たむらしげるの世界
最近、というか数年前から少しずつたむらしげるの作品を収集している。
たむらしげるとは、1949年生まれ、絵本「ありとすいか」で作家デビューし、漫画雑誌「ガロ」での漫画掲載や企業広告、教科書の表紙や映像作品など多岐に渡り活躍している。
代表作は自身の世界観を一つの惑星に凝縮した作品集「phantasmagoria」だろうか。
2022年にも「phantasmagoria」から約30年ぶりの集大成とも呼べる「たむらしげる作品集 ultramarine deep」が発刊されている。
たむら氏と言えば、まず何と言っても透明感。
最低限の色彩に人物や物体などが絶妙な配置でレイアウトされている。
特に青色の画面が多く、静謐でアンビエントな雰囲気が特徴的だ。
引いた構図がほとんどで、きっちりと全体にピントが合っている。
広角レンズを使用して被写体と一定の距離を置いて世界全体を写している写真のような印象。
これがとても心地よい。
かなり初期からMacintoshのコンピューターを用いて描いているらしく、独特で抑揚のない線と色彩はローテクな初期コンピューターの味を活かすのにもってこいの技法だと感じる。
絵の具は混ぜると暗くなると言うが、単調な色をそのまま置いていくことで、むしろ透明感が増すことをたむら氏は知っていたのかも知れない。
透明感はコンピューターを使うより前、デビュー作の「ありとすいか」から、これでもかと漲っているので、ツールの問題というよりは本人の持っている資質によるものが大きいだろう。
その資質がコンピューターと上手く合致して他に類を見ないイメージの生成に繋がっている。
たむら氏の作品の多く、ほぼ全てと言っても過言ではない登場人物に老人とロボット(ランスロット)がいる。
他には少年や頭部が星になっている星人間、サボテンやサボテンが人間のようになったサボテン人なども度々登場する。
人間社会からある種逸脱したような存在たちが、宇宙や空想の中で暮らしている様子を眺めているような世界観だ。
少年と老人は社会からの束縛を受けない存在として自由に空想することができる。それは遥かなる未来や宇宙を想像してみたり、遠い過去を懐かしんだりできる自由だ。
成人し、社会の中であくせく生きる世界ではこういった自由は隠される。
幻想や空想、過去を懐かしむことは目の前の生産性に帰依しないと無意識に叩き込まれ、仕舞い込む。
私の勝手な想像だが、たむら氏は少年や老人に自由を仮託してイメージの中へ度々登場させるのかも知れない。
そしてロボットのランスロットは老人に同行する。
ロボットという自然から逸脱した外部の存在が無垢に世界を歩き回り、人間に同行し、ただ寄り添う姿はまるで天使。
たむらしげるの幻想的な作品は、一見して人間的な悩みや感情とは縁遠く、静謐でほのぼのとしているように見えるが、基調とする世界観には孤独や死の匂い、あの世のような雰囲気がそこはかとなく漂っている。
wikiでは宮沢賢治や稲垣足穂から影響を受けたと書かれているが、確かに似た雰囲気とモチーフがある。
ちなみに稲垣足穂の「一千一秒物語」の挿絵をたむら氏が描いている本もある。
多くはカラー作品だが、「METAPHYSICAL NIGHTS」というモノクロ作品集も存在し、これまた素晴らしい作品集。
「METAPHYSICAL NIGHTS」のイメージはモノクロだが、印刷の階調が滲んだ部分が淡いカラーになっている不思議な作品。
コンピューター感が強く、お粗末にも画質が良いとは言えないがイメージとしては抜群に綺麗に仕上がってるところも不思議。
モチーフは幻想的なのに、写真機発明初期の写真を見ているような懐かしさがあるところにある種の倒錯感があってかなり好きな作品。
紹介したものは紙媒体の一部だが、「銀河の魚」「くじらの跳躍」などのアニメーションも完成度が高く本当に凄い。
他にも素晴らしいたむら氏のイラストや絵本が数多く存在するので持っていないものを地道に集めていきたい。
本来、収集癖などこれっぽっちもない私が集めたくなる程、何か自分の中の琴線に触れるイメージがあるのかも知れない。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?