのに等しく、受け取る賃金もそれに比例して減っている。そして、消えた労働はAI・ロボットに取って代わられたものと考えられるのだ。

 資本主義の歴史を顧みれば、大きくいって労働力は第1次産業(農業)から第2次産業(工業)、さらには第3次産業(サービス業)へと流れてきた。そして、人々の去った産業は、廃れるのではなく、機械化・合理化・ロボット化されて、人間の労働力に置き換えられてきたのだ。

 資本主義終焉期の今、産業の主流はAI、ICT等の「第4次産業」へと移りつつある。しかし、「第4次産業」は多くの人間労働を必要とせず、AI・ロボットに仕事を奪われた多くの人々は行き場を失うしかない。そして、ポストコロナ社会は、こうした「第4次産業革命」=ポスト資本主義化に拍車を掛けることになるだろう。

最大の問題は財源

 もし、半数の人々が仕事を失ったら、消費活動が滞って景気が沈滞し、デフレが進んで経済が回らなくなるばかりか、国家・社会そのものが存立の危機に立たされることになるだろう。解決策はベーシックインカムしかない。

 しかし、BIを論じる際に最大の問題となるのは財源だ。例えば、日本でユニバーサル・ベーシックインカム(UBI)を実施し、1人毎月12万円を支給すると仮定すると、毎年172.8兆円という膨大な費用が必要になる。

 それをもし、すべて消費税で賄おうとしたら、今よりさらに60%(!)も税率を引き上げなければならない。一方、年金、失業保険、生活保護費など社会保障費を大幅カットし、法人税、所得税、個人住民税、相続税の大幅引き上げに富裕税を創設すれば、なんとか実現できそうだが、その場合、大企業や富裕層の猛反発が予想される。

 MMT(現代貨幣理論)論者の中には、財源は税金でなくお金を刷ればいいと主張する者がいるかもしれない。確かに現在のように非常事態下のコロナ不況においては、毎月10万円の全国民を対象にした定額給付金は、有効であるばかりか必要なものといっていいかもしれない。だが、毎年172.8兆円ものお金を刷るなり国債を発行し続けたら、たちまち悪性インフレに陥り経済が破綻してしまうだろう。

皆が納得の解決策は「AI・ロボット税」

 しかし、心配はいらない。人々はなぜ仕事を失うのか? AI・ロボットのせいだ。では、企業は人々の代わりに働くAI・ロボットに賃金を払うだろうか? 払わないどころか、AI・ロボットは人間よりはるかに高い生産性を上げ、ストライキやサボタージュはおろか、文句ひとつ言わず、お望みなら24時間365日働いてくれる。そんなに都合のいい労働者はかつてどこにも存在しなかった。奴隷でさえ、サボったり、まれに反乱を起こすこともあった。

 だから、AI・ロボットが産みだした価値は社会全体の財産として共有されなければならない。少なくとも、その一部は「AI・ロボット税」として徴収し、ベーシックインカムとして人々に分配されるべきだ。そうしなければ、経済が回らなくなり、社会自体が崩壊の危機に立たされることになるのだから、AI・ロボットの所有者も異存がないはずだ。

詳しくは私の新著『「AI・ロボット税」でベーシックインカムを!-BIは「ポスト資本主義」時代への架け橋』を!


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