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ただ者でないティグラン・ハマシアンの「The Call Within」を聴く

 ティグラン・ハマシアンは今年33歳になるアルメニア出身のジャズピアニストで、すでに数多くのアルバムを発表し、その才能が注目されている存在だという。

 アルメニアという国について私が知っていることといえば、旧ソ連邦を構成した国のひとつで、カスピ海と黒海に挟まれ、アゼルバイジャンやジョージア、トルコ、イランと国境を接し、民族紛争の絶えない地帯にある小国、ということくらいだ。そのアルメニア出身のティグラン・ハマシアンが、現在、アメリカのジャズシーンのみならず、世界中のジャンルを超えた音楽ファンを魅了しているという。

 私は今回、新譜「The Call Within」を聴き、初めて彼の音楽に接することになった。

 アコースティックピアノを中心としたトリオ演奏を基本としながらも、ハードで融通無碍、斬新な演奏は、ものすごい熱量を感じさせる。ちょうど1年ほど前にブログで紹介したことのあるベルギー出身のピアニスト、カジミール・リベルスキの「Cosmic Liberty」の演奏に通じるものがある。

 奇しくもほとんど同年代のふたりは、10代からその才能を開花させ、アメリカを中心に活躍しながら様々な音楽を融合させたプログレッシブな音楽に挑戦している。また、偶然にもふたりとも、日本に関係する映画音楽を担当している。(ハマシアンはオダギリジョー監督「ある船頭の話」2019、リベルスキはベルギー映画の「東京フィアンセ」2014)

 ハマシアンはすでに多くのアルバムを発表しているので、過去の作品もいくつか聴いてみた。

 2015年にECMから出された「Luys I Luso」はアルメニアの聖歌隊とともに宗教音楽に取り組んだ作品で、ヤン・ガルバレクがヒリヤート・アンサンブルとジョイントし同じくECMから出した「Officium」を彷彿させる。

 同じく2015年の「Mockroot」はトリオを基本に、アルメニアのトラディショナルソングを取り入れたり、本作に通じる多彩な演奏を繰り広げている。

 翌2016年にECMから出した「Atmosphères」は、ノルウェーのミュージシャン3人と組んだ完全に北欧ジャズ風のECMサウンド。

 2019年の「They Say Nothing Stays the Same」は前述した映画のサウンドトラックで、私はまだ「ある船頭の話」を観ていないが、その映像がありありと目に浮かぶような透明感溢れるアコースティック・ピアノソロを聴かせてくれる。

 要するに、ティグラン・ハマシアンというピアニストは変幻自在で、上原ひろみの言葉を借りれば、「抽斗をいくつも持っている」。いや、彼の抽斗は無限かとも思わせる。(上原自身は「抽斗」の意味を、ピアノのテクニックやアレンジのバリエーション、というような意味で使っていたと思うが。)

 もちろん、いくら抽斗の数が多くても、中味が私の好みに合わなければ私には興味がないし、逆にたったひとつの抽斗、あるいはたった1枚のアルバムでも、私の心をつかめば、私にとっては意味があるのだが。

 今回、たまたま「The Call Within」というアルバムを聴いてみて、それが私の心をつかんだので取り上げてみたが、ティグラン・ハマシアンというミュージシャンがただ者でないことだけは確かなようだ。

https://music.apple.com/jp/album/the-call-within/1513048962


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原発事故で難民と化し世界を流浪する親子を描いた『亡国記』(現代書館)で第3回城山三郎賞受賞。他にSF小説『虚構の太陽』(KADOKAWA)等。

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