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神楽坂景観塾R 06


第6回ゲストレクチャラー
SUGAWARADAISUKE建築事務所 代表取締役
菅原大輔 Daisuke Sugawara
1977 年生まれ。建築家・クリエーティブディレクター・SUGAWARADAISUKE建築事務所代表取締役・FUJIMI LOUNGE店長。
早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了後、C+A tokyo / シーラカンス・アンド・アソシエイツ、Jakob+Macfarlane(フランス)、Shigeru Ban architect Europe(フランス)にて、10か国22都市のプロジェクトを担当後、帰国。SUGAWARADAISUKE(現:SUGAWARADAISUKE建築事務所株式会社)を設立。
「物語る風景」を目指し、まちづくりからから建築、ブランディングから被災地支援まで、分野を横断したデザインを行い、その仕事は国内外30以上の受賞実績につながっている。今年5月から、FUJIMI LOUNGEを運営し、マチ×ヒト×建築×モビリティ―による新しい地域活性の実験も行っている。法政大学・工学院大学などでの非常勤講師、山梨県・港区景観アドバイザーなども務めている。

前半は菅原さんに『建築の文脈・思考の文脈』についてレクチャーを頂き、後半は参加者からの質問を募集し議論を重ねました。以下、レクチャー及び議論の内容についてレポートします。

神楽坂景観塾の再開

 2020年2月26日に第6回神楽坂景観塾の開催が予定されていましたが、新型コロナウイルス感染症の感染予防を考慮し、延期させて頂いておりました。感染症予防を考慮し、神楽坂に事務所を構えるTetorからの配信という形で再開と致しました。

 再開にあたり神楽坂景観塾Rと改めまして、R=Remote,Renewal,Return,Reborn,Restartといった意味を込めました。

−はじめに

 菅原さんはSUGAWARADAISUKE建築事務所代表取締役とFUJIMI LOUNGE店長として幅広くご活躍されています。建築の設計に留まらず、自治体の景観アドバイザーや建築の思考を用いた教育や企業向けのビジネスワークショップ等をされています。

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レクチャー『建築の文脈・思考の文脈』

 菅原さんには、ご自身の建築的思考のお話と具体的なプロジェクトについて紹介して頂きました。


−物語る風景

 均質化していっている風景に問題意識を持ちながらその場所の物語を継承し、未来の新しい機能を持った「物語る風景」を作りたいと考え活動をしているとお話頂きました。その考え方をベースに、建築空間や広域な街のデザインやブランディング等をされているそうです。「物語る風景」という言葉は、社会構造が大きく変わる現在において、自然環境と人間の新しい関係を建築したいという思いから掲げられたキーワードとご説明頂きました。


−様々な出会い

 建築の仕事をされる時は、周辺環境から様々な文脈を読み解いていくそうですが、その仕事自体も菅原さんの色んな思考の文脈へと繋がり、様々な出会いが活動に繋がっているとのこと。そんな出会いの中から大きな3つの出会いについてご紹介頂きました。

 1つは学生時代に、恩師である古谷誠章さんという建築家に出会い、「衣服も建築である。そこにある家具も建築であり、そこから見える景色も建築である。それら全てデザイン対象であり、その場の環境を作っている。」と聞き、それが今の活動に大きく影響を与えている思考だとお話頂きました。また、学会の学生会議で出会った他大の仲間たちと話をすることで、各大学において様々な思考と正解を持っていることに気がついたとのこと。
 2つめはアフォーダンスの概念を提唱したことで知られるJJ・ギブソンとの出会いで、生態学的視覚論から大きな影響を受けたとお話頂きました。生態学的視覚論の考え方との出会いは、今現在の建築のコンセプトへも影響を受けているとご紹介頂きました。
 最後にスタッフ時代の出会いとして、小嶋一浩さんをはじめとするシーラカンスアンドアソシエイツ、デジタルデザインの先駆者的存在であるJacob+Macfarlaneさん、坂茂さんとの出会いがあるとお話頂きました。また、パリという街からも大きな影響を受けたとのこと。


−プロジェクト

 代表的なターニングポイント的存在になった仕事の紹介をして頂きました。

① 森のオフィス −環境全体をデザインする
 菅原さんが独立するきっかけとなったプロジェクトで、環境全体をデザインするというキーワードのもと、建築だけでなくランドスケープ、家具、サイン計画からアートの選定まで具体的に設計をされたとお話し頂きました。敷地を建築と外構の2つに切り分けながら、オフィスに必要な社長室などの小さなクローズされた空間と庭を一体的にデザインし、敷地全体が連携して多様な居場所群を作るという敷地全体をデザインすることに挑戦したとご紹介頂きました。

② 陸前高田の仮設住宅団地 −仕組みで生活の質をデザインする
 こちらのプロジェクトでは、森のオフィスでの全てを作りこむという事とは対照的に、細かいところまでデザインせず、いかに仕組みで生活の質をデザインできるかという挑戦をされたそうです。このプロジェクトの大きな特徴として、建築自体の設計をされていないとお話し頂きました。「ひねる」ことで視線をずらし、プライベートを担保しつつも、ずれた空間が庭になりコミュニティの核になり、インフラとの距離も調節していくという、開きつつ閉じるという事を配置でデザインしたとご紹介頂きました。

③山中湖村平野交差点バス待合所・観光案内所
−風景から導かれた、そこにしかない柔らかいグリッド
 街づくりのプロジェクトで、風景の文脈を引っ張り込みながら、そこにしかないグリッド形成と建築空間ができないかと挑戦されたとお話し頂きました。木造三角グリッドを採用した建築の形は3つの地域の風景軸から作られているとのこと。1つめは、南北の広場をつなぐための軸、2つめは富士山の視線とケヤキの遠景の軸、3つめは道路の軸であり集落全体の持っている構造の軸とお話し頂きました。様々な居場所が作られている中で、季節によっても居場所が変化して行くデザインの紹介もして頂きました。

④森の段床 −風景の断面を捉えた、不均質なドミノ
 個人の別荘において、森や土、幹、背後にある国道、断面的に変わっていく風景を捉えて、それらを設計に反映したいという思考から、5枚の床を積層させて設計したプロジェクトとご紹介頂きました。5枚の床面と木造グリッドによって、モリ×ヒト×モノの関係を編集し、風景そのものに暮らしているような居場所を目指したとのこと。

⑤内部空間に新しい風景をつくる
−言語を超えた「高貴さと可愛さ、そして喜び」をつくる
 東京・原宿にてエキシビション開催中の「LOUIS VUITTON &」のポップアップショップについてご紹介頂きました。説明的ではない、言語を超えた喜びを作って欲しいとオーダーを受け、デザインしたショップは「LOUIS VUITTON &」の7色のベースカラーを活用しながら、森のような内部空間を目指したとお話頂きました。

 「LOUIS VUITTON &」は2021年5月16日(日)まで入場無料(要事前予約)でお楽しみいただけます。お時間のある方は是非、足を運んでみてください。

⑥瀬戸内醸造所 −風景で構造化する建築、風景を構造化する建築
 ワインによって豊かな瀬戸内の海の幸、山の幸を繋げ、かつ瀬戸内の旅のきっかけにして貰おうというコンセプトのもと行われたプロジェクトだとご紹介頂きました。敷地はもともと造船所跡地ということで、困難な問題もあったそうですが、地元を元気にしたいという思いを受け止め取り組まれたとお話頂きました。瀬戸内の景色から導かれた建築物自体が風景を際立たせて構造化するような、風景と建築の関係が出来ないかと挑戦されたとのこと。

⑦FUJIMI LOUNGE −都市圏の経済活動をアップデートする
          郊外のmicro public network 駅前からバス停圏へ
 地域活性拠点のプロジェクトをする際、設計だけではなく場を運営することで、場のあり方の変化を捉えて、最終的には建築空間にフィードバックしていく事がしたかったとお話し頂きました。日本の街の構造が、駅前の商業地域とバス停圏の住宅地がバスで切って繋がれているせいで隣接する地域のコンテンツとは分節され、路線型交通で決定される行動範囲となっていると指摘されていました。それを、FUJIMI LOUNGEを含めシェアサイクルステーションを横軸として通し、駅前だけでなく、様々な歩行圏を繋ぐ小商いを支える新しい回遊性を作れないか試みたとのこと。また、シェアサイクルステーションのホットマップを活用しながら、人の動きと建築のあり方を同時に考えているとお話頂きました。


−3つの挑戦したいこと

 1つめに、設計事務所×公共空間の実験場を持ちたいとのことで、新しい地域性を実装し、最終的にはデザイン論の構築をしていきたいとお話頂きました。2つめは、まちと建築の設計ということで、計画学的研究とまちづくりコンサルタント的なことをする事で、研究と実践を繋げたいとのこと。3つめは、様々な企業とのビジネス展開、建築思考の社会的展開とその実装ということで、建築的思考を社会の意義あるものとして、実装していきたいとお話頂きました。


ディスカッション

ここからは、レクチャーを受け寄せられた質問や疑問を元に議論された内容について記しました。(ディスカッション内容は会場も含めた文章となっています)

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−言語化と非言語による言語化

“思考と言葉の人という印象があるのですが、前半のプレゼンで「こういう問題を、こう解決します」というかなり分かりやすい説明が多く、受け取りやすかったのですが、そういった説明の仕方をするきっかけになった出来事はなにかあるのでしょうか。また後半はもっと提案型のような、菅原さんの意思が入っている印象を受けたのですが、それはプロジェクトによるものなのか、ご自身の思考の変化なのか、どちらなのでしょうか。”

 言語化するきっかけはかっこいい話ではなく、どちらかというとある意味、自信の無さだと思います。言語化して相手に伝えられるようになるまで自分を納得させたいという事と、しっかり共有したいという気持ちが大きいからです。
 また仕事をする際は、言語化だけでなく必ずダイアグラムを書くのですが、シンプルで強いダイアグラムをいかに書けるかということで、非言語による言語化を目指しています。それはフランスにいた経験が大きく、拙い英語やフランス語でコミュニケーションを取るしかない環境で、言語を超えて伝わる絵を描かないといけなかった事が繫がっていると思います。
 意思っぽく感じたという事ですが、どう変化していったと感じたのかもう少し詳しく聞かせて下さい。

“より説明の仕方が説明的じゃなくなっていると感じました。つまり問題を解決するということ以上に複雑なことをしているように見えました。”

 それは恐らくですが、プロジェクトが段々と複雑化しているからだと思います。独立したての頃は、問いに対して答えを導いていくべきだと強く思っていましたが、プロジェクトが大きくなったり、関わる人数が増える中で、全てが言語化できない状況になっていきました。


−個別と全体、均質と不均質の間

“菅原さんは、プロジェクトで考えている思考とメタ的に考えている思考が入れ子状になっている様な面白い思考の仕方をされていると思っているのですが、それが建築にも現れていると思いました。複雑と言いますか、ぐるぐると色んな事を考えている思考が建築に垣間見えているという印象を持ったのですが、実際はどうなのでしょうか。”

 私の思考を作ったもう一人の出会いが、水野学さんというくまモンを生んだクリエイティブディレクターをされている方なのですが、水野さんがされているデザイン塾でプレゼンのいろはを叩き込まれた事が大きいと思います。人に伝えたい情報は、基本的には伝わらないとか、キャッチコピーで考えるとか、その癖をつけて貰った気がします。

 “加えて形の話をお聞きしたいのですが、割と分かりやすい形、例えば単純な丸とか三角とかを使いつつ不均質な空間ができ上がっていると思ったのですが、それも先ほどの話と関係があるのでしょうか。”

 シンプルな多様性を作りたいと思っています。例えばですが、森のような場所を作って下さいと言われた時に、本当に森を作っても仕方がなくて、そこから抽象的でシンプル何かを取り出すことで、周りに多様性が生まれると信じています。
 シンプルな形が均質なのではなく、不均質をつくるシンプルな形ってあると思っています。バラバラな状態を1このシンプルな形にできないかという事はいつも考えています。

 “それは、1このシンプルなものを考えてから複雑に展開していくのか、複雑なものをまとめるために1この形を与えるのか、どちらなのでしょうか。”

 独立して初めの5年間くらいは、1に対して100の案を作っていました。バラバラなポイントに絞ったバラバラな違う案をたくさん出していくと、徐々に収束していくという感じです。


−時間と空間の3スケール

“地域や周辺環境に融合していく建築物を考えていく上で、敷地周辺でどのようなフィールドワークや分析をされるのか、思考をする上で大切にされている概念を教えて頂けますでしょうか。”

 時間と空間の3つのスケールでリサーチをすることです。まず、過去でどう使われていたか、そして現在どうなっているか、最後に未来どうなっていくか、という時間での調べ方です。空間としては敷地自体の隣接する近景、そこからもう少し広げた地域、さらに遠景でみて、なにかきっかけになるものを見つけていくといった手順です。個性が大事という時代ではありますが、そんなに個性がある訳でもないので1つでも見つけることが大事だと思います。


−いつも見ているもの

“事例等はどのように調べて、どう建築に活かしていっているのでしょうか。”

 とにかく見まくる事。ウェブ中心ですが、書籍や色んなメディアをミックスして見ています。水野学さんの書籍で「センスは知識からはじまる」という本がありますが、知れば知るほど想定できる案が仮シミュレーションできますから、いかに調べられるかだと思います。無作為にたくさん読むという戦略です。

 “情報の集め方に菅原さんの秘密があるような気がしますが、どうでしょうか。”

 そういう意味でいうと、できるだけ海外のサイトを見るよう心がけています。言語を超えて伝わるものを調べています。リサーチも量ではなく、質の高さが重要だと思っています。

 “それはプロジェクトに関連して調べて見ているのか、日常的に見ているのか、どちらでしょうか。”

 私は日常的に見ていますね。好きだというのもありますし、面白い色んな仕事を頂く機会がありますので、常に見るようにしています。広告の雑誌など、建築からずれたメディアも定期的に目を通すようにしています

 “広告が多いのは、世間の動きに対してアンテナが高いからでしょうか。”

 1つは、建築土木はタイムスパンが長いので、瞬間を捉え、何がトレンドか理解出来るという事はあります。また、伝えるという事に対して貪欲なので、そこは学びたいと思っています。

 “プレゼンの中で「物語る」というキーワードが頻出するのも、それに関係しているのかと思いました。菅原さんは、伝えなきゃという意識が強いのかなと感じました。”

 あとは関わる人に物語って欲しいという事があります。周りの人が新しい物語を語って欲しいなと思います。

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−使い手によって紡がれる新しい「物語る風景」

“「物語る風景」として表現される空間や建築に対して、設計と受け取る側の印象が異なることがあると思いますが、そのギャップを埋める工夫はなにかあるのでしょうか。”

 ギャップを埋めようとしていないです。描いている未来もありつつ、1つの形にしますが、そこから先は使い方を含めて読み解いていって貰えれば良いと思っています。

 “それは、使い手は使い手で、自分の物語を紡げば良いということでしょうか。”

 設計者が最終的な理想形を決めるというよりかは、正解に近似した状態の選択肢をいかに沢山用意できるかだと思っています。


−物語の可能性

“均質化してしまった風景もその都市にとっては1つの物語になるのでしょうか。また、これからの景観、都市においての物語はなにになると思われますか。”

 均質化された空間も物語であるというのは同意します。でも、どんなに大きなプロジェクトも何かしらのコンテクストは背負っていると思うので、物語は必ず大なり小なりあって、そこをどう拾い上げるかということかと思います。

 “それはいろんなスケールによって物語のバリエーションは大きいですよね。”

 常にもがきながら挑戦して、いかにスマートにやった風に魅せるかということですかね。

 “人によって得意なスケール感ってあると思うのですが、バリエーションが多い事を武器にしている点は、菅原さんの面白いところだなと思います。”

 そういう意味でいうと、手に握れるくらいのスケールは苦手です。まだ本気でやる機会が無かったという事もあるとは思いますが......なんで苦手なこと自分から告白しているのでしょうか...。全然苦手じゃないのでお仕事待ってます!!笑


−地域性を実装する方法

“最近、まちづくりにおいて「地域」という言葉が使われることが多いですが、菅原さんの中で「地域性を実装する」という事について詳しく教えて頂けますでしょうか。”

 私は建築空間をつくるのでハードな人だと思います。そういう意味では、物理的なコンテクストをしっかりみるという、スケール感だったり、建ち方だったり、間?の取り方だったりを、いかに見つけ出せるかにかかっていると思っています。そういった物理的なコンテクストを、いかに引っ張ってこられるかという事ですかね。

 “山中湖でいうと、風景軸という様な、物理的環境特性が指摘されていましたが、ほかの事例でも物理的なお話になるのでしょうか。”

 基本的には物理的なものを見つつ、そこの暮らしや町?などを見て、そこから景観軸や構造軸などの話になっていくので、単純に物理的に見るのではなく、物理的コンテクストを通じて?生活習慣、気候風土を見ていくという事です。

 “風景の文脈を読み取りにくい地域からは、どうやって地域性を取り出すのでしょうか。”

 それは難しい問題だと思います。でも、今まではありがたいことに見つけることが出来ています。インテリアプロジェクトでさえも、地軸を利用したりします。きこりが方向性を大事にしていたという事と、そっちに景色が向けられるようにインテリアを向けるとかですね。

“ 菅原さんは小さいところから発見していく場合と、もっと大きなところから引用してくる場合の2通りがあって、それはスケールと時間の多様性があるからだと思います。”

 コンテクストが一見、全くないと思うような地域でも微分して見ていくとなにかしら発見できると信じてやっています。

 “それはどうすれば身につくものなのでしょうか。”

 ギブソンに回帰するのかなと思います。環境視という概念は、今でも私の設計に大きな影響を与えています。

 “ただ見るのではなくて、普段からギブソン的に見続けることが繋がっているのですね。”


−内部と外部の話

“外部空間に取り込まれたような内部空間の設計によって、どのような滞在者と町との関わりを生みたいと思っているのでしょうか。”

 建築物が透けて消えてしまうような状態にしたいという思いは常にあります。瀬戸内のワイナリーを例にすると、海と山としまなみしかなく、開発が進んで雑多な景色が広がっているのですが、建築が立つことで、建築が風景に溶けて状況になるという事です。建築物があることで、物理的なコンテクストが顕在化し、風景しかない場所にしたいと思っています。

 “街並みとして設計した建築物の外観がどう街並みに貢献していると思っているのでしょうか。”

 外観や色彩、ボリューム感もコンテクストにあっていて、内観視的なバラバラ感を外観に出す必要はないと思っているので、丁寧にオーソドックスに景観に寄与する建物を作っていると思っています。奇抜な建築、空間体験とおとなしい佇まいの建築は同居が可能なはずだと思っています。


−時間スケールを捉える

“遠い未来に残るものを作るときに、なにを手掛かりに考えて物に落とし込んでいるのでしょうか。”

 時間軸のリサーチで未来にどんなことが起こるかという事も考えますが、作り込みすぎないという事は気をつけています。

 “森の段床のような個人住宅の場合、100年先はどう考慮されているのでしょうか。”

 残って欲しいとは思っていますが、変わるものと変わらないものの間をグラデーションで繋ぐという事は気をつけています。違う時間のスケール軸をいかに受け止められる仕組みに詰め込めるかという事です。

 “建築に流れる100年の時間と地域に流れる100年の時間とで、どんな関係性を作りたいと思っていらっしゃいますか。”

 そのスパンで見始めると、次にどうバトンタッチできるかという話になっていくと思います。そこで生活した人がある種、引きあげた地域性を次に繋いでくれれば良いなと思うので、地域に流れる時間を強調したような時間を建築に繋ぎたいと思っています。

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−日本とフランスの違い

“日本とフランスとで、地域交流拠点における地域住民との関係性の違いや具体的なプロジェクトの中で工夫された事はなにかありますか。”

 フランスでは地域拠点の様なものは必要ないと思っています。日本は駅や道路ができると生活圏がそこにずれてしまいますが、ヨーロッパの街は、駅から遠くても教会の周りには街があって、中心がずれないんです。私が今、プロジェクトでやっている地域拠点は、ずれたものを取り戻す事だと思っていますので、それが日本とフランスの違いだと思っています。


−ウィズコロナ時代の物語る風景

“ウィズコロナの時代において、地域交通拠点のあり方については、東京ではどんな物語る風景が描けるでしょうか?”

 多様な徒歩圏をいかに復活できるかに尽きると思います。全部の場所を救えるとは思わないですが、良くも悪くも効率化された都市の中で、恩恵の受ける場所と受けない場所が多くあるので、バスという交通と多様な徒歩圏とそれを繋ぐ拠点を作れたらなと思っています。

                                                            ◇◇◇

 第6回神楽坂景観塾には初めてのリモート開催となりました。直接みなさんと同じ空間で議論できない寂しさもありますが、リモート開催となったことで、さらに幅広く神楽坂景観塾を知ってもらえる機会になったと思います。菅原さんからは、唯一無二の思考から生まれる素晴らしいプロジェクトを多くご紹介頂き、大変勉強になる回になったと感じています。大変貴重なお話を頂き、ありがとうございました。


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