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「ファタモル、メタスコア100になったってよ」…で、なにが起きたの?

前置き

 私のチームが開発した「ファタモルガーナの館」というノベルゲームのSwitch版が、欧米で4/9にリリースされました。その作品が大変な評価をいただき、一時期メタスコアが100という異常値を叩き出しました。今(記事執筆時点)は98です。
 メタスコアとはMetacriticという、各メディアのレビュー点数の集合値を出してくれるサイトで、海外ではこの点数が「そのゲームの面白さ」として参考にされやすいです。日本でもゲーマーの方々なら目にしたことがあると思います。このスコアの信憑性やMetacriticの詳しいことについてはここでは書きませんので、他のところをご参照いただければと思います。良いところ悪いところ含めていろいろな方が分析されています。
 メタスコアにはメディアスコアとユーザースコアがありますが、ファタモルガーナが一時的に100を出したのはメディアのほうです。そしてこのスコアは、メディアレビューが7つ以上存在しないと記録になりません。つまり7つのメディアが連続して100を出してくれたということになります。

 やったぜ!! ありがとう!! みんな愛してるぜ!!

 完

本題

 というところで終わってもいいんですが、滅多に起きる現象でもないので、何が起きたのか(あるいは起こらなかったのか)とか、開発者視点のお気持ち的な部分も書いていこうと思います。
 まず当然ながらユーザースコアは荒れまくります。どうやらメタスコア100として初記録されたゲームは、「ゼルダの伝説 時のオカリナ」以来だそうです。時のオカリナ、神ゲーだよね。それにビジュアルノベルが並んでしまったということで、海外のゲーマー諸兄諸姉は怒り狂い、少し論争にもなったようです。しかも近年の超神ゲーであるブレスオブザワイルドの上(ブレワイは97)になってしまったわけです。ブレワイ、マジで神ゲーだよね。まあ、そりゃ、怒るか……。
 私は海外ゲーム文化に造詣が深いわけではないのと、英語がばりばりに出来るというわけでもない(普通よりは多少読み書きをする程度)ので、これらの騒動について詳しく説明することはできないのですが、荒れるのは理解できます。

 当然のことながらブレワイも含めて、メタスコアの上位にいるゲームは数多くのゲーマーの支持を受けており、メディア・ユーザー含めてレビュー数は凄まじいです。それらと7つ(今は8つ)のメディアレビューを受けた同人ゲームを同列で語るものでもないと思いますが、Metacriticのサイトの見え方としては、それらの大型ゲームと並んだ状態になってしまいました。ブレワイより紙芝居ゲーが上だと!? ふざけるな! そう怒ってしまうのも致し方ないと思います。
 誰もが評価して誰もが神ゲーと認めるゲームと、一部の層に受けるビジュアルノベルが並んでしまったら(あるいは上になってしまったら)、これは正常値ではないと思うでしょう。

 誰かがこんなことを言っていました。「ビジュアルノベルは評価されるポイントがストーリーなのだから、ゲーム性の部分で評価されない分、減点される箇所がない。ストーリーがよければ満点になってしまう。他のゲームと比較するのは不公平だ」……と。ここでビジュアルノベルがゲームかゲームでないか論争をするつもりはありませんが、一理あるのかもなと思います。ビジュアルノベルは表現媒体として素晴らしいと思っていますし、ただただビジュアルノベルだからといって下に見るのはどうかと思いますが、批評として判断すべき場所が他のゲームと比較して少ないのは事実です。
 8つ目のメディアが80点をつけたことで、ファタモルガーナは98点になりました。私は80点も充分に高得点だと思っていますし、過分な評価をいただいているなというのが率直なところです。
 
 とはいえ、いくらメタスコアがぶっ飛んでいるとはいえニッチな層のゲームに違いないですし、マーケットの規模も違いますし、開発規模も雲泥の差ですし、同じ土俵で語るものではないとみんな分かっているはずなのだから、そんなによってたかって怒らないでくれよ〜というお気持ちも多少ありますけど笑
 まあそれでもMetacriticの見え方がこんなことになっている以上、仕方ないですね。

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開発者でも異常だと思う


 幸いだったところは、Steamレビューが荒れなかったことでしょうか。あくまで荒れているのはメタクリのユーザースコアだけで、ほかに火が飛び散らなかったのはよかったです。Steamは今の生命線なので……。


メタスコア100(今は98)になって何か変わった?

 これは人によって感じ方が変わりそうですが、私としては充分に変わりました。メタスコアが出てからSteamの売上も伸び、Switchも想定以上でした。※なおどちらも海外の話です。日本は依然として厳しい。そんななかでも本作を見つけて遊んでくれたみなさんありがとう…

 具体的な数字を言うと、二ヶ月で2万本くらい(SteamとSwitch合わせて)出たと思います。これを「メタスコア100になったのにそれだけ?」と思うか「ビジュアルノベルで二ヶ月2万はすごい!」と思うかはお任せしますが、私個人は後者の感覚です。元々は、開発費がペイできて数ヶ月まわせる資金が稼げれば、という思考だったので。はっきり言って、いけて2000〜3000本だと思っていました。
 PS4の時はここまでのことにはならなかったので、やはりMetacriticの力と、Switchの力はあると思います。
 運がよかったと思いますし、ありがたい、というか救われたという感じです。

 ファタモルガーナは、日本でも同人ゲームとして高く評価をいただいていますが、マーケットとして成功しているとは言い難く、知る人ぞ知るゲーム、という感じになっています。題材がものすごく重いですし、その上エロゲーでも乙女ゲーでもギャルゲーでもない、不思議なビジュアルノベルなんですよね。日本でSwitch版が出た時、誰かが「これはどこの層を狙ったゲームなんだよ」と呟いていましたが、そう思われるのも致し方ない気がします。
 同人ゲームはそういうものだと思いますけど、Switchで出ている時点で商業ゲームの扱いになるので。マーケットでの戦略は難しいですね。

 ファタモルガーナはギャルゲー/乙女ゲーどちらの層に引っかかりにくい作風だったのでマスを取り込めてない感はありました。やはりビジュアルノベルだと、有名作を思い返してもまずはどちらかの下地があるように思えます。ビジュアルノベルではないADV作品であれば、逆転裁判やダンロン、AIソムニウムなど中道を狙ったミステリーゲームもありますが、あちらのマスを取り込むにはミステリーゲーム感がなかったと思います。
 ただ海外に関して言うと、逆転やダンロン系の推理アドベンチャーも、いわゆる通常のビジュアルノベルも、なぜかすべてビジュアルノベルのタグでまとめられているので、日本ほど層が分かれてないのかもしれません。ここが海外で評価が高い一因でもあるのかなあと思いますが、正解はわかりません。教えて造詣の深い人。


 今まで、日本のみだと次の開発費用を稼ぐどころか、生活費をまかなうのも難しい状態でした。Steamの売上を頼りに生活しつつ、外注仕事で新作費用を稼いだり、最近ではFanboxで皆さんから支援をいただきつつなんとか牛歩で先を目指すような日々が続いていた感じです。ただこのままだと、新作を開発する時間を捻出するのが難しく、先細りの死が見えていたので、海外でのコンシューマ展開をきっかけに移植を完全内製に切り替え、原作のIP保持者ではなくディベロッパーとして参加することでロイヤリティ配分を見直してもらい、まとまった資金を得られるよう計画を変えていきました。(日本でVita展開をさせていただいた時は、移植は先方だったため、ロイヤリティは数%でした。声優費用や追加エピソードのイラスト費用を先方が負担していただいているが故の割合でもあります)
 ニッチなゲームで売上の天井は予測出来るのだから、そのなかで最大限の資金を得られるような枠組みにしていかないとならなかったんですよね。このままゲーム開発を続けていくのであれば。
 上記は当たり前のことですが、実行に移すのがなかなかできませんでした。完全内製もそれはそれでリスクがあるので。
 話が脱線してきましたし、このへんの話は長くなるので、いずれ機会があれば完全内製でのコンシューマ開発と海外展開について書ければいいなと思います。超…大変だったよ…。

 コロナもあり欧米Switchの発売が遅れに遅れ、かなりしんどい状況にもなっていたのですが、結果的に販売数も想定以上のものとなり、内製したおかげでロイヤリティも良い条件で合意ができ、まさに「救われた」あるいは「命拾いした」という感じです。
 おかげで新作に集中できそうです。今、ばりばり進めています。いろいろあって、実は前に発表したRPGではないものを作っているのですが(制作中止ではありません。また改めて告知を出します…!)、ビジュアルノベルではないものに挑戦しています。
 新作については近いうちに、ちゃんと情報を出します。お待たせし続けて申し訳ない限りです。noteで書いてそれっきり、にはしませんので、もう少しお時間をください。


メタスコア100になった結論

 過分な評価でビビるお気持ちがありつつも、開発者としては素直に「救われた」
 それが結論です。
 ありがとうSwitch、ありがとうMetacritic、ありがとうLimitedRunGames、ありがとうレビュワー&プレイヤーのみんな、そしてありがとう怒れる諸兄諸姉……。


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100だった時の記念スクショ

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